第26話 お父様とお母様
私は、お父様から、過去の話を聞いていた。
その話によって、何故、お父様が今のようになったかがわかるのだった。
「それから、私は自分の態度を改めた。最初に、家族に優しくしようと思ったのだ」
「家族に……ですか?」
「ああ、それまでの私は、家族に対しても、厳しく当たっていた。それが、フォリシス家の人間として、正しいことだと思っていたのだ……」
お父様は、悲しそうに昔を語る。
昔のお父様は、とても厳しい人だった。それは、レティから 何度も聞いたことだ。
そのことは、お父様にとってもとても嫌なことだったのだろう。その表情から、そう読み取れるのだ。
「家族も、最初は戸惑っていたよ。だが、だんだんと私が変わったのだと理解してくれるようになった。それは、かなり奇妙なことだっただろう」
「それは……」
確かに、レティからもお父様が変わったことは驚いたと聞いていた。
しかし、しばらくするとだんだんとそういうものだということが理解できてきたらしい。
「そうすると、少しずつ家族との関係も変わっていった。仲良く……なれたのだろうか」
「はい……」
「だが、リクルドには私の教育が染みついていたので、かなり時間がかかってしまったな……」
「そうですよね……」
お兄様は、昔のお父様の教育をずっと受けてきたため、その変化についていけなかったそうだ。
その関係が、改善するのは、私が来てからさらにしばらくしてからのことである。それだけは、私もこの目で見ていたことだ。
「その……お父様とお母様は、昔はあまり仲良くなかったというのは、本当なのですか?」
「む?」
「あ、すみません。でも、少し気になってしまって。二人は、いつも仲がいいのに、昔はそこまでではなかったとは信じられなくて……」
そこで、私は聞いてしまっていた。お父様とお母様の関係のことを。
二人は、昔それ程仲がいい夫婦ではなかったらしい。今では、理想の夫婦ともいえる二人が、どうしてそうなったのか、前々から少し気になっていたのだ。
「……ふむ。私とあいつは、そもそも政略結婚ともいえるものだったからな」
「え? そうなんのですか?」
「ああ、まあ貴族とはそういうものだと、お互いに割り切っていたが、やはりそこまで仲がよかった訳ではないだろう」
「な、なるほど……」
私は、お父様から、衝撃の事実を知らされた。
どうやら、二人は政略結婚だったらしい。それは、今初めて聞いたことだ。
だが、考えてみれば、それも当然だろう。仲が良くなかったのなら、恋愛結婚のはずがないのである。
私は、仲がいい二人しか見てこなかったため、それを想像できなったのだ。
「私が変わってからは……そうだな、かなりよくなった。お互い話し合ってみると、案外気が合ったのだ」
「それは……よかったですよね」
「ああ、まあ……」
お父様は、少し照れながらそう言った。
今の二人は、本当に仲がいい。その様子は、本当に微笑ましいものだ。
いつか、私もあのようになりたいと思ってしまう。
「さて、そろそろ話を終えようか。私達も、もうすぐ帰らないといけないしね」
「あ、はい……」
そこで、お父様が話をまとめる。ここでの話は、これで終わりのようだ。
しかも、お父様とお母様はもうすぐ帰らないといけないのである。忙しい二人であるため、長い時間一緒にはいられないのだ。
それは、悲しいことだが、仕方ないことだろう。
こうして、私とお父様の話は終わるのだった。
◇◇◇
私、お兄様、レティの三人は、お父様とお母様と向き合っていた。
あっという間に、もう二人が帰る時間になってしまったのである。
「それでは、三人とも、私達は帰る」
「皆、元気でね」
二人は笑いながら、私達にそう言ってきた。
お父様とお母様は、とても忙しい人達だ。
今回は、その隙間を縫って、来てくれたのである。それは、私達の入学式に来られなかったからだ。
その優しさが、私は嬉しかった。だから、この別れは、笑っておこうと思う。
「父上と母上も、体には気をつけてください」
「お父様、お母様、今回はありがとうございました」
「あ、ありがとうございました」
私達がそう言うと、お父様とお母様はさらに笑ってくれる。
「次は、もっと時間がとれる時に来る。今回は、少し慌ただしくてすまなかったな」
「いえ、問題ありません」
お父様は、お兄様と握手をした。
それが、二人の別れの挨拶なのだ。
「二人とも、次はもっと学校のことを聞かせてね?」
「はい、もちろんです」
「善処します……」
お母様は、私とレティを抱きしめてくれる。
これが、私達の別れの挨拶だ。
「よし、行こうか」
「ええ」
そして、二人は馬車の中に入っていく。
これで、本当にお別れだ。
馬車の戸が閉まり、二人が手を振ってくる。
それに対して、お兄様は頭を下げた。私とレティは、それぞれ手を振る。
そうしている内に、馬車が進んで行く。
こうして、お父様とお母様は私達の元を去っていくのだった。
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