霊装‐想いに応える者(中編)
心の在り方。
なぜ、ここまで来たのか。
そんなことは問われれば明確だった。
ただ、守りたいと思った。
こんな時代で、不条理に消されてしまった人々。両親。唯一残った双子の片割れ。
この国を守りたい、なんて大それたことは思っていない。けれどあれほどの無力さを味わうのはもうごめんだ。
腹の底からじっとりとあの時に感じた様々な感情が湧いてくるようだった。けれど。
ただ、もうあんな想いをするのは、させるのは嫌だ。
それだけだ。たった、それだけのこと。
ふ、と気づくと。
いつのまにか握りしめたその手の横に、何かがいることに気が付いた。
「!!?」
俺よりも、周りの奴らが驚いている。それは巨大な犬の姿をした何かだった。
「『不知火』。白上くん、君は彼に選ばれたらしい」
「清明」はどこから見ていたのだろうか。突如現れたかのように見えたその存在に、億すことも、驚くこともなく微笑んで続けた。
「その姿で自分から足を運ぶのは珍しいことだ。よほど君のことが気に入ったようだね」
「『不知火』……?」
名を復唱すると「それ」は怜悧ささえ宿したその深い色の瞳で見ていたが、ふ、と伏せるようにしてその鼻先で、握られていた右手に触れてきた。
途端に、それは刀に姿を変え、俺ははっとして落ちる前に手に取る。
与えられた霊装よりも、どこかしっくりと手になじむ感覚。
「見えないって言ってたけど、今ふつうに……」
「不知火のように中には特別な姿を取る者もいる。それを人前に見せるか見せないかで言うと、見せない、あるいは人からは見えないことがほとんどだからそう言ったんです」
二人目の霊装を得た人間が出たことで、話が進みはじめた。
「不知火は強い具現化能力を持っている。白上くんが望むなら、武器としてではなく先ほどの姿で共闘してくれることも可能でしょう。あとは君たちの関係次第」
「ずっりー! 司! そんなお便利な霊装に選ばれるとかお前……」
ズドン!
「!!?」
何かが壁に突き刺さる音。声を上げた御岳……の方ではない。むしろその後ろの関係ない方から音がしたので、全員の視線がそちらを向いた。
真っ青になっている橘がいる。
「? 何か起こった?」
「……刀が……急に飛んできた」
確かに、橘の真後ろの壁には白刃を晒した刀が見事に水平に突き刺さっていて、すぐ近くのろうそくの明かりが揺れる度にきらりと妖艶な輝きを放っている。
「……橘くん、避けたの?」
「はい……」
突然の出来事に誰も見ていなかったが、その顔色と突き刺さっている位置を察するに顔のど真ん中めがけて飛んできたのは誰もが予想に易いことだった。
「良かったね。彼は悪戯が好きだから」
悪戯というレベルではない所業だが。
重厚な机の上なので「清明」が自らそれを引き抜きに行った。深々と厚い壁に突き刺さっていた割に、柔らかい果物にでも刺さっていたかのようにあっさりと抜ける。そしてそれは橘の手に。
「え、と……これ、俺に力を貸してくれるっていう?」
「性格はぞれぞれだから。見ての通りだよ。あと、避けられたところもポイントが高かったのでは」
避けられなかったら、18人の初期チームが17人になっているところだった。
そんなことをしている間に、次々とメンバーが「呼ばれ」出した。
なんとなく気になる、文字通り呼ばれた状態でそこへ行く。そんな感じで足を運ぶと手に取れる。
浅井と俺の演出は何だったのかというくらいの展開だ。
「……早く気に入った人を取らないと、他の誰かに取られてしまう、という現象かな」
感心したように、彼の術師はそれを眺めている。
「時間ももうそろそろ切り上げだし……」
「えぇっ!? 俺まだ何も来てないけど!?」
「鈍感なだけじゃないのか」
「鈍感で気づいてもらえなかったら、やっぱりやめた。みたいなことになりそうだよな」
制限時間が迫っているらしい。ここまでおよそ半数ほどが霊装を手に入れた。御岳はまだ……というか、手に入れられない組なのか。
つい俺がつっこむと同僚がそれに乗って続いている。
それはたぶん、ある。
「それより、俺、南さんにお声がかからないっていうのがすごく不思議だよ……」
「俺か? 俺は拳があるから選ばれても使いこなせないと思ったからなぁ」
南さんは力が尋常でなく強いのでわからないでもない。が。
支給された刀くらいは使ってください。
率直な感想は黙っておく。
「残念だけれど、ここまでだ」
そして終了の宣言がされた。
「セイメイさん、オレまだ」
「時間はちゃんとみんな知ってるから、残念だけれど」
御岳がピンポイントで二度言われている。
撤収モードに入る。
相性、というからにはここにいる存在と合わなかったというだけで、そんな説明を受けていた霊装を手にできなかった面子は、ちゃんと納得している。
南さんのように、分をわきまえたやつもいる。
「ほら、御岳。撤収!」
「浅井のとか、上品な女の人っぽい感じだったけど、他にはどんな人が?」
「時間を伸ばそうとしてもだめだぞ」
「そういうことは聞きたいなら先に聞けよ」
タイムマネジメントも叩きこまれた俺たちは、時間を守る。実戦でも秒どころかミリ単位ずれたら大変なことになるのももう知っているからだ。が。
「俺の相棒~」
「そんなものはいない」
何人かで力づくで撤収。もちろん俺はさっさと先に行く。
苦笑しながら、最後に扉を閉めようとする「清明」。
その時、ガタガタと部屋の奥で何かが鳴った。
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