第43話 ミカとお泊り会の約束をしてしまった

「期末テストが無事終わったことを祝して~……」


「「カンパーイ!」」


「お酒じゃない……けどね……」


「ミカ、そのツッコミは以前俺がやってるからナシな」


 俺たちはこの前Gが出た空き教室を利用して、テストの打ち上げをやっていた。

 学校だから派手に飲み食いは出来ないから、ジュースと小さなお菓子だけのささやかな催しだ。


「いや今回のテストはマジで大変だった! ユカがいなかったら夏休みに補習やらされてたよ」


「ミカも……古典と世界史が……危なかった……。りょう君とユカちゃんのおかげ……ぶい」


「ユカ何もしてないって、二人が頑張ったからだよー。ミカちゃん、毎日遅くまで勉強してたもんねー」


「にゅふふ……寝落ちしたら……ユカちゃんがタオルケットかけてくれてた……」


 それは逆に言うと、ユカはミカよりも更に徹夜で勉強していたということでは?

 放課後は俺たちに勉強を教えながら、自分も人並み以上にテスト勉強していたってことだよな。

 それは並大抵のことでは出来ない努力だ。ユカの多才ぶりはこういった努力の積み重ねが形になっているのかもしれない。


 そう考えると、ユカは努力の天才なんだろう。色んなことにチャレンジして、それを継続して続けることが出来る才能。

 羨ましいと思う以前に、憧れや尊敬といった感情を抱く。かっこいいじゃないか、ユカ。


「リョウ君も毎日遅くまでお疲れ様。ユカが毎晩電話して抜き打ちテストをした甲斐があったよ~」


「半分以上雑談してた気がするけどな……」


 ここ一週間、ユカは放課後の勉強会だけでなく、夜に勉強のアドバイスをくれたり色々と協力してくれた。

 でも今日でテストも終わりだ。これからは夜にユカと電話することが無くなるのかと思うと、少し寂しいと感じてしまう。


「ユカちゃん……順位が上がったら……お父さんにおねだりしよ……?」


「うん! ユカはねー新しいコスメ欲しい! 撮影用に使ってたのが凄い良さげなやつだったから、それ買ってもらおうかなー」


「ミカはゲーム機のプロコン……買い替えてもらう……最近スティックがすり減ってきたから……」


「いいなぁ。テストで高い成績取ったらご褒美貰えるのか。俺の親もそんくらい甘くなんねぇかなぁ」


 テストの成績が上がれば欲しい物を買ってもらえるって家庭はそこそこある。

 教室の会話を聞くだけでも、成績上げてスマホを買い替えてもらうとか、服買ってもらうなんて言ってるやつらがそこそこいた。羨ましい限りだ。


 残念ながら進藤家にはそういうアメとムチ制度は無い。

 理由は簡単、親が冷たいからとかではなく、俺の成績が上がるなんて今まで無かったからだ。

 一年の最初に真ん中くらいの順位を取って、あとは卒業までズルズル落ちていく。完全な怠け者タイプである。

 中学の頃の反省を活かして、高校一年の今は全力でテストに望んだが、果たして親の反応はどうなるやら。



 俺はコーラを飲みながら、そう言えばそろそろ夏休みだから父さんが戻ってくるな……なんてどうでもいい事を考えていた。

 そんな時、ユカのスマホから着信音がなった。ユカは画面を見ると少しバツの悪そうな顔をする。


「あー……。ごめん、ユカクラスのみんなに呼ばれてるみたい。ちょっと行ってくるねー」


「人気者は大変そうだな」


「クラス会断ったんだけどねー……。校門で待ってるから来てって言われちゃって……もう一回断ってくる」


「雰囲気悪くなりそうなら無理に断らなくてもいいぞ。ユカは俺と違って友達多いんだから、そっちを大事にしなきゃいけない時もあるだろ」


「うん……でもユカが一番大事にしたいのは、この三人でいる時間だから。じゃ、ちょっと待っててねー」




 ユカが教室から出ていくと部屋全体が急に静かになるな。

 やっぱりグループの中に一人くらいは陽キャがいないと、静かすぎて物足りない気がする。

 俺もすっかり静けさに寂しさを感じる側の人間になってしまった。陰キャ卒業も近いか? いやそれは無いか。


「ユカって男子からモテるから大変だろうなー。女子ってそういうの嫉妬してそうじゃない?」


「ううん……どうかな……。ミカ、女子同士の会話に混ざったことないから……。でも……一見仲が良さそうな子でも……陰口言う人は……いるよね……」


「怖いよなぁ、ああいうのって。ミカもそういうのがあったら、迷わず相談するんだぞ」


「大丈夫……だよ……。ミカ……噂されるほど……存在感ないから……。リア充の裏をかく……名策でしょ……?」


「お、おう……そうね」


 それは名策って言っていいのだろうか。噂にも登らない程度の知名度ってだけじゃ……。

 いやこれ以上言うまい。なぜなら俺も同じ穴の狢だからな。

 一学期も終わろうと言うのに、未だにクラスメイトから名前間違えられてるんだぜ俺。こんなに影薄いやつ他にいるか?


 とは言っても、俺の存在はそこそこ認知されているらしい。それも悪い意味で。

 学校一の美少女朝倉ユカの手を取り、更には金髪の告白を邪魔して一躍時の人だ。

 まぁ最近はユカと一緒のところを見られてないから、その噂も風化しつつあるが。

 人の噂も七十五日と言うし、夏休みが終わればリア充どもからの嫌な視線も無くなるだろう。無くなるといいな。え、無くなるよね……?


「あとは……テスト返却と三者面談が終われば……夏休み……。エブリデイがホリデイ……徹夜し放題……楽園がミカを待ってる……」


「俺も夏休みは配信サイトで昔の名作アニメとか一気見すっかなぁ。50話とか普段じゃとても見る時間ないけど、夏休みなら一日で見れるからな」


「あっ……面白そう……! 24時間耐久アニメ鑑賞……4クールアニメ見終わるまで帰れまてん……!」


「アニメの1話ってCM抜きだとOP・ED込みで25分くらいだろー。2話で約1時間として、うん十分行けるな」


「りょう君……ミカも! ミカも一緒に見たい……!」


 ミカは興奮した様子で前のめりに体を出して主張してきた。

 そんなに顔を近付けられると俺としても恥ずかしいのだが、なんて言えるわけもなく、俺はただミカから目を逸らして答えるのだった。


「に、24時間つったら泊まらないと駄目だろ? 流石に男子の家に女子が寝泊まりするっていうのは、ミカの両親が許可出さないだろ……」


「だいじょうぶ……許可取る……!」


「その自信はどこから溢れてくるんだか」


「夏休みは……りょう君の家でお泊り会……! わくわく……わくわく……!」


 夏休みにやりたいことを話していただけなのに、気がつけばミカが俺の家に泊まりに来ることが決まってしまった。

 女子が泊まりに来るなんて、俺の人生でも最大級の爆弾的イベントの予感。

 これは万が一にも問題が起こらないように、雑念を振り払う修行をしておかないとな。


 まぁミカは友達の家に泊まりに行く程度の認識の様だし、変なことは起きないだろう。


「りょう君と一緒にアニメ見て……その後ゲームして……疲れるまで遊んで……一緒に寝る……にゅふふ、楽しみだね……!」


 その笑顔はたぶん今まで見てきた中で、一番嬉しそうな表情だった。

 ミカにこんな感情豊かな表情が出来たのか、なんて思ってしまうほど明るくて綺麗な笑顔。

 俺はそれに見とれて、つい生返事しか返せなかった。


「あ、ああ」


 言葉を失う程の美しさっていうのは、きっとミカのためにある言葉なんだろう。

 そんなことを思ってしまうくらい、とにかく俺の脳内にミカの笑顔が焼き付いて離れなかった。


 本当に変なこと起きないよな? 頼むから保ってくれよ俺の理性。

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