第16話 牙が向かないように
お兄様との話し合いを終えた後、私は部屋に戻って来ていた。
すると、レティが訪ねてきたため、二人で話をすることにした。
「やっぱり、お姉様もお兄様に呼び出されていたんですね……」
「あ、わかっていたの?」
レティは、ベッドの上で寝転びながら、そう話しかけてきた。
どうやら、レティは私がお兄様に呼び出されることを予測していたらしい。
「ええ。というか、それについては私のせいでもあります」
「え?」
「いえ、お兄様に余計なことを言ってしまって……」
何やら、レティはお兄様に言ったようだ。
恐らく、私がペンを拾った時、男子生徒と話をしたということを話したのだろう。
レティは、少し負い目を感じているようだが、念のため報告するのは何も問題はない。
「大丈夫、誤解は解け……たかどうかはわからないけど、お兄様も何もしないと言っていたから」
「そうですか。しかし、謝らせてください。すみません、余計なことを言いました」
私の言葉を受けても、レティは謝罪してきた。
それで、レティの気が晴れるなら、その気持ちを受け取っておこう。
「というか、誤解が解けていないんですか?」
「あ、うん。お兄様、結構気にしているみたいで……」
「なるほど、なんというか、気持ち悪いですね」
そこで、レティがそんなことを言ってきた。
少し心配しすぎているとは思うが、気持ち悪いということはないだろう。
お兄様は、フォリシス家の人間として、当然の心配をしているだけだ。そこに、変な意味はないだろう。
「気持ち悪いなんて、駄目だよ、レティ。お兄様は、フォリシス家の人間として、気をつけようとしているのだと思うし……」
「いえ、そうではないと思いますよ。それもないとは言えませんが、あれは個人的な感情の問題ですよ」
レティの言葉で、私は考える。
お兄様は、個人的に私を思ってくれているのだろうか。それならそれで嬉しいことだ。
お兄様は、フォリシス家のためなら、自身を抑えられる人間だ。そのため、決してそれを口にしたりしないだろう。
ただ、そう思ってくれていると思うのは、私達の勝手だ。それなら、そう思っておこう。
「お兄様が、私を……」
「うっ……お姉様もお姉様で、それを嬉しいと思うんですね。気持ち悪い兄妹というべきか、仲のいい兄妹というべきか……」
私がそんなことを考えていると、レティが少し冷たいことを言ってきた。
私は、お兄様のことになると、少しおかしくなるらしい。これは、治さなければならないことだろう。
「ごめんね、レティ」
「い、いえ、謝らないでください。慣れていますから」
私が謝ると、レティがそう言ってきた。
慣れているくらい、私は変になるのだろうか。
これは、本当にもう少し気を引き締めなければならない。お兄様のことでも、気を強く持つ。それが、私の課題だろう。
「まあ、でも、どちらにしても、お兄様って容赦ないですよね……」
「え? あ、うん。それは、そうかも……」
レティの言葉に、私は頷く。
確かに、お兄様が容赦のない人だということは理解できる。
「もし、お姉様に手を出したりしたら、お兄様は地の果てまで追いかけて、相手を潰しますね。これは、間違いないです」
「そ、そこまではないと思うけど……」
「そうでしょうか?」
お兄様は、敵と認識した場合、徹底的に相手を潰してしまう。ただ、それは相手が本当に悪い場合だけだ。
例えば、私に好きな人ができて、その人がきちんとした人なら、そこまではしないはずだ。最も、その前提がそもそもあり得ないので、この想定はする意味がないかもしれない。
「でも、お姉様にちょっかいをかけただけでもあれですよ?」
「あ、えっと……」
そう考えた私に、レティはそう言ってきた。
確かに、今日の様子を見ていると、そうしてもおかしくない気がしてきてしまった。だが、お兄様に限ってそんなことはないはずだ。
きっと、今日は警戒心が高かっただけだろう。
「今日は、警戒していただけだよ。多分、私達が学園に入ったばかりだから、色々気にしてくれているということではないかな?」
「そうですかね……?」
「そ、そうだよ……」
私がフォローしても、レティは納得しなかった。
恐らく、レティもお兄様との会話で、色々とあったのだろう。実際に見て感じた疑念は、私の言葉では払えないかもしれない。
「まあ、いいです。でも、罪のない他の生徒達に、お兄様の牙が向かないように、これからも気をつけないといけませんね」
「あ、うん。それは、そうだね……」
こうして、私とレティのお兄様に関する話は終わるのだった。
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