第1話(リクルド視点)
※この話は、第1話のリクルドの視点です。
俺の名前は、リクルド・フォリシス。
誇り高きフォリシス家の長男にして、フォルシアス学園の学園長だ。
この俺には、二人の妹がいる。
一人は、レティ・フォリシス。血のつながった実の妹だ。
この妹は、怠惰な性格である。誇り高きフォリシス家としての自覚もない、軟弱な娘だ。
兄として、この愚かなる妹はどうにかしなければいけないと思っている。だが、あれは俺の言うことを聞こうとしない。故に、悩みの種としかいいようがないだろう。
もう一人は、ルリア・フォリシス。こちらは、父がある時引き取ってきた義理の妹だ。
彼女を一言で表すなら、太陽といえるだろう。その穏やかな性格と優しさは、人々を照らす光のようだ。
兄として、この気高き妹のことは誇りに思っている。故に、彼女に危害を加える者を俺は許さない。もし何かあれば、この俺が直々に牙を向くことになるだろう。
どちらにせよ変わらないのは、どちらも俺にとっては大切な妹であるということだ。
そう思うようになったのは、最近のことだが、それもルリアのおかげといえる。
かつての俺は、冷酷で心を持たない、取るに足らない存在だった。
そんな俺を変えたのが、ルリアだ。あの太陽の光を浴びている内に、俺の心にはいつしか情というものが芽生え始めていた。
そのような面からも、ルリアには感謝の気持ちしかない。
「お兄様、私をお兄様の学園に入れてください」
「……また、その話か。前も断ったはずだぞ?」
だが、そんなルリアにも困った所はある。
それは、この俺が運営するフォルシアス学園に通いたいと言い出したことだ。
我らが住むアルミシア王国では、十六歳になる年に、魔法学園に入学することになっている。
その際、どこの学園に通うかは、本人の意思で決定することができる。そこで この気高き妹は、俺の学園を選びたいと言ってきたのだ。
「お兄様、どうして認めてくれないのですか?」
「ふん……もし仮に、俺が理由を言ったとして、お前がそれに納得するとは思えん。故に、理由を話す意味などないということだ」
だが、俺はそれを認める訳にはいかなかった。
なぜなら、我が学園には、妹を通わせるにあたって、少し問題があるからだ。
「お兄様、理由を話してもらわないと、私は納得できません。何故駄目なのか、話してもらうことだけでもできないでしょうか?」
「……ならば、言ってやろう。俺の学園は、お前のようなレベルの生徒を求めていないということだ」
「え……?」
ルリアとの言っていることが正しかったため、俺は適当な理由を述べてやった。
すると、我が妹は目を丸くする。驚いているというよりは、悲しんでいるような表情である。
そのような表情をされるのは、想定外だ。少々、きつい言葉を使い過ぎてしまったらしい。
「……というのは、冗談に過ぎん。だが、冗談にしては少々言い過ぎだった。謝罪しよう」
「え? そうだったのですか?」
「ああ、悪かったな」
という訳で、冗談ということにしておいた。
それにより、ルリアは少し元気を取り戻したようだ。
「それは、いいです。ですが、それなら本当の理由はなんなのでしょうか?」
「……お前を俺の学園に入れたくないのは、単純な理由だ。身内を学園に入れてしまえば、俺とて贔屓しないとは言えないだろう。学園長として、俺はそれを許容することはできない」
「お兄様……」
次に俺が述べた理由は、そんなものだった。
これは、嘘ではない。ただ、これは理由の一部に過ぎないだけで、真の理由は別にある。
「お兄様、そうだったのですね。それなら、私はお兄様の言葉に従います。確かに、身内が学園にいると、意識せざるを得ません」
「ほう? お前も成長したようだな。それならば、俺も先程までの態度も謝罪しなければならないだろう。納得しないなどと言って、すまなかったな」
「い、いえ……」
ただ、この理由はルリアにとって、納得できる理由だったようだ。
それにしても、俺はこの賢き妹を見くびっていたらしい。このような理由では、納得しないと思ったが、案外素直であるようだ。
いや、そもそも、俺の考えすぎだったのかもしれない。
もう一人の妹に比べて、ルリアは精神ができている。駄々を捏ねたのも、この俺が理由を話さなかったからということか。
「それでは、私は違う学園に通うことにします」
「ああ、そのことなら丁度いい所がある。セント女学院という学園だ。ここなら、問題ないだろう」
「そうなのですか」
とりあえず、俺は妹に別の学校を勧める。
このリクルドは、断っておいてそれで放っておくというような無責任なことはしない。
ルリアにとって、一番いい環境は、このセント女学院だろう。
由緒正しき学院であり、教育課程も優れている。フォルシアス学園も、この学院を参考にしている部分があるくらいだ。
故に、我が妹に相応しいといえる。ルリアに限っては、我が学園より、こちらの方が最適だろう。
「――待ってください」
「え?」
「む?」
そんな時、部屋にいたもう一人の妹が声をあげた。
ルリアの付き添いとして来ていたのだが、今までは黙っていたのだ。
だが、ここで声をあげるということは、何かあるということだろう。
「……妹よ。何の用だ?」
「お姉様、お兄様が学園に通わせたくない理由は一つです」
「え? それって、一体……?」
愚かなる妹は、自信ありげな表情で笑ってみせる。
忌々しい表情だ。この妹が、俺に勝てるなどと思っていることが、不快で仕方ない。
「それは、お兄様の運営するフォルシアス学園は、共学だからです!」
「え?」
「お兄様は、お姉様が男子生徒に声をかけられることを懸念しているんです!」
レティの発言に、俺は少々驚いた。
どうやら、俺は先程思ったことを、訂正しなければならないようだ。この妹は、思ったより賢い。
なぜなら、この俺の本心を見抜いていたからだ。
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