霊装(3)ー物の扱いで性格の差がわかる
清明さん。あの人は、術師の中でも特別なのはその時からうすうす気が付いていた。
「向こうが選ぶ、相性があるってことは個性もあるんですよね。性格とかあるんですか」
「……武器として使われているときは周りからはわからないが、引き合わされた時は相当、性格が出ていた」
「……刀に性格? どうやって出るの」
「ある人間は、向こうから鈴の音のような音で呼ばれて、他の奴はいきなり刃物が飛んできたり、最後の最後まで焦らされて遊ばれているような奴もいた」
……どうしよう、なんか、浅井さんと橘さんの話聞いてたからその内二例は、二人にしか思えなくなってきた。
「いきなり刃物が飛んでくる……お茶目さんだね」
「いや、死ぬだろ。刺さったら死ぬだろ」
「司くんはどんな呼ばれ方をしたの」
それ聞いちゃうのか。さっき即答しなかったから、あまり話したくないような感じしたけど……
と思ったが杞憂だったらしい。なんでもないように注文した品が届くと、ナイフやフォークの入った藤籠を回してくれながら言った。
「俺の場合は、協力的な感じで向こうから手元に来てくれた」
「……ホントに相性あるんですね。ひょっとして鈴とか浅井さんあたりさんじゃないですか」
「よくわかるな」
うん、浅井さんはいきなり刃物に攻撃されるようなタイプじゃないから。
なんとなくのイメージだ。
「浅井の刀は月姫と言って、清明さんによると名前の通り女神に近い存在らしい。正直言って、その場で起きた現象で性格がわかる程度の認識だから、そこまで言われてもわからないんだが……」
「刀に名前もついているんですね」
「秋葉、日本刀って大体名前付いてない?」
「……そういえばそうだな」
普段接しない上に、誰かが刀の名前なんて呼んでるところを聞いたことがないから、失念していた。
「名前というか銘は打たれるな。そういわれると、霊装の場合は実際宿っているものがいるからわかるが、普通に鍛冶で作られたものもそれぞれ名前が違うのは……どういうわけだ?」
「うん、司くんにしては珍しく私を見て疑問形なわけだけど、知らない」
作品名のようなものでは、と割と無責任な答えを返している。
「そこは調べないのか? 気にならないの?」
「料理にだって、たいてい名前はついている。刀に違う名前が一振りずつついててもおかしくない」
「……そういえばそうだな」
ものすごい感覚の短さで、オレの同じ返答二度目。
「だが、同じ種類の観葉植物に、名前は付けないだろう?」
「……そういえばそうだ……!!」
「忍、そこそんなに驚くことか? というか司さん、なんで例えが観葉植物なんですか」
「目についたから」
と、全然周りは見ずに、食事をしている司さんの席から見えるはずの方向を見ると、確かに子供の背丈くらいある観葉植物が置いてあった。
「でも猫とか犬とかインコとかウサギには名前つけるよね」
「例えが全部動物!」
「飼育履歴があるものを上げただけなんだけど、お望みなら全部上げようか」
「誰もお前のペット履歴を知りたいなんて言ってない」
「観葉植物だって、そりゃ全く付けないとは言わないよ。サボテンはテレパシーがあるって有名だし。というか植物ってたぶんみんなそうだよね」
「何の話?」
目的の話が終わったせいか、話が散らかり始めた。
「植物も好きなんだけど、たくさんある花が増えた年、母が『この花もう要らない』って言ったら次の年は絶えた」
「それ、テレパシーで理解したなら自殺したってことになるぞ」
「もう要らないなんて言われて消えるの悲しすぎない? 私の母は本当に母なのか」
「だから何の話だよ」
「私は橋の下に捨てられていたのではという話」
「ねーよ」
冗談ではなく割と本気で物を丁寧に使う方なので、そういうところは優しいとは思うんだが、その三割くらいを人間に振り分けてほしいと、オレは思う。
「それよりお前さ、昼から粥とかで足りるの?」
「このきのこはなんだろうか。冷凍ものなんだろうか、どこから来たのだろうか」
余計な疑問スイッチを入れてしまった(だいぶ前に)。
そんなことをしている間に、司さん、食事完了。
決して早いというわけではないが、食卓にも性格が出る。
忍もさりげなく完了。
僅差だけど、オレが一番遅いってどういうことだ。
「秋葉、忍は俺たちの食事スピードを考えてそれを注文している。もっとがっつりしたものだったら確実に一人で遅れるから、だろう?」
「それもある。大体男性と食事すると取り残されて、完食しないまま食欲が失せるから八分目程度にしておくんだ」
キノコがゆでお前の腹は八分目まで膨らむのか。
それとも女子はみんなそうなのか。
こいつ、飲み物だけで生きていそうで全然わからない。
「オレがデザート食べたいって言ったら?」
「一緒に頼む」
「別腹はあるんだな」
「私の腹二分目どこいった計算?」
そんなこと話してるからオレ、最後になったんだよ。
食事くらいゆっくりしてもいいんだ、忍。
変なところで気を使うな。
と思ったが、本人が空腹を抱えているわけではないので黙っておく。
食後にそれぞれ飲み物を頼んでいたので、結局そこでちょっとまったりする。
「そういえば、司さんの刀は? やっぱり名前、あるんですよね」
「……………」
「……言いたくないならいいんですよ……技名叫ぶわけじゃないし」
忍は知っているのか、一緒になって黙している。
「技名……そういえば本物の霊装、って強いだけじゃなくて遠隔攻撃できる個体もあるんだよね」
「そうなの!?」
「厚木からの天使が来たときに、見てなかった?」
「そんな余裕ないんだよ……大体、けっこう派手に建物壊れたりしてたから衝撃波なんだか、実際だれか直接攻撃してたのかもわからんて」
そうだ、人が増えたとはいえ、あの本須賀って女子が混じっていることにも気づかなかったくらいだから、あの場で冷静に個体が判別できる方が普通ではないんだと思う。
「そういえば本須賀の話だったよな」
「せっかく食事が終わって落ち着いたところに蒸し返すとか、最低」
「そこだけ女子っぽく言うのやめてくれる? オレもすごい最低な感じするわ」
「今は第三部隊に所属しているし、あそこは何もなければ適所だ。隊長は最年長の南さんだしな」
こともなげに司さんが答えてくれた。
蒸し返してすみません。
「年長者だけあって、扱いもうまい」
というか、年齢だけで上司舐めるとか、今時逆じゃね?
年齢や肩書だけで偉いと思ってるおっさんどもは尽きないが、若手が若い上官だから不満とか、どんだけ自己顕示欲強いんだよ。
……ていうか、怖い。
年功序列。
そういう時代終わった気がしていたが、そうそう、人間の認識は変わらないのか。
自分から切り出しておきながら、意味もなくため息が出てしまった、午後の一番だった。
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