第92話 ミカがチアに加入してるんだが!?
「はい、今日の練習終わりー!」
「進藤、君全然上達しないねぇー。そんなんで大丈夫?」
「す、すみません……」
組体操の練習も今日で四日目。周りはどんどん上達してきてるのに、俺は未だにサボテンという基本技も出来ない。
三点倒立だって怖がって地面を蹴ってばかり。成長の兆しが一向に見えてこない。
このまま本番を迎えるなんてことにならないだろうか……と不安になってくる。
しかし弱音を吐いている暇もない。家に帰っても練習するしかあるまい。
「ふぅ……さて、帰るか。……あれ、チアリーディングの練習まだ終わってないのか? いつも組体操より先に終わってるのに」
練習が行き詰まっているのだろうか。確かユカも参加していたはずだ、見に行ってみるか。
別に女子のチア姿を見たいわけじゃないからな。俺チア衣装好きじゃないし。
短いスカートから見えるアンダースコートは嫌いじゃないが。どうでもいいけど見せパンって分かってても、ああいうのって見えると嬉しいよね。
グラウンドの隅に行くと体操着姿の女子たちが集まっていた。ちっ、チア衣装は本番までお預けか。
いや本当にチア衣装なんかに興味ないんだけどさ。
「って、ギャルのやつもいるのかよ。あいつこいうの張り切るタイプだったんだなぁ。意外や意外だわ」
金髪にアピールするために頑張ってるのかなぁ。恋のパワーは凄いねぇ。
ああいう積極性は俺にはないから、羨ましくも思える。
「ユカは……いた。やっぱ目立つなぁ、女子たちの中心って感じだ」
遠くから見ていても分かるほどのオーラとでも言おうか。キラキラと光るような何かがあるんだろう。
ユカは大勢の女子に囲まれていた。おそらく振り付け教えて~とか言われてるのだろう。
あいつは文武両道、何でも出来るからな。きっと振り付けだってとっくに覚えてしまっていることだろう。
「ん……? 女子の輪からはみ出してるやつがいる……。こういう場所でもボッチっているんだなぁ、かわいそうに」
そもそもチアリーディングに立候補するようなやつが、ぼっちになるのか疑問ではあるが、陽キャの中にもランクがあるということなんだろうか。
しかしあの女子、やけに怯えてないか? なんていうか、失礼な言い方をすると陰キャみたいな雰囲気があるような……。
「って、ミカじゃないか!? なんであいつがチアに!?」
俺の視線の先には立ちすくむ朝倉ミカの姿があった。
どうして彼女がチアリーディングの練習に参加しているんだ……?
◆◆◆◆◆
数十分前――
「ふぅ……応援合戦の練習……大変だった……喉痛い……」
ミカは自分の練習が終わってから、ユカちゃんの練習を見に行くことにした。
ユカちゃんはすごいから、きっとチアも完璧にこなしちゃうんだろうなぁ。
「もう無理! 私やめます!」
「私もー。練習きつすぎて無理でーす」
「ちょ、ちょっとまってよー!」
あれ? どうしたんだろう……。チアの練習場所から不穏な声が聞こえたような?
どうしたんだろう……ちょっと行ってみようかな。
「ど、どうしよう朝倉さん。練習メンバーが足りなくなっちゃったわ!」
「お、落ち着いてください先輩! だ、大丈夫ですよー。二人いなくなってもまだいっぱいメンバーいますし」
「で、でも振り付けは30人いるの前提で考えたものだし……」
わぁ……大変だ。もしかしてこれって修羅場……? た、大変だぁ……ユカちゃん大丈夫かなぁ。
「あれ、あんた確か……」
「ひゃう!!」
突然後ろから声をかけられて、びっくりしちゃった。
振り向くとそこには知らない人がいた。髪を染めて、派手なメイクをしてる女子。
ぎゃ、ギャル……だよね? こ、怖い……ミカ、ギャル苦手。リア充の頂点にいる人って印象だもん。
どうしよう、今すぐ逃げ出したい……。
「あ、あわわわ……」
「何ビビってんのよ。理由もなく怖がられたら、こっちも不快なんですけどぉ~」
「ご、ごめん……なさい」
「謝らなくていいけど。はぁ……陰キャってホント、暗いわぁ」
「うぅ……ごめんなさい」
やっぱり怖い。
リア充の人たちって普通はミカのことなんて気付かないのに、この人はどうしてミカのこと気付いちゃうんだろう。
あぅ……逃げたいのに足がすくんじゃった。誰か助けて……。
「あのさぁ、こんなところで何してんの? あ、そっか。妹の練習を見に来たの?」
「え……えっと、その……はい」
「ふーん。美人だもんね朝倉さん。勉強も出来るし、スポーツも得意。おまけに男子からモテモテ」
「ユカちゃんは……ヒーローだから……」
「あんたは?」
「え?」
急に質問されても、主語がない会話じゃ分からない。ミカは陰キャだから、察しが悪いもん。
でも聞き返すのも悪いし、どう反応したらいいんだろう。そんな風に悩んでいると、ギャルの人は舌打ちした後にもう一度質問してきた。
「だから、あんたはチアやらないの? 妹がやってるのに」
「む、無理……! ミカは運動音痴だし……目立つの嫌だし……。それに……みんなにバカにされたくないし……」
「妹にそっくりなんだから、少なくとも男子は喜ぶんじゃないのぉ~」
「ぜ、全然……! ミカなんて地味で暗くて……ユカちゃんみたいにモテたりなんか……しない」
「ふーん。双子なのに正反対ねぇ~」
確かにミカもチアをやってみたいって思わなくもない。けど、それ以上にミカなんかがチアをやって、変に思われないか怖い。
周りの人にどう思われるのか、怖くて仕方ない……。だからミカはずっと、こうして日陰で生きていくんだ。
ユカちゃんのように眩しく輝くことはミカには出来ないもん。ミカには絶対無理だもん。
「あーあ、うちもチアやっとけばよかったかなぁ~。そしたら直にうちのこと、見てもらえたかも知れないしぃ~」
「えっと……好きな人……いるんですか?」
「は? なに勝手に聞いてんのぉ。盗み聞きとかちょー趣味悪いんですけどぉ」
「ご、ごめんなさい……」
自分から言い出したくせに……これだからリア充って横暴で嫌い。
はぁ……早く体育祭終わらないかな……。もうやだ……。
お家に帰りたいし、ここから抜け出そう。そうしよう、その方がきっといいよね。
ギャルの人には悪いけど、どうせ明日にはミカのこと忘れてるだろうし。
「そろーり……そろーり……」
「あんた何やってんの?」
「ひゃう!? ば、バレた……!」
「バレたって……。もしかしてそれ、こっそり帰ってるつもりだったの? 声に出てるんですけどぉ~」
ふ、不覚……ミカとしたことが、こんな初歩的なミスをするなんて。
でもこの人も凄い。普通ミカがいなくなっても、誰も気付かないのに。
ミカの逃走を見抜くなんて、もしかしてこのギャルの人、忍者……?
「あれーミカちゃんの声が聞こえたと思ったら、こんなところにいたー!」
「あ、ユカちゃん……」
「それに松山さんもいる。どうしたのー二人ともチアに興味あったりするのー?」
「そういう……わけじゃないけど……」
「誰あれ?」
「朝倉さんのお姉さんでしょ。ほら四組にいるって聞いたことあるし」
「へぇ、お姉さんいたんだ。全然知らなかった」
「てゆーか超似てない? 一瞬朝倉さんが二人に増えたかと思ったー」
どうしよう、ユカちゃんに見つかったせいで他の女子たちからも見られてる。
うぅ……注目されるのって慣れてないのに。すごく緊張するよ……。
「そうだ、ねぇ朝倉さん! もしよかったらお姉さんにお願いしてみてよ」
「えー、無茶だよぉー。ユカちゃんこういうの慣れてないもん」
「お願いっ! このままだとチアの練習が上手く行かないでしょ? みんなを助けると思ってどうか!」
「うーん、そうだねー。……ねぇミカちゃん、ユカからお願いがあるんだけどさー。一緒にチア、やってみない? もしよかったら、松山さんも!」
「「え……?」」
◆◆◆◆◆
「どうしてミカがチアに加わってるんだ……? あいつこういうの苦手なタイプだろ……」
そもそもこの前聞いた話では、ミカの選んだ種目の中にチアリーディングは無かったはずだ。
つまり最初から練習に加わっていたわけではなく、途中から加入したということになる。
ミカの性格上、自分から練習に参加させてもらうなんてことはまず無いだろう。きっとチア側の事情があって、ミカを引き入れたに違いない。
「大丈夫なのかミカのやつ……。うう、心配だ……でも俺がなにか出来るわけでもないし……! ぐぐぐ……どうすれば……」
チアの練習が再開してからも、ミカはあまり周りに溶け込めていない様子だった。
周りの女子もユカにばかり話しかけて、ミカにはあまり声をかけていない。
ユカもミカのことを心配してるようだが、話しかける余裕も無いようだった。
「ミカ……」
俺はただ見守ることしか出来なかった。
気まずそうに、申し訳無さそうにしているミカをただ見ることしか出来ない。
「そうだよなぁ……女子の練習に男子が口をだすわけにもいかないもんなぁ。俺部外者だし、はぁ……」
今はただ、ミカの練習が上手くいくことを祈るしか無いだろう。
帰り際に励ましの声をかけるくらいのことなら、俺にだって出来るはずだ。
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