第17話 机の中の手紙

 私とレティが、学園に入学してから、数日が経った。

 残念ながら、まだ友達といえるような人もできていないが、とりあえず平和な学園生活が送れている。


「あれ?」

「お姉様? どうしたんですか?」


 教室で椅子に座って、机の中を確認した私は、驚いてしまった。

 机の中に、何かがあるのだ。それは、手紙のように思える。

 なんとなく、それが何かは予想できた。あまり、人に見られていいものではないだろう。


「手紙ですか?」

「レ、レティ!?」


 そう思っていた私だったが、レティは既に確認してしまっていた。こういう時のレティの行動は早いのだ。

 手紙を見たレティは、目を丸くした後、悪戯っ子のように笑う。


「これは、恋文というやつですか? おもしろいものですね……」

「お、おもしろいものではないよ」

「あ、すみません……」


 からかおうとするレティに、私は少し語気を強める。

 こういうものをからかうのは、よくないことだ。そもそも、まだ中身が確定している訳ではない。

 私は、レティに見えないように手紙の中身を確認する。


「……どうですか?」

「えっと……」


 手紙の中身は、レティの言った通り、恋文だった。

 しかも、先日ペンを拾ってあげた男子生徒からのものだ。

 これは、レティに言ってもいいのだろうか。


「あの男子生徒さんからの……恋文でした」

「なるほど……」


 少し考えた私だったが、結局言うことにした。

 他人の気持ちを言いふらすのはよくないとは思うが、レティに相談したかった。

 こういう時、どうすればいいのか、私はよくわからない。年下の妹であっても、何かアドバイスが欲しいのだ。


「ど、どうしよう?」

「どうしようも、こうしようもないですよ。答えを言ってあげればいいじゃないですか」

「あ、うん……」


 レティの言葉は、至極真っ当なものだった。

 確かに、答えを言えばいいのだ。とても単純なことである。


「答えは、決まっているんでしょう?」

「ま、まあ、それは……」


 レティの言う通り、私の答えは決まっていた。

 私には、他に憧れている人がいる。そのため、このような告白を受けるつもりなどないのだ。

 だが、どのように言えばいいのだろう。


「どう言えば、いいのかな?」

「素直に言えば、いいんです。私はお兄様が大好きなので、それは受けられませんって」

「そ、そんな……」


 レティの言ったことに、私は動揺する。

 そんなことを言える訳はない。恥ずかしいし、人に聞かせられるようなことではないだろう。


「まあ、それは冗談として、普通に他に好きな人がいると断ればいいんじゃないですか?」

「あ、うん……」


 すぐに、レティは答えをくれた。

 やはり、そのまま言うのが、一番であるようだ。


「それより、問題はその人の安全です」

「あ、安全?」

「もし、このことがお兄様の耳に伝わると、どうなると思いますか?」

「えっ……?」


 そこで、レティがそんなことを言ってきた。

 確かに、私が告白されたことをお兄様が知ると、まずいかもしれない。

 最近のお兄様は、私やレティに声をかけてくる男子にかなり敏感だ。そのことから、男子生徒に何か処罰をする可能性がある。


 それは、考えすぎかもしれないが、先日のペンの件で、あそこまでなったのだ。慎重になった方が、いいかもしれない。


「確かに、最近のお兄様なら、何か処罰を下すかもしれないね」

「ええ、命はないでしょう」

「そ、そこまでではないと思うよ?」

「そうでしょうか?」


 流石に、そんなことはしないと思う。酷くても、停学くらいのはずだ。いや、これも充分ひどいかもしれない。



「お姉様に告白なんて、本当に命知らずですね……」

「レティ? それだと、なんだか私が怖い人みたいだよ?」

「ああ、すみません」


 どうやら、レティは本当にお兄様がひどいことをすると思っているようだ。

 レティの中では、お兄様はどう映っているんだろう。


「とにかく、秘密にしてね、レティ」

「はい、もちろんです。私も血は見たくないですからね」


 とにかく、このことはお兄様に知られてはならないだろう。

 あまり秘密にするのは良くないが、安全のために仕方ない。


「まあ、私達が何も言わなければいいんですから、そんなに心配する必要もないと思いますけどね……」

「そ、そうだよね。まさか、お兄様がどこかから見ている訳ではないだろうし……」

「ええ、いくら気持ちの悪いお兄様でも、そんなストーカーみたいなことはしませんよ」


 ただ、私達が言わなければ、お兄様に知られることはないはずだ。

 つまり、ここは私が断れば、それで話は終わる。何も、問題はないだろう。


 こうして、私は告白を断ることにするのだった。

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