3.霊装(1)ー見た目かわいい女子に限って、腹の中黒いよね

ばったりと。

街角でオレたちは会った。


T字路のそれぞれの方向から別々にやってきて、同じ地点で足を止める。

漫画みたいだ、と思うだろう。

しかし。


「……忍……お前、どっから出てくんだ……」

「ここの路地は近道なんですー あと、猫がよくいる」

「そう」


T字というか正しくは、街中の歩道で司さんとオレが正面から行き当って、その横の路地から忍が同時に出てきた。これが正しい。


「珍しい会い方をしたね」


ホントにな!

ある意味、十字路で会うよりミラクルだよ。


「二人とも……一仕事終わったところなら、一緒にお茶していかない?」

「お茶っていうか食事の間違いだろ」


ちょうど昼前だった。

オフィスに帰って食事でも、ここで食事をして帰ってもあまり時差はない。

そんな微妙な時間だ。


「オレはいいけど……司さん、一人でいるところを見ると巡回中、……でもない感じですけど……」

「あぁ、会議があったからその帰り」


以前は人数の少ない特殊部隊は単独で巡回していたが、最近は後輩指導も兼ねてか二人以上が組になっているのをよく見かける。

支障はないらしく、オレたちは店に入って食事をすることにした。


「白上じゃないか。久しぶりだな」


適当に店を探しながら歩いていると後ろから声を掛けられる。

振り返ると、白いコートに水色のバイアス……護所局特有の揃った配色姿のおっさんと、数人の特殊部隊の人がいた。


おっさん……?

初めて見る人だ。いわゆる年齢層的には若手が多い特殊部隊では、珍しい。

と、いうことはオレは初見だろう。


「南隊長」

「司さんお久しぶりです」


南、と呼ばれたがっしりとした体型の壮年のおっさんは、どうやら分隊の隊長らしい。

周りにいた男性陣たちも親しそうに声をかけてくる。

特殊部隊が三班体制になる前は、みんな一緒の職場だったわけで。


命がかかっているような職務内容のせいかまとまりよく、司さんは慕われていたようだ。

が。


「白上隊長、これからお昼ですか? そちらは、噂の近江さんですよね」


にこにこと後ろの方から女子が出てきた。

特殊部隊のデザインに似た、白いコートを羽織っている。

小柄な、かわいい子だ。

彼女は司さんの方に向き直って、つづけた。


「いいですね。『初めの接触者』の専属護衛みたいで。……私も自由行動でふらふらした~い」

「…………」


その言い草に一瞬で凍り付く間。

明らかに今、悪意を感じたのはオレだけではないだろう。

南と呼ばれた隊長だけが、それを軽くだがしかりつけている。


「こら! 本須賀! それが少し前まで上官だった人に言うことか!」

「え、別に思ったこと言っただけですよ。全然他意とかないし。私たちは巡回中で、後輩君たちの指導中なんです。隊長、行きましょ。お昼間に合いませんよ」

「白上、すまんな」


なぜか上官の南隊長が謝って、後輩と思しき新人たちと、本須賀と呼ばれた女子は背中を向けた。


「あいつ、まだ司さんにつっかかってんのか」

「ホント意味ないことやめてほしいよな」


すぐには動かなかった隊員は不愉快そうだった。


「三班はうまくいってるのか?」


その二人に、司さんが声をかけた。


「まぁ……なんとか。本須賀は腕は立ちますからね。今は南隊長がうまく制御してますけど……この間みたいなことがあったら、まずい気はします」

「南さんはいい人だけど、あいつと組まされる時は相当注意しないと」

「どこで崩されるかわからないからな。……司さんの采配は、俺たちにとっては安心要素でしたよ」


そういうとまた、と頭を下げて先を行く南さんを追った。


「司さん、今の……」


どういう意味なのか、忍ではないが小一時間問いたい。


「なんですかあれ。……オレ、若干ムカッときたんですけど」

「秋葉は平和主義だからね、私はすっごい腹立った」


まぁそうだろう。

笑顔で分かりやすい皮肉を、しかも周りに他人がいる状況で言う女。

サバサバとした忍の嫌いなタイプだ。


しかしオレも言葉にしてしまったら、さらにむかっ腹が立ってきた。

当の本人は割と涼しい顔をしているが、なのでことさら代わりに腹が立つ気分だ。



「あれは特殊部隊の……今は第三部隊に所属している本須賀葉月(もとすかはずき)だ」

「特殊部隊!? 特殊部隊って女性いたんですか!?」

「唯一の、だな。二期生にあたるから、最近後輩ができたばかりだろうが……まだあの調子か」


最後の方は一人ごちるように司さんはため息をついた。

司さんにしては珍しく、部下に対する指導のようなことも言わなかった。

南さんがいた手前かもしれないが。

それは忍も疑問に思ったらしく、首をかしげながら聞いている。


「あの調子って……三部隊になったの最近だから、それまで司くんの下にいたんでしょ?教育的指導が必要なタイプでは」

「更にそれが効かないタイプだ。年が近いせいだろう。完全に舐められてた」


司さんがーーーーー!!!?


「舐められたままだったんですか! 部下として締める!とかなんとか!」

「秋葉にしては過激発言してるね」

「指導のことだよ! 言ってもあんななんですか!」


司さんの部下の管理は、行き届いている。管理というか、きちんと端々まで見てくれるので末端にとっては、必要不可欠ながらありがたいことだ。

オレからするとむしろ上司になってほしいタイプなので、舐めて失礼な言葉を浴びせるとか、まったく理解できない。


それ以前に、そんな言葉を浴びせられる要素が司さんにあるのか。まずそこからスタートだ。

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