夢の跡地

ふくしあ

第1話

 深海のような住宅街を、生温い街灯の光がぽつりぽつりと照らしている。

 私は固い道路の上を走る。

 後ろから追ってくる銀色のハイエースから出された眩しい光が、やけに殺気立っているように感じた。青年の姿をする私以外に、また違う青年が3、4人。

 脚は驚くほど軽やかに回り、風に抱かれたような心地良さすらあった。恐怖や緊張もあったが、なぜだか追い付かれる気はしなかった。全身が興奮しているのが分かった。

 あの車に捕まったらきっと死ぬ。いや、そのまま轢き殺されるかも分からない。それでも彼らは、かけっこをしているに過ぎないのだ。

 やがて彼らは、歌を歌い始める。

 息を切らしながら、一人が歌い、それに続いてもう一人が歌う。昔見たアニメ映画の、冒頭の歌。徐々に声は積み重なり、彼らはむしろ吠えるように歌っていた。

 やがて私は、劇場の赤いシネマシート掛けてにいることに気が付いた。

 スクリーンには先ほどまでの景色が流れていた。辺りを見回してみると、見慣れない洒落た、西洋風の劇場だった。他に客はいなく、静かだった。外へ出ようとすると、出口の前に、白いコートを着た一人の紳士が立っていた。紳士といっても、デッサン人形に服だけ着せたような、無機質な男だった。

 ガラガラの劇場にいるのは僕とあの男だけだ。彼はで確かにけいをじっと見ていた。

 吸い寄せられそうなその視線から目を逸らした時、彼はとある寝室にいた。

 畳に敷布団が3つ並んだ、木造の壁で囲まれた寝室。障子の外からの涼しい空気と、ほのかな月の光を感じられた。

「もういいでしょ」

布団に入りかけている成河こはくが言った。

 彼女の姿を見た京はまもなく察した。

 これが夢であることを。

「じゃ、おやすみ」

「……おやすみ」

 彼女は掛け布団に身をくるめ、眠った。夢の中なのに、と京はいつも思うのだった。

 彼女は決まって、真ん中の布団で眠るのであった。

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