議題5ー読者さんの気になるところ

議題5.読者さんの気になるところ


「応援もしてくれてるんだけど、疑義になりそうなのは、気になることろ欄」


渡された忍が声に出してみんなに聞こえるように読み上げた。


「『秋葉の主人公としての立ち位置について、主人公なのに消極的すぎませんか? 凡人でも活躍している人はいます』」


……。


一瞬静まり返る総員。

しかし。


「……なんだ? この振出しに戻った感」

「ラノベにおける凡人は活躍した時点で、凡人ではない気がする」

「消極的って言うか、まわりの灰汁が強すぎるんだよ。ふつうだから、ついていけないの」

「それが奇をてらっているっていうんだよ」


オレ、ふつうなの? それともオレの方がおかしいの?


秋葉が素で混乱を始めた模様です。


「そもそもこの小説自体が、普通という名のかさを着た何かなわけですが、というか個人的にはごく最近になって本当に秋葉の一貫した普通を貫きたい姿勢に感心してきた今日この頃です」

「そうだね、いいんじゃないの? リアルで」

「……リアルなのか? これ。一般人的にはこっちがリアルなの?」

「ラノベは夢と愛を配るんじゃなかった?」


リアルと夢が矛盾要素な感じがしてくる件について。


「現実離れした夢もいいけど、普通の人が普通であり続けることって、一番難しいんじゃないかな……」

「お前が言うと、なんかすごい説得力あるわ」

「というか、そのために周りの人たちもいるんだし。私たちが持っていないものを秋葉くんは持ってると思うよ」

「森さん…………


   ……………………オレの持ってるものって、何?」


「「「「……………………」」」」


そもそもが。

各所で開催される人気投票の上位陣は大体、主人公ではなく、周りの人々と相場は決まっている。


敢えて往年の著名作を例にしよう。


H×〇におけるキ×ア、クラ×カにしかり、

銀〇における真×組しかり、テイルズオブる何かにおけるリ×ン・マグナスやミ×リオ、F〇7のような作品なら思いっきりラスボス好きな人に偏ることもあり。


「とりあえず、いないと始まらないところ」

「そうだな、俺には無理だ」

「私も」

「オレは請け負ってもいいぞ? 次話から『魔界公爵異世界滞在記』とかにしとくか?」

「漢字が長い、くどい、っていうかお前の存在自体がくどい」


今まで大人しかった分、ここぞとばかりにたたみこんでいる秋葉。

いつも素直に謝ったり、素直に逃げてみたり、外聞関係なく素直に頼みこんでみたり、いろいろ人として実はすごいところがあると忍は最近思うのだが、そんな彼もたまにはフラストレーションが鬱積する。


「魔界公爵いらない。異世界ウルルン☆滞在記にしとけ」

「ふざけんな」


主人公の活躍はともかくとして……役割は確実にあると、信じていただきたい。


「内緒の話だけどさすがの作者も、指輪を手に取らなかった辺りがへたれすぎて、人離れするのではないかという心配をしていたらしく……」

「すみません、アスタロトさん。それオレに完全に聞こえない場所で言ってください」

「あ、ごめん。聞こえてた? まぁ人生上り下りがあるのがふつうだし、ふつうの人なら躊躇するのが普通だと思うから」


ふつうふつう連呼されすぎて、何が普通かわからなくなってくる件について。


「楽しいことでも毎日続いたら」

「それと気づかずに退屈と変わらないよね」

「まて、女子二人」


真実だが、デジャブな人にはデジャブるセリフだ。何かをかすめすぎている。


「第一、私や司くんが主人公になったら、一人称進行とか無理だからね。何も語らないで終わる」

「むしろ三行くらいで終わらせてくれ」

「お前ら揃いも揃ってやる気ゼロか」


ゼロというわけではないのだが、忍は秘密主義で、司は余計なことは言わないたちなので仕方がない。


「あと、俺は公爵の相手は無理だから」

「! そうだ。公爵にため口使ってるのは普通じゃない!」

「そうだぞ! お前、なんでアスタロトに敬語でオレにため口なんだ! 失礼じゃないか!!」


今更。


「それは秋葉にだって選ぶ権利があるってことだろう?」

「VIP待遇の大使相手に選ぶとかおかしいだろ。他の外交官は最大限の礼を払ってくるぞ!」

「お前は魔界でちやほやされて、人間界でもちやほやされすぎなんだよ! みんな真実を知らないだけだ!!」


意外な特技が発掘された。

ダンタリオン相手には、容赦なくつっこめるスキル……しかし、有効性は全く定かではない。

暖簾に腕押し、ぬかに釘とはよくいったものだ。


「特別、特別ねぇ……特別じゃなきゃ、駄目なの?」

「振り出しに戻ったな」

「でもそれって、ものすごく普通で、ものすごく哲学的な問いだよね」


自分は何者なのか。


そんな問いによく似ている。

などと忍と森のふたりはしみじみとしている。


「誰も特別な人なんていないよ。何を特別かと思うかは、人それぞれなんじゃないかな」

「悪魔召喚できるって結構特別だと思うけど、忍ちゃん自身が変わったわけじゃないしね」

「森ちゃんもカミサマ降りてるけど、本人変わるわけじゃないし」

「「設定だもんね」」

「こら」


身もふたもない発言に走っている女子二人。

その眼前では、悪魔とぎゃーぎゃー騒いでいる外交官の姿がある。


「……まぁいいんじゃないのかい? 面白ければ」

「「そうですね」」


結局は。

そこに執着してしまう、残りの冷静メンバーだった。

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