第13話 双子の姉に手作り弁当をもらった

「昼飯、昼飯……あれ?」


 昼休み。弁当を食べようと鞄に手を掛けた時、視界の端に見覚えのある顔が映った。

 廊下の外からミカが俺の方を見ていたのだ。


 どうしたんだろうミカ、あいつが俺のクラスに来るなんて珍しい。ひょっとして俺に用事でもあるんだろうか。中々教室に入ってこないミカに、陰キャとしてのシンパシーを覚える。

 他の教室に入っていくのって勇気いるよなぁ。自分のクラスでは味わえない圧倒的アウェイ感がある。しかも用事のある相手がいても、そいつが他のやつと一緒にいたら話しかけづらい。


 分かるぞミカ……! さっきからおろおろと教室の前を行ったり来たりしてるその気持ち……お前も気まずいんだろう。


 俺はこれ以上ミカに気を使わせまいと、自分から廊下へ出る。


「どうしたんだミカ。何か用事あった?」


「えっと……りょう君……あの……」


 もじもじと身を捩るミカ。何か言いにくい事でもあるのだろうか。

 ミカは口をもごもごと動かし、俺に何かを伝えようとした。


「あの……おべん……とう……」


「弁当? ああ、昼飯か。ひ、ひょっとして、この前みたいに一緒に食べようって、誘ってくれてる?」


 以前朝倉姉妹と一緒に昼飯を食べたけど、あの時は美少女に挟まれてろくに味が分からなかったなぁ。

 もし今日も誘ってくれるんなら、ありがたい反面俺にはちょっとキツい。陰キャへの刺激的な意味で。


 しかしミカは肯定するわけでもなく、どこか歯切れの悪い様子だ。


「あぅ……その……お昼……一緒に食べようっていうのは……そうなんだけど……」


「あ、ありがと。ミカに誘ってもらえるのは嬉しい……うん」


「んふふ……。あ……でも……それだけじゃ……なくて」


 ミカの用事は昼飯の同席だけじゃないのだろう。続きの言葉を待っていると、ミカはか細い声で言葉を紡いだ。


「ミ……ミカが作った……お弁当……食べてくだしゃい!」


「べ、弁当!? ま、マジか……」


「マジ……です……」


 そういえば前にユカが聞いてきたな。ミカが作った弁当を食べたいか……とか。

 あれってそういう質問だったのか。まさか本当にミカが俺に弁当を作ってきてくれるなんて、思いもしなかった。


 え……というか何、すごい嬉しいんだが……。

 女子から手作り弁当もらえるって、俺今日死ぬのか?

 一生縁がないイベントと思ってただけに、今後の運を全て使ってしまったんじゃないかと思ってしまう。


「一応……勉強会の……お礼も……兼ねて……です」


「ああ、打ち上げの時言いかけたのってこれのことだったんだ……」


「う、うん……」


 あの時、ミカがお礼に何かするって言ってたもんな。ユカが合流した後、話題が逸れたからすっかり忘れてしまってたけど。


「と、とりあえずまた中庭に行こうか。ユカも来るのか?」


「ゆ、ユカちゃんは……友達と食べてる……よ。それに……恥ずかしいから……ユカちゃんには……内緒……お願い……」


 ぐはっ! 上目遣いで秘密の約束なんてポイント高すぎだろ……!

 何なの、ミカは陰キャ男子への特攻スキルでも持ってるのか?

 この前から俺の心に刺さる行動ばっかりで、こっちのライフポイントが保たないんだが。


 いやはや、恐ろしい女だ。俺が下心のないやつだから良かったものの、とんでもない破壊力を持っているぜ。朝倉美佳……恐るべし。





 中庭には相変わらず女子グループか、カップルしかいなかった。

 正直俺には場違いな気がするんだが、生憎ここくらいしか行く場所がなかった。

 お互いの教室で弁当を一緒に食うわけにもいかないしな。変な噂が立つし、ミカも注目されるのは嫌だろう。


「あの……どうぞ……!」


「おお……普通に美味そう」


 ミカの出してきた弁当箱には、色とりどりのおかずが入っていた。バランスのいい、見た目も味も美味しそうな弁当だ。

 本人には悪いけど、てっきり料理とも呼べないダークマターのような物体か、茶色一色の弁当が出てくると思ってたので意外だ。

 もしかして、ミカって料理上手なのか……?


「うん、味もおいしい……ん?」


 美味しいけど、何か変だ。やたらモサモサしてるような。あと気持ちひんやりしてる。俺の気のせいか?


「白米もしっかり炊けてる……あれ?」


 箸で白米を掴もうとしたら、ブロック状で出てきたんだけど。なんだこれ……?

 口に入れるとすごいパサパサしてる。まるで水分を抜かれたような状態だ。


 いや味は普通なんだ。他のおかずもそうだが、食感が少しおかしい。

 ここまでくれば勘違いじゃない。この弁当、何かがおかしい。


「ど……どう……かな……?」


「あの、ミカさん……? この弁当の中身って、もしかして全部……」


「うん……冷食……自然解凍で食べれるやつ……。冷凍庫から出して……弁当箱に入れるだけ……ラクチン……!」


 や、やっぱりかー! 道理で食感がおかしいわけだよ!

 おかず全部を冷凍されたまま弁当箱に入れたから、微妙に解凍しきれてないぞ!?

 しかも白米も、たぶん冷蔵庫で冷やしてたのをそのまま入れてるな。冷めたままだし、水分も抜けてるから変な食感だ。

 つまり普通なら自然解凍出来るはずなのに、弁当の中身が全部冷たいから解凍出来てない。こういう調理ミスってあるんだな……。


 いや食べれなくはない。何度も言うが、冷食だけあって味は美味い。だが食感が……かなりつらい……。


「おいしい……?」


 ミカが期待した眼差しで俺を見ている。く……言えない。これ解凍出来てないよなんてマジレス、言えるわけがない……!


「う……うん……美味しいよ……。ミカ、ありがとう……すっごく嬉しい」


「んふふ……よかったぁ……」


「……っ」


 この笑顔が見れたなら、冷たい弁当なんて問題じゃない。

 でもせめてこれくらい言わせてくれないか。水をくれ……。


「また作ったら……食べて……くれる……?」


「…………………………………………もちろん」


 断れるわけないだろ、そんな顔で聞かれたらさぁ!




 俺は口の中の水分を奪われながらも、どうにか弁当を完食出来た。

 

 ちなみにミカ自身の昼飯は親が作った弁当のようだった。

 そっちは見たところ普通に作られているあたり、俺が食べた弁当はミカが本人なりに一生懸命作ってくれたんだろう。

 その気持ちはとても嬉しい。けどやっぱり、また同じのを食べるのは少し怖いので、ユカにそれとなく伝えて貰おう。



 こうして初めて女子から貰った手作り(?)弁当は、俺の記憶に強く残ったのであった。

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