曇天(7)-戦いの終焉
本須賀葉月。
別に探そうとしていたわけではないけれど、一人だけ動きが違うのですぐに目についた。
大体、三人一組でチームになっている。
ここにいてわかったことだが、負傷者が出ると入れ替わりでそのチームを休ませて、ほかのチームが出る作戦になっていたらしく、いきなりの総力戦ではなくそれが被害を最小限にとどめる方法のようだった。
単独で動いている人たちもいて、彼らはゼロ世代の人たちだ。
これはあの人たちと当初からの付き合いのオレだからわかることだと思うが、本須賀のような「二期以降」はそう言う動きはしていない。
……独断行動なのだろう。
「本須賀さんは、何か大きな勘違いをしている」
気づいたのか忍が眉をひそめながらそれを見上げていた。
「ゼロ世代の人たちは、たぶん、遊撃隊の役なんだ」
「主力だと思うんだけど、遊撃隊にする意味ってあるのか?」
遊撃隊というのは、本来は本隊とは別動隊として動く隊を言う。
主戦力の人たちが本隊でないというのは、謎の編成だ。
「遊撃隊って、奇襲に対して臨機応変に迎撃する部隊でもあるらしいよ。たぶん、単独で撃破できるクラスの人がそれぞれ動いていて、言葉の通り臨機応変に力不足のチームをカバーしているんだ」
そういわれると、橘さんと御岳さんは、司さんと同じように完全に単独行動だ。が、メンバーの背後から迫る敵を狙っているような感じがする。
「単独で動いているようで、それぞれカバーしあってる。そのあたりはさすがにゼロ世代だよね」
そう、後進のバックを守りつつ、それぞれに天使が迫るとそれを別の誰かがフォローする。
確かにそんなチームワークだ。が、それに気づいてしまうと本須賀はただ、目についた天使を捌いているのはオレにもはっきりとわかった。
動きに規則性がない。
「よっぽど自信があるんだろうけど……あんな戦い方じゃいつか痛い目に合うよ」
「というか、チーム組んでる人が大丈夫なのか? あれ」
いつか司さんにこぼしていた第三部隊の人達の言葉の意味がよくわかる。
もしかしたら、エイドステーションにいるケガ人がそれではないかと思うと、ぞっとしない話だ。
しかし、本須賀は痛い目になど合わず……
戦いは終わろうとしている。
アスタロトさんが戻ってきた。
「……もう助っ人はいらなそうだね。それよりすごい助っ人が入っているようだけど。あれ、人間なのかい?」
「そう見えますか」
「司の妹なんだろう? 普通だって聞いてたけど」
「中身、日本の神様です」
へぇ~と、感心したようにアスタロトさんは残党を容赦なくさばき続けている森さんの姿をしたそれを見上げた。
「ついにこの国の神様も出てきたってわけか。……忍は知っていたんだ?」
「まぁ……彼女とは友人だし、いろいろ約束事があって……」
初耳だぞ。
というか、たぶん、知っているのは一部除いて、司さんと森さん、そして忍と、たぶん清明さんくらいなんだろうとは思う事態だ。
「彼はスサノオ神、日本では有名な荒神ですよ」
「! 清明さん」
ふいに背後からかかった声は、戻ってきた清明さんのものだった。
「結界の方がすべて済んだので。とりあえず、彼女の件以外はこれ以上問題はなさそうだけど……」
「彼女の件、って森さんのことですよね。問題なんですか」
「私もあれがスサノオで、下手したら乗っ取られるくらいしか聞いてないんですけど、清明さんなら戻せるんですか」
「残念ながら」
大変な事態になっている。すべてが、未知の状況に陥っているようだ。
「この国の神様は昔から他国に干渉しない・されないから、ボクはよく知らないんだけどそのスサノオっていうのは?」
アスタロトさんが聞いている。
いつもの口調だが、他にすることもないし、大事な情報でもあるんだろう。
こちらも、あとは戦況の収拾を待つしかない。一緒に聞くことにする。
「簡単に言ってしまえば、戦闘に長けた神です。日本では、ヤマタノオロチという巨大な化け物を退治した神として有名ですね」
「ヤマタノオロチ倒したのあのカミサマなんですか!?」
「……まぁ、こんなふうにヤマタノオロチの方が有名なんで、退治した方の名前まで覚えている日本人の方が少ないと思うんですが」
……確かに、ヤマタノオロチってモンスター系だから、なんかいろんなゲームとか小説とかに出てそうだよ。
なんでオレも知っているんだろうか。出所は曖昧だ。
「秋葉くん、君はもう知っているかわかりませんが、この国にはこの国の神が張った結界があるんです。『石』もその力をつなぐためのもので、姿はみせないけれど、確かに存在している」
「そ、うなんですか……」
エシェルから聞いていたので知っている、とは言えなかった。
忍は黙殺している。
「二重三重に結界が張られているのはボクも気づいていたけど、ここの国の神が出てこないのはそういう理由か」
「えぇ、おそらくは。ですが、スサノオ神は戦神に近いので、結界を維持するよりも本来こうして敵を屠る役目の方が向いており……直接聞いたわけではないですが『こういう時のために』降臨はしていたと」
「……それじゃあ、本人はよほど出番待ちしていたことだろうね」
「……そのようです」
最後の二人の声は、いつのもらしい感情が消えて聞こえた。
アスタロトさんの顔からも、笑みが消えている。
戦神が降り立つ。
その意味はつまり
「……なんで日本の神様は実体化しないんですか?」
「もともと、神道は宗教とは言い難いところもあるし、他の神魔とはおそらくルールが違うんでしょう。……それともここが母国であるからか、すみ分ける次元の関係か」
「依り代がないと、降りられないということですか」
依り代。
あまりなじみのない言葉だが、意味は分かる。
今の森さんの状態だろう。
器、依り代。
刀にしても人間にしても実体を持った存在に宿ることで現れる、ということか。
「そのあたりは昔からどこの国も大差ないねぇ……それで、彼は大人しく帰ってくれるタイプなのかい?」
答えはわかりきっているようなものだった。
清明さんの眉が曇る。
答えは、NOだった。
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