最後のバカ騒ぎ編

1.死亡フラグ全力回避(いつもの四人)

「そんなわけで。最終決戦に向けて今日は各自の意気込みを聞こう」


いつもの魔界の大使館。ダンタリオンが唐突にのたもうた。


「最終決戦て……意気込みも何も、ファンタジー世界のラスボス戦じゃないんだから」

「馬鹿者。ある意味ラスボスだろうが。天界のマッチョ天使ことミカエルが相手なんだぞ。もうあいつ、狂戦士状態だから死ぬ気で行かないとまずいんだ。そんなわけでせめて意気込みを聞いて締めておこうかと」


一番締まった方がいいのはお前だろうと思ったが、あからさま「暇だから」みたいな話題だったのでそこは放って置く。

実際、決まることが決まったら当日まですることがなさそうなので暇なんだろう。


こんな時、先の予定に神経すり減らさないで済む性格は正直羨ましい。


「司さん……大丈夫ですか」

「秋葉、なんで俺に聞くんだ?」

「いえ、外交部することないけど既に一番締まっているのは特殊部隊の人たちだろうなと思って」

「日常業務と迎撃戦に備えたシミュレーターによる訓練、綿密な打ち合わせ。この繰り返しだからあと必要なのは平常心」


平常心だ。司さんは平常運行だ。


「失礼だけどシミュレーターの訓練って見てたら楽しそうだよね。ブルーインパルスの航空ショー的な見ごたえがありそうで」

「ホント失礼だぞ、忍。命かかってるのに」

「そうか。私も参戦組だからシミュレーションに参加させてもらおう」


忍もある意味平常運行だった。綿密な準備は得意なので興味本位から好転の発想に至ることも多々ある。……常人には理解しがたい発想も多いが。


「そんなわけで、ぜひ公爵の意気込みを聞かせてください」


忍は話を振り直した。


「オレか? オレは……そうだな、この戦いが終わったら一度魔界に戻ってそれから日本一周旅行でもするか」


何の意気込みだ。しかしこれに鋭く反応を示したのも忍だ。


「この戦いが終わったら、は死亡フラグの常套句ですが……大丈夫ですか公爵」

「! そういうつもりはない!」

「死亡フラグになるほど大した意気込みじゃないだろ」


死亡フラグ、それは物語などにおいて「こいつ死ぬな」という展開の前に立つものである(特に終盤)。

セリフとしては「この戦いが終わったら」「ここは俺に任せて先に行け」などが割と有名だ。


「魔界に戻って、っていうのが一度故郷に戻って的なフラグ立つトリガーに聞こえた」

「立ってない! そんなものは。じゃあ聞くがツカサ! 意気込みはともかくお前、ミカエル討伐後、何したい?」

「……」


こいつ、司さん巻き込もうとしてるよ。無理やり「この戦いが終わったら」前提で話させようとしてるよ。


「平常業務は続きそうなので、日常を送りつつたまには不知火を散歩にでも連れていきますか」


なんのフラグにもなりそうもない日常の続きを述べることで司さんはフラグを見事に回避した。

死亡フラグは、後半が重要なものほど致死率が高くなる傾向にある。


「もっと大きな志はないのか!」

「どう頑張っても日常の延長が待っているだけだと思うし、俺はそれで十分なので」


うん、そうだな。オレもそう思う。

普通でいたいオレには、日常こそが割と大事に思えて仕方ない。


「秋葉は?」

「なんで忍が聞いてくるんだよ。オレはたらればで話する気ないから。どう頑張っても戦場に出ない外交部にフラグ立たないから」


たらればとは、~だっ「たら」、~が終わ「れば」みたいな架空の未来に向けて使われる言葉の総称である。


「そうか、秋葉はタラバが食いたいのか。わかった。この戦いが終わったら、オレが高級料亭でみんなまとめて打ち上げ気分で奢ってやるからな」

「無理やり希望にすんな! なんだよタラバって!」

「カニじゃなくてヤドカリのやつ」

「え、マジで? 高級食材タラバはヤドカリだったの? オレたちヤドカリをカニの王様とか言って崇めてたの?」


ここにきて、何の意味もない衝撃的な事実が発覚した。


「どうでもいいが、今の発言は、意図していない秋葉より『みんなに奢る』と豪語した公爵の方にフラグが立つんじゃないのか」

「ツカサ~お前はオレをそんなに殺したいのか」

「殺しても死ななそうだから大丈夫です。フラグ立ったら壊しておけばいいじゃないですか」


確かに立てるより壊す方がなんとなく得意そうだとオレは思う。

一方で割と適当にあしらっている意外と柔軟思考な司さん。普段黙っている分、ダンタリオンが余計なことでかまうと地味に倍返しを食らうのはこんな時だ。


「……そうか。最強とは言わないがオレは敵なしくらいの戦いぶりを弄している。そういえば今まで怪我一つ負っていない」

「そういうやつに限って最後に痛いの食らうんだよな」

「なんでもフラグにするな。大体オレは悪魔だ。万が一どころか億に一もないが、現世の身体が致死状態になっても別名地獄こと魔界に戻るだけだろうし、そもそも死亡フラグとかなかったわ」


ははは、と馬鹿馬鹿しさを込めた笑いを放っているダンタリオン。さすが在日も3年近くになると人間寄りの思考になりがちなのか、失念していることも多いようだ。


「じゃあ打ち上げは高級料亭でカニ食べ放題らしいから」

「部隊のやつらにも伝えておきます。男ばかりなので多分モチベ上げて喜びます」

「ちょっと待て。なんでそっちまで面倒見なきゃならないんだ」

「「みんなまとめてって言ったから」」


司さんと忍が絶妙のタイミングでハモっている。これにより、後のご苦労振る舞いがダンタリオンの担当となったことは、あまり知られていない。

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