第29話 双子の誕生日、なぜか抱きつかれた

 今日は6月17日。それは朝倉ミカと朝倉ユカ両名の誕生日である。

 俺にとって初めて迎える、友達の誕生日だ。正確には友達の誕生日を意識するのが初めてという意味だが。

 今までの友達はみんな浅い付き合いだったからなぁ。誕生日を聞いても次の日には忘れてる程だった。


 だが今回は違う。ミカにユカ、二人とも俺なんかと仲良くしてくれている。そんな二人に俺も友達として何かお返しをしたい。

 そう感じている自分に、人間として少しだけ成長したのかなと思ったりする。


「プレゼントは用意した。後は渡すだけだ……気に入って貰えるか分からんが」


 ええい弱気になるな俺! ミカも言ってたじゃないか、こういうのは気持ちが大事だって。

 悪趣味なアクセサリーとか怪しい通販で買った健康グッズを渡すわけじゃないんだ。どんと構えていこう。



「お前知ってる? 今日朝倉さん誕生日なんだってよ」


「へぇ~知らなかった。朝倉さんって6月生まれなのな」


 ふん、クラスのリア充どもめ。俺は以前から知っていたぞ。アンテナの低い奴らめ。普段から朝倉さん朝倉さんとうるさい割にそういう情報には疎いんだな。

 いや俺は本人から教えてもらったんだから知ってて当然なのだが。

 いかんな、こういうところでマウントを取ろうとするから陰キャから脱却できんのだ。


 しかしリア充も知らなかった二人の情報を俺だけは知っていたという事実に優越感を抱かないと言えば嘘になる。

 オタクは知識でマウントを取りたがる生き物だからな。アニメの設定をどれだけ把握しているかでオタクの序列が決まったりするし。


「ふっ……このにわかどもめ……。お前ら全員ミカユカについて浅いんだよ……くくく」


 駄目だ……まだ笑うな……堪えるんだ……。一人でニヤニヤしてると完全に不審者だと思われてしまう。抑えなくては……。



「朝倉さん見かけたら声かけちゃおうぜ! 誕生日おめでとうって言っておきゃ、いきなり話しかけても大丈夫っしょ」


「天才~! お前まじ現代のダヴィンチ!」


 アホか、そんなことで引き合いに出されるダヴィンチが可愛そうだわ。万能の天才に謝れ。


「ん、通知が来た。ユカからだ……えっと」


 ユカからLIMEで『中庭に来て~♪』と連絡が来た。俺は朝倉談義で盛り上がるリア充どもを尻目に教室を後にする。


 中庭のいつものベンチにミカとユカが揃って待っていた。俺は二人のいる場所へ歩いていき、ベンチの前で立ち止まって話しかける。


「よっ。その、誕生日おめでとな」


「ありがとー! 朝倉ユカ、本日を持って16歳です☆」


「ミカも……16歳に……なったよ……。にゅふふ……りょう君より……お姉さんだね……」


「そうか、二人の方が年上になっちゃったな。まあ半年もしないうちに追いつくからどうでもいいけどさ」


 そもそも同学年だし年齢がひとつ上になったくらいで何かが変わるわけでもあるまい。

 でもそう考えると、たった数ヶ月誕生日が違うだけでも学年が上だと明確に先輩後輩と区分けされるから不思議だ。

 たった一学年差でも先輩には平身低頭で接さなければいけないから大変だよな。運動部なんかは特に。これは日本特有の文化なのだろうか。


 ま、陰キャの俺に先輩後輩なんてシガラミ関係ないけどな!


「んふふ……いつもはりょう君に……頼ってばっかりだけど……今日はミカがお姉さん……!」


「おーいミカ俺の話聞いてたかー。同学年だから関係ないって言ってるでしょうが」


 しかしミカは俺の言葉など耳に届いてない様で、勝手に話を進めてしまう。


「ほら……りょう君……お姉さん……だよ。えへへ……いっつも優しくしてくれて……ありがと……よしよし……」


「ちょ、いきなり頭撫でるなよ! 何、お姉さんキャラで売り出そうとしてるの? ちょっと無理あるぞ」


「むぅ……今はミカがお姉さんなの……! りょう君は……ミカの言うこと……聞く……!」


「なんでそんなに強気!? 誕生日だからってテンションおかしくないですかねミカさん!」


 確かに朝倉姉妹の姉ポジションではあるけどさぁ! どう考えてもお姉さんって柄じゃないだろお前!

 まだ甘えん坊の妹キャラの方が性に合ってるぞ、姉だけどさ。


「りょう君……いい子いい子……にゅふふ……」


「くっ……抵抗したいのに不思議と体が動かない。意外とお姉さんキャラハマってるのか!?」


 ミカのナデナデの効果は凄まじく、俺の体からあっと言う間に力を吸い取ってしまう。

 さっきまでベンチの前に突っ立ってたのに、気付けばいつの間にかベンチに腰を下ろしてナデナデを受け入れてしまっている。


 こうなったらユカに助け船を出すしかない。頼むユカ、暴走するを止めてくれ!


「むぅ~……。ユカもリョウ君にお姉ちゃんぶりたいー!」


「はいぃ!? なんでユカまでそうなるのさ!」


 お前はツッコミ役に回ってくれ。二人してボケに回られたらツッコミ不在になっちゃうだろ。


 しかしユカは俺の懇願するような視線に微塵も気付かず、暴走し始める。


「ほらリョウ君、ユカにも甘えていいよー。ぎゅー」


「む、むぐっ! おま、頭を押さえるな……苦しい……!」


 なんとユカはいきなり俺の頭を抱きかかえだした。

 顔全体に柔らかい感触を感じて、驚きで脳みそがショートしそうだ。おまけになんか甘い匂いがするし。

 どんな状況だよこれ、陰キャには刺激が強すぎる……!


「あ……ユカちゃんずるい……ミカもする……!」


「ほぁっ!?」


 後頭部にも柔らかい感触が!? ま、まさかミカまで俺に抱きついてきたのか?

 どうなってんだこの姉妹、二人して変なテンションになってしまっているぞ。


 駄目だ……前門のユカ、後門のミカに阻まれて逃げることが出来ない。甘い匂いとふにふにの感触で俺の頭はオーバーロードだ。


「ど、どう? ユカお姉ちゃん出来てるかなー?」


「んふふ……恥ずかしがってるりょう君……かわいい……」


 頼むから誰か助けてくれ。このままだと俺が恥ずか死ぬ。



 こうして待ちに待った朝倉姉妹の誕生日は、二人からの抱擁という衝撃の出来事で幕を開けたのだった。

 俺は果たして今日を無事に生き残れるのか。心臓の鼓動がマッハ過ぎて寿命が尽きないか心配になってきたぞ。

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