第13話 はたけを たがやしますか?
2020/10/30に大幅に改訂しました。
改訂はここまでになります。一応チェックはしてますが、
かなり話を前後したので、若干時系列が乱れている可能性はあります。
話の設定の上で、まだ主人公たちが知り得ていないはずの情報、矛盾点などがありましたら、
ご一報くださいませ。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
俺たちは村長宅に案内された。
仕切りにお腹を鳴らす俺たちを見かねて、村長は食べ物を出してくれた。
だが、出てきたのはやはりお湯に雑草が浮いただけの汁だ。
今の村の状態では仕方がない。
俺は何も言わず、汁をすすった。
正直味はしないけど、とりあえず食べ物をお腹に入れることができたのは、有り難い。
「すまんのぅ。こんなものしかなくて」
「いえ。お構いなく。やはり食糧不足が喫緊の課題だな」
「暗黒大陸は作物を育てるには不出来な土地でのぅ。ずっと空は曇っておるし、土もあまりようない。なんとか作付けはするが、半分芽が出ればいい方じゃ」
冬になると一層寒さが厳しく、毎年のように餓死者を出していると聞いた。
加えて、ブラムゴンができあがった食糧の一部を持っていくという。
これでは、村人たちが暗い顔をするのも無理もない。
「ドリアード、ずっと空が曇っているのと、土壌がよくないのも精霊が封印されているおかげか?」
俺は心の中にいるドリアードに話しかける。
『はい。空が曇っているのは風の精霊、土の原因は土の精霊が封印されているからでしょう。冬の寒さが厳しいのは、火の精霊でしょうね』
「なるほどな。ドリアードは精霊が封印されている位置はわかるのか?」
『残念ながら……』
となると、環境の問題を解決するのは、後回しだな。
一時しのぎでもいいから、食糧問題を解決しないとダメだ。
村人に協力してもらうためには、まずは生きる希望を与えてやることが先決だろう。
「ダイチ様……」
ルナは目で訴える。
「任せておけ、ルナ。俺の育成は、何も人材だけではないところを見せてあげるよ」
俺は自信満々に胸を叩く。
するとルナは「はい」と嬉しそうに微笑むのだった。
◆◇◆◇◆
外にやってきた俺は、早速畑に向かった。
手で土を掬い上げて、土を固める。
だが、すぐに崩れてしまった。
土の中に水分がなく、ほとんど砂みたいになっている。
これじゃあ養分も全部流れてしまっているだろう。
「どうですかな?」
「うん。この土じゃ確かにまともに育たないだろうな」
「そうですか?」
村長は項垂れ、深く溜息を吐いた。
「だが、土を変える方法はあります」
「それは?」
「まあ、見てて下さい」
【
地面に手をつき、俺はいつも通りスキル名を唱える。
一瞬にして、地面の土が変わった。
やせ細った土ではなく、黒々としたまともな土だ。
「これは!?」
村長は前歯が抜けた口をあんぐり開けて固まっている。
見学していた村人たちも驚いていた。
【
土は生き物だって農家の人が言っているのを聞いたことがあるけど、どうやら無生物として対象に含まれているようだ。
ここでいう土というのは、俺の認識が大きく反映されている。
俺は一般的に考える土の姿を、【
「すごいなあ!」
「この土なら」
「ああ。作物が育つかもしれません」
「ダイチ様、どうか他の畑も」
奇跡を目の当たりにした村長は、俺に懇願する。
「待って下さい。この土と元からあった土を混ぜ合わせて使って下さい」
「それは――――」
残念ながら、この土にはミミズのような生物や、微生物が含まれていない。
【
このまま作物を植えたところで、すぐに土地がやせ細ってしまうだろう。
いくらやせ衰えたところで、元の土の中には多少なりとも微生物が含まれているはずだ。
いい土と混ぜ合わせて、微生物が増えれば、この作戦は成功となる。
理由を話すと、村人たちは早速手伝ってくれた。
少しずつだが、希望を持てるようになってきたのだろう。
ルナも目をキラキラと輝いていた。
「ダイチ様はなんでも知ってるんですね。ミミズは見たことありますけど、土の中に目に見えない小さな虫がいるなんて初めて聞きました」
「魔王城の側で密かに家庭菜園をしていたんだ。その経験が生きて何よりだよ」
魔族が持ってくる料理は、実はあまりおいしくない。
原因は食材だった。使ってる素材からあまり俺の口には合わなかったのだ。
そこで家庭菜園を開始して、野菜を育てることにしたのだ。
ネットのうろ覚えの知識を頼りに始めたのだが、これが思いの外うまくいった。
最初は俺の分だけを作っていたのだが、俺が作った野菜を食べたエヴノスが感動して、もっと作るように要望してきた。
おかげで魔王城の近くには大農園が広がり、牧歌的な風景が広がっている。
俺が生み出した土と、元からある土の混合が終わる。
綺麗に畝も作り、畑を整えた。
いよいよ種を撒いていく。
「ダイチ様、種はどうするんですか?」
「それはもう話を付けてある」
【
再びドリアードを呼び出す。
「ダイチ様、どんな種をご所望ですか?」
ドリアードは木の精霊だが、植物全般に精通している。
ここに来る前、相談したのだが、どんな種でも出すことができるそうだ。
「とりあえず、今の日差しでも育つ野菜か果物がいいな。まずジャガイモは鉄板だな。他にはフキとレタス、あとイチゴとか」
『かしこまりました』
ドリアードはそれぞれの種を生み出す。
実はマナストリアと、俺が元いた世界の野菜や果物は酷似している。
俺の言葉は自動的に現地語に翻訳されるようになっているのだが、リクエストした種そのものがドリアードの手の平からこぼれ落ちた。
ジャガイモは種芋、イチゴは苗で、フキは地下茎を1本もらう。
こいつは助かる。
種から育ててたら大変な作物ばかりだからな。
作物ごとに畑を分け、適宜石灰などの肥料も加える。
石灰は無生物だから、【
白い石灰を出す俺を、ルナが何故かじっと見つめている。
えっと……ルナ。なんか見られていると、凄く照れるんだけど。
あとは農業の知識がある村人に任せておけばいいだろう。
わからないところは、俺がアドバイスしていけばいいんだし。
「ダイチ様、いつ頃獲れるでしょうか?」
「そうだなあ……」
さすがに今すぐとはいかないな。
この環境下じゃ発育も悪いだろうし。
「その間に、我々が生き残ることができるかどうか」
村長も、村人たちもシュンとなる。
「項垂れるのはまだ早いぞ、みんな」
俺はパンパンと手を叩き、注目を集める。
「植物なんかより遥かに成長の早いものを俺は知っている」
「ダイチ様、それは?」
ニヒッと俺は笑うと、村人たちを指差した。
「人間だよ」
「人間……?」
「どういうことだ?」
村人たちはざわつく。
さすがのルナもピンと来てないようだ。
「これから俺がみんなを強くする。今日中にだ。そんで食糧を奪い返す。ブラムゴンからな」
「ブラムゴンから??」
「そうだ。あるんだろ、この近くに」
ブラムゴンの屋敷が……。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
本来なら村人教育パートですが、すっ飛ばして次回は屋敷侵入編です!
お楽しみに!!
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