悪魔たちの遊戯(2)ー三人の見送り

「あぁ、秋葉くん……それに忍も。よく来てくれたね」

「それは……相応の付き合いがありましたし……」


そうだ。お前たちとは長い付き合いだ。

というか、日本に来てからずっとの付き合いだ。


こんな時くらいしめやかに……



 って、なんでお前ら、白服なんだよ。



彼らはいつもの制服=白い服でやってきていた。

日本のスタンダードな喪服が黒い中で、割と、浮く。


「仕事中に駆け付けてくれたんだね。その服装」


(何それ、お前ら本当にめっちゃいいヤツ)


他人の本音はその人が死んだときにわかる。


よくいうものだ。

ダンタリオンは、今までのからかい方がちょっとやりすぎたかと珍しく反省が浮かぶ心地だった。


「あっ、すみません。……やっぱり黒が?」

「……どういう意味かな」

「いや、黒って人間にとっては忌中だけど、悪魔にとってはどうなんだろうと忍が」



(そこでいらん問題提起をしたのか、シノブ)



「めちゃくちゃ浮いてた。ごめん、秋葉」

「ここは日本だから、普通で良かったんだけど……そうだね、ボクたち悪魔にしてみれば白の方が忌むべき色だと思えば、こちらに合わせて考えてくれたんだね。ありがとう」


(ありがとうじゃないだろ、確かに気遣いはすごいレベルだけども……!)


「きっと、ダンタリオンも喜んでるよ」


(喜んでねーよ)


まぁ、駆けつけたにせよ、忌み色を考えたにせよ、オレへの気遣いか……

ダンタリオンは少し冷静に考える。


こいつらは、少しはまともな見送りをしてくれそうだ。



……って、見送られたらアウトなんだよ。

いつこの茶番が終わるんだ!


しかしもし、本当にアスタロトが大使の後釜を狙っていたら?

自分が最期を迎えるまで終わらない。


ダンタリオンはその恐ろしい可能性に気づいて、黙した。


「公爵」


聞きなれた声がまた一人、やってきた。

今のはアスタロトに向けられた言葉だった。


爵位が同じだとややこしい。


(ツカサか……って、お前もいつもどおりの制服ってどういうことなんだよ。お前はさすがに喪服をふつうに着てくる常識人だろう!)


「司くんか。……君も制服だね、ボクたちにとって黒は祝いの色でもある。気にしてくれたのかい?」

「いえ、巡回のついでです」


ドキッパリ。


(この野郎……!)


ついでという言葉に、こぶしを握りたくなるが、今までの行いの自業自得といえばそれまで。


冷静に考えろ。


こいつは良識ある人間だ。

義理にしても、あとで線香くらい上げに来る奴だろう。


だとしたら今の言葉は適切でないにしても、仕事中に抜けてきてくれたことに変わりない。


……


ちょっとクールダウンしたところだが、アスタロトがこちらを向いて、ふっと可笑しそうに笑ったので、再びダンタリオンは無駄に、苛つくことになる。


「最後になるから……顔を見るかい?」

「……トラウマになるようなことになってないですよね?」

「割と血色いいから大丈夫だと思うよ」


(シノブ、そこは確認しなくていいんだ。事故に遭ったわけじゃない)


むしろ準殺害事件みたいになっているわけだが。

馴染みの三人が、覗き込んできた。


「ダンタリオン……ホントに、死んだのか?」


秋葉の反応は、すこぶる良心的だった。


(お前……あれだけいじり倒してたのに……実はいい奴だったんだな……)


ちょっと心が動きそうだ。


「悪魔って、死ぬんですね」

「うん、まぁ……普通に死んだね」


(どういう会話だよ!!)


悪意はないとわかりつつ、前言撤回をしたい勢いだ。


「……でも急逝ってどうして」


(そうだ、シノブ。疑問を持て。そこは追求してしかるべき場所だ!)


「どうしてかわからないから、急逝なんじゃないかな」

「……魔界的にはそんな感じで?」

「そんな感じだよ」


 ふざけんな。


飄々と魔界のウソ事情を語るアスタロトの返答に、なんとなく納得する忍。

真実は確認しようがないので仕方ないといえば仕方ないが……


「…………」

「どうしたのかな、司くん」

「いえ。……花を手向けても?」

「もちろん」


一番にそうして、花を手向けてくれたのは、意外に司だった。

やはり、こいつは常識人だ。


テンプレの行動だとしても、そうだな、そうしないと進まないもんな……



 って、進められたら、困るんだよ。



(ツカサ! やめろ!! 話を進めるな!!)


「そういえば、いつか公爵に、魔界の食人植物をみやげにどうかと聞かれたことがありました」

「そうなのかい? ……きっとかわいがっていただろうから、それも一緒にいれようか」


(ツカサのいらんことしい!!)


それとも意外と根に持っているのか?

しかし、元々礼儀正しいし、死者に対してそこまでする奴じゃ……

ここでふと浮上する可能性。



……死者に対して、そこまでしなくても。


茶番だと気づいていたならば。



(おい、ツカサ。まさか……)


表情からは計れない。

こちらの声が聞こえてないらしいことを考えると共犯ではないだろう。


というか警察が殺人未遂の共犯とかシャレにならない。


混迷を極める判断だ。

……どんな判断をしたところで、動けなければ意味がないのだが。


(あぁぁ! 全く! 五感はあるのに動けないのが辛い!)


アスタロトがふと視線を落としてふふふと笑う。


もういい加減にしとけ?



しかし、本番はここかららしかった。

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