EP13.悪魔とわたしのカミサマ
すっかり忘れ去られそうな教会組……
彼らは祓い屋(エクソシスト)としての能力をそれぞれ有するが、いかんせん相手は天使。しかも信仰していたその対象。
天使迎撃の際は戦闘よりも、サポートとして動いていた。
ルース・クリーバーズ。
神父としてはいかがなものかという問題児。なぜか回復も使えるので負傷者の保護にあたる。本人的にはずがーんとかぼがーんとか破壊向きの魔術が得意なようなので、参戦させてもよさそうだが、単独行動をしがちなので邪魔にならないようにという采配だ。
フェリシオン神父。
神父らしい慈愛に満ちた神父なので、ふつうにサポートに徹してくれている。ルースは清明の預かり、フェリシオンは保護対象だったが、時が時なのでついでに救護係でルースの制御を任せられている。
そして、シスターマリア・バードック……
「いるわいるわ。お前らの崇め奉ってたやつらが来たぞ」
ほれ、どうする。とばかりに薄い笑みを浮かべてダンタリオンは、彼女を見た。
なんとなく犬猿の仲であった二人がそこにいるのは単なる偶然……ではない。
シスターはけが人の救助、搬送、伝達など細部に手を貸してくれていたが一人で細い路地を走っているところをみつけたダンタリオンがからかい半分に、降りてきた次第。
「天使……正直、わたくしもこれだけ間近で見るのは初めてです。理由があるにしてもなぜこのようなことをするのか、それは聞いてみたいところですわ」
走るのをやめずにシスターは前を見ながらそう言った。シスター服は目立つため、彼女は教会を出て「保護」された時からそれを身にまとってはいない。
なかなか大人の女性、といったグラマラスな体型をしたシスターはピンヒールなど履いていると全く見た目的にシスターには見えない。
「じゃあ聞いてみたらいい」
意地悪そうな笑みを浮かべながらダンタリオン。天使が一人、行く先をふさぐように道の先に降り立った。
足を止める。その先に微笑を浮かべ、両の眼には包帯のようなものをまいた盲目の天使が微笑を浮かべながらただ静かにこちらを向いていた。
「……言われなくても。いい機会ですもの」
シスターもまた止めていた足を、静かに進ませる。焦りや恐怖はなかった。
ダンタリオンはにやにやとしながらそれを眺めている。
見ものではないか。
天使と人という違いはあれど、神の使徒がどのようなやりとりをするのか。
信奉していたものに、何の理由も知らされず殺されるのはどんな気分なのか。
天使が何も答えないことはわかっていた。
何かがあっても助ける気はなかった。
残念ながらダンタリオンは慈善事業をしているわけではない。彼女は仲間でも、この国の人間でも、保護をする対象でもない。
けれど、そのやりとりは見ものだと思ったからここへ来た。ほんの少しの時間、戦線は離れたがそれでも見る価値はあると思ったからだ。
「神の御使い、白き翼をもつ天の使いの御方。わたくしたちはあなたたちを信じてまいりました」
ダンタリオン相手に発したこともない丁寧な言葉で、シスターは語りかけた。
「なぜこのようなことをなさるのです。親も子も、等しく命を奪う行為には、いったい何の意味があるのですか」
微笑を浮かべたまま。天使が動いた。
翼を優雅に一度打つと、初めの羽ばたきからは想像できない速度でシスターマリアのもとへ飛び、手を伸ばした。
その額へと。
それに触れられた瞬間、人は塩に変わる。
信じていたものに消し飛ばされるのはどんな気分なのか。
自らの信徒を躊躇なく消し去るその気分はどんなものなのか。
天使の無機質さに、そちらは何も期待はしていなかったが……珍しく眺めるだけのダンタリオンの目の前で、だが、しかし、予想外のことが起こった。
「でりゃーーーー!!!! ですわ!」
ボゴッ ズガーン。
天使はシスターマリアの拳を真正面から受けて後ろに吹っ飛びT字路の突き当り。建物の壁に背中から埋没して、同時に崩れた建物の下敷きになった。
「……」
「失礼ですわ。人の問いかけに答えもせずに触れようとなどしてくるなど」
いや、触れるっていうか殺されそうになってたんだけどな。
ふん、とこぶしを握り締めたまま憤慨して天使が埋まった瓦礫を正面に見下す。
予想外っていうか、ある意味予想通りではあることも否めない。
「お前のカミサマの下僕だろう。いきなりぶっ飛ばす方がどうなんだ?」
「フェリシオン様が言われました……何が正しいのか、それは自分で見極めるものだと。そして、神もまた身の内におられるものなのだと」
そうか。こいつの神はつまりフェリシオンなのだな、それ以外はどうでもいいんだな。
と納得のダンタリオン。そのフェリシオンという神父が人としてすこぶるまともなのが、救いだ。
天使に鉄拳制裁を加えたシスターはもうそちらは興味ないように再び道なりに走り出した。
「わたくし、この国に来て色々な方と出会いました。このパンデミックの中で学んだことは、答えは自分しか持ってはいないということですわ」
「ふん、まぁまぁな改宗具合じゃねーの?」
珍しく満足いく言葉を耳にして、はじめてダンタリオンはその口元を吊り上げた。少し高台にいた彼は、足場を蹴って戦線に復帰する。
「カミサマ、なんてのはどこにも存在してねーんだよ」
「あら、どこにでも存在してますわよ。それぞれの中に、ですけれど」
最後まで意見は合わないが、まぁいいだろう。
いろいろな奴がいるのがこの世界というものだ。
それは魔界も人間界も同じこと。
互いの主張が違ったところで、今までと何も変わらない。
ごく短い余興の場を、ダンタリオンは振り返ることなく離れ、目の前に現れた神の使いをただ、笑いとともに屠った。
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