おまつり

 夏祭りが近づいた日。

 女バス同好会のメンバーは、ファミレスで談笑していた。


 エリが尋ねる。

「ねぇ、夏祭りどうする?」


 シノブが答える。

「あたしはいくよ。もう浴衣用意してある」


 ハヅキが答える。

「ワタシも浴衣はバッチリ」


 ミサキが答える。

「ウチも浴衣準備済み」


 アヤネが答える。

「アタシも」


 サユリが答える。

「私も」



 ミサキが言う。

「シノブはヒラタ君と一緒だよね?」


 シノブが答える。

「うん、でもサユリについてきてもらうことになってる」


「へぇー、健全だね」


「まぁね。ミサキはシモオカ君誘ったの?」


「誘えるわけないじゃん。そこまで勇気ない」


「シモオカ君ならいい返事くれそうだけどね」


「そうかな?」


「キョウヤ君に何名か誘ってもらう?」


「え? マジ? 確かにグループのが安心できるかも。誰を誘う?」


「希望ある?」


 アヤネが言う。

「エリはキタガワ君が気になってるんでしょ?

 せっかくだから話してみたら?」


 エリが返す。

「え? まだ本気じゃないし、なんとなくって感じだよ」


 アヤネが返す。

「だからこそじゃん、グループなら話しやすいでしょ?

 サユリはどうおもう?」


 サユリが答える。

「私? ミサキとエリか……。

 シモオカもキタガワもかなり脈あると思うよ。

 二人とも、彼女欲しいオーラ出しまくりだし」


 ミサキが返す。

「ちょっとそれ酷くない?」


 サユリが返す。

「でもそんな感じだよ?」


 エリが言う。

「そっか、サユリって普通に男子と話すものね。詳しそう、もっと教えて」


 サユリが答える。

「アヤネに気がありそうなのはキバとかモトハシじゃない?

 視線でわかるよね」

 

 エリが返す。

「あはは、最高。ほかには?」


 サユリが答える。

「ハヅキは、何度も告られてるから選びたい放題じゃないの?

 好きな子いないの?」


 ハヅキが答える。

「ワタシは恋愛モードじゃないからパスかな」


 エリが返す。

「ハヅキは、あいかわらず高嶺の花だよね。

 サユリは?」


 サユリが答える。

「私? 恋愛モードってことになってるけど、気になる人はまだいない感じ。

 私もパスかな」


 ハヅキが言う。

「だったらシノブの邪魔しないでワタシといこうよ」


 サユリが返す。

「ハヅキと? シノブがいいならそれでもいいけど」


 シノブが答える。

「あたし? うーん……ちょとこまるかも」


 ハヅキが言う。

「えー、いいじゃん。たまにはサユリかしてよ。

 いつも二人一緒なのだからいいでしょ?」


 シノブが答える。

「うーん……わかった」


 ハヅキが言う。

「やったぁ、じゃぁ、どうしよっか?」


 サユリが返す。

「ヒラタにシモオカ、キタガワ、キバ、モトハシ誘ってもらって、シノブ、ミサキ、エリ、アヤネが合流して、シノブ達が離脱しちゃう感じでいいんじゃない?」


 ミサキが言う。

「キバ君と、モトハシ君両方呼ぶの?」


 サユリが返す。

「アヤネ次第じゃない?

 気に入らなければそれでいいわけだし。

 アヤネはどうなの?」


 アヤネが答える。

「ほどんど面識ないからいい機会かもしれないとは思ってる」


 エリが言う。

「なら決まりだね。ハヅキはサユリとデートってことで」


 シノブが言う。

「あー、でもずっと一対一だとやっぱり心配だから、あたしはハヅキとサユリにあとで合流するのでもよい? 時間と待ち合わせ場所決めといて合流しよ?」


 ハヅキが言う。

「ヒラタ君かわいそう。泣いちゃうよ」


「キョウヤ君は大丈夫だから。

 それに女子だけだと危ないよ。

 帰りはキョウヤ君に送ってもらお?」


 ハヅキが言う。

「しかたないなぁー。

 で、着付けできない子いる?」


 ミサキが言う。

「え? みんなできるんじゃないの?」


 アヤネが答える。

「なにその女子力、アタシできないよ……」


 エリが答える。

「私もできない……」


 シノブが答える。

「あたしはできるよ」


 サユリが答える。

「私もできる」


 アヤネが答える。

「うそ? サユリできるの!?

 まさか女子力で、サユリに負けるとは……」


 サユリが答える。

「イメチェン宣言したら、ママがその気になっちゃって猛特訓させられたの」


 ハヅキが言う。

「サユリ、日に日に女子力上がってるものね。

 私が、エリとアヤネに教えてあげるよ。みんなの浴衣姿見たいし。記念撮影しよ」


 アヤネが言う。

「さすがハヅキ。男子には塩対応だけど、女子には甘々だよね」



 ……



 夏祭り当日。

 約束の時間よりも少しだけ早めに女バス同好会のメンバーで集合し、スマホで撮影会をした後に、ハヅキとサユリは一足先に離脱した。

 

 ハヅキはサユリより身長が10センチほど高かった。

 二人は、手をつないで露天を回っていた。


「シノブは、ずるいな。優良物件の彼氏持ちなのに、サユリまで独占してる」


「なにそれ?」


「今日はサユリを独り占めできて嬉しいってこと」


「そうなの?」


「本気だからね? サユリ結構人気あるんだから。

 シノブとべったりすぎて隙がないだけなんだよ?

 最近は特に可愛くなってきてるしね」


「それは気づかなかったかも」


「自覚持ったほうがいいよ。

 気をつけなよ」


「わかった」


「サユリってシノブとお泊まりとかよくしてるの?」


「たまにだよ」


「よかったら、今度、うちに泊まりに来ない?」


「うち、厳しいから、余所の家でお泊り禁止なんだよね」


「じゃ、シノブはサユリの家でお泊まりしてるの?」


「うん」


「そっか、いいなぁ」


「くる?」


「いいの?」


「うん。でもシノブと一緒でいいならだけど」


「えー、二人っきりで過ごしてみたいなー」


「今過ごしてるじゃん。

 スマホアプリで長時間通話もしてるし。

 私たち結構、一緒に過ごしてるよね?」


「そうだけど、シノブとの時間が長すぎない?

 彼氏持ちだよ?

 少し離れたほうがいいんじゃない?

 ヒラタ君がかわいそうだよ」


「そう言われると確かにそうなのだけど、

 シノブがそうしたがってるから」


「サユリはヒラタ君とも仲良いよね?

 席、隣同士だし」


「うん」


「3人はどんな関係なの?」


「親友と恋人?

 ヒラタと私はただの腐れ縁みたいな感じだけど」


「ふーん。

 ちなみに、どっちが親友でどっちが恋人?」


「あはは。何言ってるの?

 〝ウエダ=シノブとヒラタ=キョウヤ〟が恋人に決まってるじゃん」


「ワタシには逆に見えちゃうのよねー」


「流石にそれはないって。

 勘ぐりすぎ」


「そう言う関係って、気持ち悪いと思う?」


「女子同士ってこと?」


「うん」


「全然。気持ち悪くないよ。

 むしろ、応援するかな」


「本当に?」


「うん」


「サユリ自身はどうなの?

 好きなった相手が女の子だったら付き合う?」


「うん。本当に好きな相手なら付き合うよ」


「もし、私が、サユリと恋人になりたいって言ったら?」


「普通に嬉しいかな。でも、無理かな……」


「サユリはフリーなんだよね? 相手は女子でもいいんだよね?」


「女子でもいいよ」


「私じゃダメってこと?」


「ハヅキは、本当に私のことが好き?

 それとも遊びで言ってる?

 それで答えは変わるかな」


「そっか、そういうことか。羨ましいなシノブは。

 これまで通り、親友でいてくれる?」


「うん。もちろん。よろこんで」


「よかった。でも、ワタシはサユリのこと諦めないからね。

 その気になったらいつでも私のところにきてね」


「ありがとう。ほんとうにごめんね」


「いいの、ダメなのはわかってたから。

 でも、シノブは不誠実だと思う。

 〝ウエダ=シノブとヒラタ=キョウヤ〟は恋人なのでしょ?

 貴女はそれでいいの?」


「シノブは誠実だよ。信じてあげて」


「それは無理、私、シノブのせいで2回も失恋してる」


「うそ!? 何それ!?」


「私ね、ヒラタ君のことが好きだったの。

 でも彼、わかりやすいくらいシノブのことみてたから。

 本当ずるい、ヒラタ君とサユリの両方を独り占めしてるんだから」


「それいつの話? 今もヒラタのことが好きなの?」


「今のヒラタ君はちょっと違うかなって思ってる。

 なんか、最近かなり充実しててさらにモテてるけどね。

 私にとっては、少し前まであったヒラタ君の良さが消えちゃった感じなの。

 そしたら、サユリが妙に気になり出して、すごく悩んだ。

 女子同士なのに、なんでかなって。

 ワタシ、恋愛対象は男性のはずなのに、どうかしちゃったのかなって」


「……ちょっと、待ってもらっていい?」


「どうしたの?」


「ハヅキには大切な話をしておかないといけないって思うんだ」

 サユリはそう言うと、巾着きんちゃくからスマホを取り出して、電話をかけた。


「……ちょっと早いけど合流できる? わかったすぐ行く」


 サユリは巾着きんちゃくにスマホしまうとハヅキの手をとって言った。


「とりあえず、一緒にきてくれる?

 ちゃんと説明する」



 サユリとハヅキは、キョウヤとシノブと裏道にある公園で合流した。


 シノブが言う。

「サユリ、どうしたの? なにがあったの?」


 サユリが答える。

「私たちの事、ハズキには説明しておくべきだと持って」


 キョウヤが言う。

「どういうこと?」


 サユリは真剣な表情でハヅキに言う。

「この二人は信用できるから、さっきのこと説明してもいい?

 ハヅキにはちゃんと知っておいて欲しいの」

 

「……わかった、絶対秘密にしてね」


「ありがと」


 サユリは、キョウヤとシノブに説明した。


「ハズキは自分がおかしくなったって思い込んじゃってる。

 だから、ちゃんと知っておくべきだと思う。

 ハヅキは私の親友になってくれたから、真実を知っておいて欲しい」


 シノブは考え込みながら言う。

「……そっか、そういうことか。どうするキョウヤ君?

 私は大丈夫だよ? あとは貴方だけ」


「ボクも問題ないよ。ハズキ、混乱させて本当にごめんね」

 キョウヤがハズキに説明し始めた。


「え? 下の名前で呼び捨て?」

 ハヅキが困惑する。


「ボクは、1ヶ月くらい前まで、サワフジ=サユリだったんだよ。

 今のサワフジは、その時まで、ヒラタ=キョウヤだったんだ」


 キョウヤは、サユリと入れ替わったこと、シノブとは前も今も親友の関係であること、シノブはヒラタ=キョウヤを好きだったが、恋愛対象が女性だったこと、今はキョウヤもサユリもシノブも悩みが消えて幸せに生活していることなどを説明した。


「信じられないと思うけど、本当なんだ。

 全部、ボク……私が仕組んだことだから」


 ハヅキは、最初は混乱していたものの、状況が飲み込めた様子だった。

「ああ、やっぱり。

 まさか、ありえないと思ったけど、なんとなくそう感じてた。

 勉強会で二人の様子を見た時、すごく違和感があったの。

 ヒラタ君がサユリみたいに見えたの。

 サユリがヒラタ君みたいにも見えた。

 そんなことって本当にあるんだね。

 どうやったの?」


 キョウヤが説明する。

「特殊な薬剤があって、それをつかったの。

 知り合いの知り合いを通じて入手したから詳細は知らない。

 もう入手する方法もないんだ。

 私たちはここまま人生を歩むつもり。

 混乱させてごめんね。内緒にしておいて欲しい」


「そっか。

 じゃ、私がサユリのことを好きでもおかしくないんだ。

 でも、やっぱりシノブはずるいな。

 サユリを、ヒラタ君を、独り占めにしてる……」


 ハズキが泣き出した。

 シノブが、ハヅキを抱きしめる。



 一頻ひとしきり泣いた後、ハズキは吹っ切れたように言う。

 

「シノブ、二人も独り占めはずるいよ。フリーな方と付き合わせて」


 ハズキはキョウヤを見た。


「え? ボク?」


 ハズキは続けた。

「男として生きるのでしょ? だったら、付き合ってみようよ。

 ラブラブなサユリとシノブの間には入れないし、試してみよ?

 それとも男性が好き? 私じゃダメ?」


「……たしかに、ボクもこの先のこと考えないとだね。

 期待に応え切れるかわからないけど、いいよ、試してみよう。

 元サユリのボクでよければ」


 シノブが言う。

「二人とも本気……みたいね……大丈夫なの? キョウヤ君」


 キョウヤが答える。

「いつかは試さないといけないことだし、ハヅキも協力してくれるなら付き合ってみる。ダメならその時考えるよ」


 シノブが言う。

「相変わらず、見切り発車なんだから……好きにすれば」


 ハヅキが言う。

「やった。彼氏ができちゃった。しかも超優良物件。

 こんな優良物件を隠れ蓑にするなんてバチが当たるわよ?

 告られたら、ちゃんと自分で断りなさいよね。

 もうキョウヤ君はワタシの彼なんだから。気軽に甘えないでよね」


 シノブが言う。

「わかってる……甘えすぎてたのは認める。ごめんね、みんな」


 ハヅキが言う。

「サユリ、今でも大好き。これからは親友としてよろしくね」


 サユリが答える。

「気持ちに応えられなくてごめんね。

 僕のこと、本当に思ってくれてありがとう。とても嬉しかった。

 親友として、これからもよろしくね」


 ハヅキが言う。

「やっぱりサユリは可愛いな……」


 キョウヤが言う。

「ハズキ、浮気はダメだから。ボクの彼女ならボクだけを見てね」

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