2.噂


「――はあ……」


 冒険者ギルドにやってきた俺は、早速仲間やパーティーを募集し始めたわけだが、出てくるのは溜息ばかりでまったく音沙汰がなかった。


 面倒だと思いつつも久々に頑張って自己紹介文を作り、パーティー募集用の掲示板に貼ったんだが、誰一人として俺の座るテーブルに近寄ってこないのだ。


 一体どういうことだ? まるで俺のいる周辺一帯、見えなくなる結界でも張られて存在すら認識されてないかのようだ。おかしいなあ。こんなはずじゃ……。


 そもそも召喚術師ってこんなに需要の少ないジョブだっけか? むしろ人気のあるジョブだと聞いてたんだが。俺は何か妙だと思い、パーティー掲示板を念入りに確認することにした。


「……あ……」


 一つの貼り紙が目に入る。


 要注意人物名:ディル


 性別:雄


 ジョブ:召喚術師


 外見の特徴:ちょっと長めの髪と顎鬚、やる気のなさそうな垂れ目、中背中肉、ぶかぶかの青装束。


 問題行動:女性にはセクハラ、男性にはパワハラで接する最悪の男です。勇者パーティーから総スカンで追放され、血眼で奴隷候補の仲間を物色してる最中ですが、極めて横暴、凶悪な動物的人物なので、見かけたらどうかご注意を!


「おいおい……」


 なるほどなるほど。既に勇者マイザーたちに手回しされていたってわけか。これじゃお呼びなんてかかるはずもないな。ちゃんと勇者のサインも記してあるし完璧だ。


 しかし大してむかつかないのはなんでだろう? 多分、やつらのやることがあまりにもしょうもないことだからだろうな。ここまで恨まれることをやった覚えはないんだが。


「……」


 それでも、腹は立たずとも腹は減ってきた。得意の召喚術がこういうときに使えればいいんだが、これはあくまでも戦闘用で、発動させるには自分以外のターゲットを倒すために使用することが前提な上、精神力もかなり消耗する。


 うーん……この分だと誰も来ないだろうし、一人で依頼をこなすのもしんどいよな。それならギルドから立ち去って新たな仕事を探すとしようか。


 よくよく考えりゃ、俺の脱力系召喚術じゃパーティーに入れてもらったとしてもすぐ舐められて追い出されるだろうし、召喚術で何が飛び出すかわからないという個性を生かして見世物小屋でも開くほうが得策だな。昆虫かなんか集めてそれをターゲットにすりゃいいんだ。


「――あの、ちょっとそこの旦那、よろしいですかい?」


「え?」


 ちょうど立ち上がったときだ。誰かに野太い声をかけられた。ガタイはいいが身なりの悪い乞食みたいな髭面の男だった。


「な、なんだ?」


「仲間を探してるみてえで……へへっ、そういうことなら是非あっしらの仲間になっちゃくれねえかと思いやして……」


「……」


 やたらとガラが悪い感じなのに妙に低姿勢で、どう見ても怪しさ満点だ。


 溺れた者は藁をも掴むというし、それを見越して俺を騙し、味方になる振りをして金品を巻き上げようとしているケースだろう。


 こんなもんで俺を騙せるとでも思ってるのか。せめて美少女を連れてこいと言いたい。いくら追放されたとはいえ、バカにされたもんだな。


 まあとりあえず、この男の目的がなんであれ面白そうだし付き合ってやるか。


「ああ、むしろこっちから頼むよ。ちょうどパーティーを探してたからな」


「おおっ、そりゃありがてえ! あっしは戦士のラルフっていいやす!」


「俺は召喚術師のディルだ。噂になってるみたいだから知ってるかもしれないが」


「へい、そりゃもちろん。へへっ……」


「そうか。それなら話は早い」


 よーし、盗賊の巣まで案内されたらこの男ごと一掃してやるか。正当防衛として返り討ちにしてやったあと、逆に金を巻き上げてそれを食事代にしてやればいいんだ。いやー、我ながら名案だな。実に楽しみだ……。

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