ロボットと共に始める四畳半からのオープンワールド

早起き三文

第1話「おいでませ魔霊動機!!」

「あーあ……」


 俺はその「ヘルドーマ」からの一撃により、自身が乗る「ハンターフォックス」の腕が上に跳ね飛ばされた事を受け、緊急モードを発動させようと試みる。


「めんどいな、だがこれで」


 俺のターンが回ってきた直後にスピードが強化されたハンターフォックス、王国軍御用達の量産機であり、テロリスト達の愛用しているヘルドーマの上を行く性能である俺の機体がそのまま、手に持った剣をもってして相手の装甲を強く叩く。しかし敵もさることながら寸前でその剣の一撃を得物によって防ぎ、そのまま防御姿勢を崩さない。流石にレベル3の相手だ。


「だけど、もうペナルティーは受けたくないなあ……」


 ペナルティーの受けすぎですでに俺はレベル1、もはや下がるものもない状態となっている。


 ギィン!!


 相手ヘルドーマ、身の丈7メートル弱の敵機から、これまた同じ丈7メートル付近である俺のハンターフォックスに向かって剣が振るわれる。その剣による一撃によって装甲板に傷が付いた事を気にしながらも俺はそのまま、再度の反撃をヘルドーマに向けて放つ。この相手は特に強力な武装を持っていないだけ少しは気分的に楽だ。


「もっとも、それはこのハンターフォックスも同じだけどな」


 ハンターフォックス、王国軍の主力量産FE(フレーム・エレメント)もまたこのヘルドーマと同じタイプの「土」属性の機体である。が、その性能は僅かにこちらの方が上。そのまま俺は特殊パイロットスキルである「強打」を使い。


 ガァ!!


「よし、よーし」


 先ほど受けた自機の損害にも構わず攻撃をし、そのヘルドーマの頭部を剣でもって粉砕した。




――――――




 この「魔霊動機エアジーン」は、今流行りのロボット物MMRPGだ。


「まあ、俺が始めたのは一週間位前の話だがな」


 それでも、色々なゲームをプレイしてきた俺の感覚からいってもこのゲームは面白く、歯応えのあるゲームといえる。


「ふう……」


 俺は先のヘルドーマ戦の疲労を癒す為にハンターフォックス、自機から降下し、そのままどこまでも続く大平原にとその足をおく。


「フレーム・エレメント(FE)ね……」


 このゲーム世界の花形はこのFEことフレーム・エレメントと呼ばれる巨人兵器だ。その全高は約7メートル、この巨大ロボットを駆って的ECや魔物達を相手にするのが、このゲームの主な目的だ。


「もっとも、それだけじゃないけどな」


 俺の目の前に表示されるハンターフォックスのステータスには「ゲイル機ハンターフォックスLv1」との表示がある。いくらゲーム内とはいえ、自分専用の愛機を持つのは気分が良い。


「さて、と……」


 ハンターフォックス、銀色をした巨人から降りた俺はそのまま通信端末を取りだし先ほど倒したヘルドーマ、赤い塗装を施された機体から素材を回収しようとする。領地経営に必要な素材である。


「そう、領地経営だけどめんどくさいな」


 それでも俺はせっかくであるから、倒したヘルドーマから素材を回収する。


――燃料(低質)×1――

――装甲板(劣悪)×2――

――ロングソードの欠片(低質)×1――

――土のコア(劣悪)×1――


「だけど、どう使うんだろこれ……」




――――――




 このゲームではプレイヤーごとに「領地」が与えられ、その領地を発展させるのが醍醐味、らしい。


「少し、ゲーム設定としては欲張りすぎではないかと思うけどね」


 FE、ロボットを使ったリアルタイム・アクティブバトル、それによるステータス上昇や素材集めと共に領地を経営して自分の力を高めるのが、この「魔霊動機エアジーン」のプレイ目標となる。


「しかし、それにひるがえっても……」


 もちろん最初から大領地を与えられる訳ではない。俺のプレイヤーキャラクターである「ゲイル」君の治める領地は。


――広さ、畳四畳半――

――収入、銀貨ゼロ枚――

――兵力、フレーム・エレメント1機――

――住人、一人(つまり俺)――


 という、何か妙なリアリティがある初期設定となっている。


「ま、これから発展させるのが面白いらしいんだけどな」


 俺はその畳四畳半、その何ーもない空き地に横たわりながら、これからの事を想像してみた。


「真面目にプレイするとなると、やはり雑魚FEともまともに戦うのは難しい、仲間が必要だ」


 仲間、ここでいう仲間とは同じゲームプレイヤーの事だ。コンピュータが操作するNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)の事ではない。


「どこかに傭兵をやっている奴はいないかなぁ」


 このゲームでは領地そのものは一時凍結させる事も可能であり、単純に戦闘を楽しみたいプレイヤーは「傭兵」として、他のプレイヤー領地に加わる事が出来る。


「あーあ、楽して勝てないかなぁ」


 ゴロ、ン……


 そのまま畳四畳半の草地で寝返りを打つ俺。草の匂いと設定された香りが俺の鼻腔を打ち、頭上に見上げる晴天がサンサンと太陽の光を俺に投げ掛けている。


「なあ、ハンターフォックス?」


 もちろんそのハンターフォックス、寝そべる俺の隣で立ちつくすFEは俺の言葉には何も答えない。そのまま俺は目を瞑りボオッとしながら時が過ぎるのを待つ。最初からあくせくしてゲームをプレイしようとは思わない。


「うーん、何か自然にイベントでも起こらないかな?」

「起こる訳がないでござろう?」

「ん?」


 ふと、俺が目を開けるとそこには一人の女の姿、寝そべっている俺を呆れたように仁王立ちで見下している彼女は簡素な革鎧を纏いつつ、その長い黒髪を吹き付ける風に流していた。太陽の光からの影で良くは解らないが、何やら凛々しい顔だちのような気がする。


「誰だ、あんた?」

「人に名前を訊ねるときは、まず自分からでござろう?」

「ああ、俺はゲイル」

「拙者はセツナ、侍でござる」


 このゲームでは、FEのパイロットそれぞれの操縦スタイルによって様々なクラスが付けられる。このキャラ作りなのか何なのか、時代錯誤な喋り方をする彼女は「侍」というクラスなのだろう。攻撃力に優れたクラスだ。


「仕えるべき主君を探している最中でござる」

「ああ、そう」

「お主……」


 そのままセツナという女は俺の頭上にと立ちながら、何か怒ったようにその顔を俺にグイと近づける。


「一国一城の主ともあろう物が、そんな無気力な有り様で情けないと思わんか?」

「へいへい、だらだらとプレイしたい物ですよ、俺は」

「はあ……」


 彼女はそのまま自身の影を横たわっている俺に被せながら、何か深いため息をついた。そして。


「決めたでござる」

「何を?」

「拙者、貴殿の配下となるでござる」

「えー?」

「えーも、あーもござらん!!」


 グゥ!!


「わっこら止めろ!!」


 このセツナという女、彼女は突如として俺の携帯端末、このゲームをプレイするにあたって必要な機能が収まっている腕時計型の機器を勝手にいじくり。


――セツナ(Lv1)があなたの領地に加わりました――


 とのアナウンスと同時に、そのまま配下となってしまった。


「よろしくお願い致す、ゲイル殿」

「あのね、解除するよ?」

「解除しても、再び参加すれば同じこと」

「……」


 何か妙に押しの強いこのプレイヤー、美しい黒髪を風になびかせるセツナのスラッとした姿勢を見上げながら、俺は微かにため息をつく。


「……何か、変なのに付きまとわれちゃったな」

「何か、ゲイル殿?」

「いや、別に」


――広さ、畳四畳半――

――収入、銀貨ゼロ枚――

――兵力、フレーム・エレメント2機――

――住人、2人――

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