第9話 双子の妹と俺が付き合ってるって噂が流れた
五月も中盤に入り、教室の中にピリピリとした空気が漂っている。そう、中間テストが間近に迫っているのである。
高校に入ってから初めてのテストだ。ここで順位が悪いものなら単身赴任をしている父さんに怒られるだろうなぁ。
最低でも赤点は避けなければ、夏に地獄の説教を浴びることになる。
「にしても、テストだるいなぁ」
「ほんそれ。一年の一学期とか期末だけでよくね?」
「だよな。たった一ヶ月半で何をテストするっつーんだよって話」
陰キャ仲間たちも同じ意見のようだ。
そもそもテストが好きな人間なんてそうそういないだろう。好きなのは真面目なやつか、余程の物好きだ。少なくともうちの学校にはいないな。進学校じゃないし。
「そういえば進藤、ずっと気になってたんだけど……」
陰キャ仲間の一人が真面目な顔をしている。いったいどうしたんだ急に。
「お前、朝倉さんと付き合ってんの?」
「は、はぁ? どうしてそんな話になるんだよ」
「いやだってそりゃ気になるだろ、なあ?」
「噂になってるぜ。あの朝倉さんに彼氏が出来たんじゃないかってな。ま、お前の名前までは出てないけど」
「影薄いもんなぁ進藤」
お前らが言うなよ! 同じ陰キャだろうが!
というか、そこまで噂になっていたのか……。確かにここ数日、やけに周りから視線を感じるなと思ってはいたが……。
もしやあれは全部男子からの嫉妬の眼差しだったのか。怖っ、どんだけ恨まれてんだよ俺。
しかも更に恐ろしいところは、それだけ噂になってるのに誰一人として俺に話しかけてこないことだ。渦中の人物なのに触れられもしないって……。
「言っておくけど別に付き合ってるわけじゃないからな。大体あいつは俺のこと、そんな風に見てないだろうし」
「あいつねぇ……。知らない間に随分と仲良くなってんだな」
「べ、別にそういうんじゃないって。本人にも迷惑だろうし、あまり変な噂が立つのも嫌なんだけどな」
俺が周りからどう思われようと別に構わないけど、友達いないし。でもユカを野次馬のような目で見るのはやめてもらいたい。
あいつは読モやってるって言ってたし、ただでさえ変なやつに絡まれるのにこれ以上面倒事を抱えさせるのは避けたい。
その原因は俺なんですけどね、ハハハ。いや全く笑えない状況だけど。
「付き合ってないってーんなら朝倉さんと何してんだよ」
「それは……あれだよ。ほら、て……天気の話とか」
俺のアホ! 言い訳にしても、もうちょっと何かあるだろ! 何だよ天気の話って。今日日初対面のやつ相手でも話さんわそんなこと!
「あ、そういえば今日は用事があるんだった。じゃあなー!」
「逃げたぞあいつ!」
「ありゃ絶対何かあるな……」
ふん、好きに喚くがいい同士たちよ。お前らがどう思おうと、俺とユカ……あと噂とは関係ないけどミカ。その三人の間には後ろめたいことなど一切無い。
俺は逃げ出したんじゃない。説明の義務を感じないからこの場を離れただけなのだ。
お前たちはゴシップに流されて好き勝手想像しているが、そんなこと知るか。陰キャの俺に美少女の彼女が出来るわけないだろ、常識で考えてくれ。
「やれやれ噂好きの奴らはこれだから……。けど念のため、しばらくは人前でユカに絡まない方がいいのか?」
「ユカがどうかしたー?」
耳元に跳ねるような声がかけられる。驚いて後ろに飛び跳ね、慎重に声のした方を見るとそこにはユカがいた。
ちなみに声に驚いて飛び跳ねたわけだが、この時の俺の身体能力は猫をも凌いでいただろう。
火事場の馬鹿力ってこういうやつのことを言うんだろうなぁ。自分の中に眠っていた野生の力に感心するばかりだ。
俺は慌てた様子を見せながらも後ろにいるユカに話しかけた。
「いつの間に後ろにいたんだよお前……」
「さっきからいたよー」
「いたなら声かけてくれ。マジでびっくりしたぞ」
俺が名うてのスナイパーなら後ろに立った時点で反撃してたところだったぞ。
「かけたよー。でもリョウ君全然気付かないんだもん」
「あれそうだっけ?」
「うん。君って結構一人で考え事してるよねー」
うぐっ、一人だとつい考え込んでしまうんだよなぁ。
目の前のことが見えなくなるのは俺の悪い癖だ。友達がいないから、一人で考えてる時間が多くなるというのが原因だろう。
そのせいで更にぼっちになる。何という凶悪コンボだ、禁止カードに指定されるレベル。
「で、私がどうかしたの? 名前呼んでたよねさっき」
「別に何でもないよ」
「うそー。あれだけ恋しそうに『ユカ……ユカ……』って言ってたのにー」
「え、マジか……俺そんなこと口走ってたのか……!?」
頭の中で考えていることと口にした言葉が違うというのはたまにある。だがまさかそこまで乖離しているとは……。
これは一旦頭のクリーンアップでもしたほうがいいんじゃないか。もしくは口を修理にでも出すか。
「一応言っておくけど冗談だからね……?」
「はっ。また考え込んでしまった……!」
「あははー。リョウ君って真面目だねー」
真面目……? それはもしかしてギャグで言っているのだろうか。その言葉は俺と両極に位置していると思ってるんだが。
「それで結局、何で私の名前呼んでたの」
「……まあ隠しても仕方ないから言うけどさ、ユカが最近よく俺と話してるから変な噂が立ってるんだよ」
「へぇーどんな噂? 教えて教えて」
「それは、ほら。女子が男子と仲良くしてると……な。分かるだろ……?」
お願いしますユカさん察してください。本人の目の前で『俺とお前、付き合ってるって言われてるぜー』とか言いたくないんです。
とてもじゃないけど口に出来ません。学校一の美少女相手に恐れ多いってのもあるけど、羞恥心がやばい。
「ユカ、それだけじゃ分かんないかなー? もっと詳しく言ってくれないとー♪」
「はぁ!? それを言わせますかね普通! さてはお前分かって言ってるな、からかってるな!」
「さぁー何のことやらー♪」
くそぅ、勝ち誇ったような笑みさえ様になっている。これじゃあ完全にユカの手のひらの上じゃないか。
「ねえ言ってみてよ。どんな噂? ユカ、リョウ君の口から直接聞きたーい」
「ぐ……ユカ……このドSめ……」
「人聞き悪ーい! ユカは別にSじゃないもん!」
じゃあMなのか? と聞きたいけど、それを言ったらセクハラで訴えられそうだからやめておこう。
しかしこのままだと俺の負けになってしまう。どうにかして逆転の一手を打たないと。
いや別に勝負してるわけじゃないんだけどね。
特に打開策も思いつかなかった俺は、ごり押し作戦を遂行した。
「と、とにかく俺といるとユカに変な噂が立つから、極力会うのやめとこう。な!」
「何でよ、ユカ別に噂とか気にしないよ-。れともリョウ君はユカと会うの嫌なの?」
「い、嫌じゃない……というかユカと話すのは楽しいけど……それとこれとは話が別なわけで……」
「聞こえない! ちゃんと大きな声で言って」
ダメだ、俺の負けだ。曖昧な言葉で誤魔化せる気がしない。ユカにちゃんと説明しないと、ずっと追求されてしまいそうだ。
「だから俺と付き合ってるって噂が立ってるから、会うの控えようって言ってるんだよー!」
「へ……?」
「え……?」
ユカ? 何でそんな不意を突かれたような顔をしてるんです?
も、もしかして本当にどんな噂が立ってるか気付いてなかったのか。
いやそんなことあるか!? 普通何となく察するだろ、いやマジか!?
ユカは顔を赤らめて、頬を掻きながらあたふたとしている。
「あ、あははー……。そ、そうなんだー……ユカたちそんな風に見られてるんだー……。えへ、えへへ……」
俺の勘違いだろうけど、何故かユカは嬉しそうに笑っている。うん。きっと俺の目がおかしいんだろうな。こんな噂が立っていると聞いて、ユカが喜ぶはずがないし。
「あ、あの……ユカ撮影の打ち合わせがあるし、その……じゃあねー!」
ユカは廊下を猛スピードで駆け抜けていき、学校を後にした。露骨に避けられた……嫌われたなきっと。
やっぱり陰キャと付き合ってるって思われたのは、ユカにとってショックだったんだろう。
寂しくはあるが、彼女に面倒を掛けてしまうくらいならこの方がずっといい。
「ハハハ不思議だな、涙が止まらねえや」
とりあえず、明日ユカに全力で土下座しよう。
家に帰ったらジャンピング土下座の練習でもするか。そう思ってないとやってられない俺なのだった。
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