議題1-ヒロイン不在説
議題……というか疑問。ヒロインの不在について。
「……すでに人間関係がほぼ出来上がっているのに、そんなもの今から持ち出して一体何になるって言うんだよ……しかもそれ! SNSで流れてきた根拠も減ったくれもない誰かのテンプレだろ!」
「しかし、的を射ているところもあるぞ。例えば、愛されキャラの作り方とか」
「公爵、気持ち悪くなってきたので帰っていいですか」
「ヒロインがそうあるべきとは言ってないからな?」
「誰がヒロイン?」
「……………………………………」
(おさらい)
メインキャラは三人。
近江秋葉(男)→ 主人公
白上 司(男)→ バトルパート必須要員
戸越 忍(女)→ ……?
「お前、自分の立ち位置なんだと思ってるんだ?」
「え……『色々と説明がないと困る主人公に説明する係』かな」
「そうだけど……そうかもしれないけど……!」
わっ
思わず顔を覆って泣きたくなる秋葉、
「泣くな秋葉! ヒロインは単に見た目かわいくて性格媚びてるだけじゃ愛されないんだよ、役割も何もないヒロインは足引っ張るだけで逆に嫌われるってあるぞ!」
「ヒロインヒロインやかましいんですけど、そんなものは熨斗つけてやりたい人に進呈すればいい」
「やる気がなさすぎる……!」
忍がヒロインであるのかどうかは謎であるが、本人にそのつもりはないらしい。
ちなみに泣きたくなっただけで、秋葉は泣いてはいない。
「じゃあ仮に他にヒロインの役を誰かに譲るとして、だ」
「またそういう……いるの? そんな人」
「すでにヒロインという存在が存在しないみたいな口ぶりを主人公がするな!」
すっかり取り仕切っているのは唯一やる気満々のダンタリオンである。
このレギュラーメンバーで、この手の話になると後ろからひっぱたいて進行する役としては、重用されたい。
「ツカサの妹でいいじゃないか」
「司さんの妹……森さん……?」
たしかに森は美人かわいい外見だ。
見た目は髪型がショートカットで身軽そうな忍に反し、ストレートのロングヘアのサイドを後ろで軽くまとめた姿もそれっぽい。
というわけで、本人を呼んでみた。
「ヒロイン? ……そんなもの熨斗つけて誰かに進呈します。絶対やりたい人いるから」
「忍と同じこと言ってるよ!!」
「ツカサ! 一体どういうことだ!」
「……」
聞くまでもなく、わかっていたのか司、黙殺。
「他に女は!?」
「シスターバードックとか。シスターだけに、シスター服着せたらシスターだし、私服の時はナイスバディのお姉さんだし、口調も丁寧だ」
「ヒロインはなぁ……年増じゃ駄目なんだよ!」
「誰が年増ですこと? 齢千年超えているだろう魔の方に言われたくないですわ。それともわたくしの魅力に嫉妬なさっているのかしら」
呼ばなくても、出てきた。
「お前なんか呼んでねーんだよ! 化粧バリバリしてるシスターとかないだろ!顔の良し悪しより性格の良さを要求する!」
「あら、お化粧は女性の身だしなみですのよ。シスター姿の時は控えめにいたしますけどTPOというものがあり……失礼。悪魔に人間の常識など説いても無駄でしかないですわね」
「大事なことだからもういっぺん言うぞ。性格の良さを要求する」
「ではわたくしは、あなたが人間社会でうまくやっていけるように、人格の矯正を受け持って差し上げます。とりあえず、そのお口を永遠に封じて差し上げればよいかしら」
「それはこっちのセリフだからな!」
そして始まる乱闘。
シスターバードックは、嫌いな相手でも口調「だけ」は丁寧だが、直訳すると大変なことを、ダンタリオン相手によく言う。
ちなみに完全武闘派シスターだ。
「あの自己主張力は、主人公タイプのヒロインならありかもしれないが、主人公ありきだとポジションは今のままが適任だな」
「むしろ秋葉より戦闘力も決断力もあるから、何か主役で一本できそうだ」
「『シスターバードックの祓い屋事件簿』的な」
傍観している司が、本人に聞かれたら一撃食らいそうなことを言っている。
そして、続く、忍と森。
すでに事件は目の前で起きている。
「大体、物語なんていろいろなキャラがいるから面白いんじゃない。テンプレは人気があるかもしれないけど、嫌われキャラがいてこその関係もあると思うし、全員愛されキャラにしたらつまらないのでは?」
「それな」
妙に納得する一言だ。
人間には、合う合わないがある。
ブームは一過性であり、司の言うようにいつか廃れる。
それに乗るも乗らないも、書き手の選ぶことだろう。
次の議題へ進むことにする。
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