300円で拾った生徒会長がやたらと俺に甘えてくるのだが。

日向伊澄

プロローグ 生徒会長を300円で拾いました

「一谷くん、昨日頼んだ仕事はもうできたかしら」


 俺、一谷和馬いちやかずまに冷たい印象を受ける言葉を投げかけるのは、生徒会長である先輩、氷雨真雪ひさめまゆき


 言葉と同じく、精巧に整ったガラス細工のような顔立ちはどこか冷たい印象を受ける。


 まっすぐと伸びる黒髪は艶やかで、肌は雪のごとく白い。これがまた容姿の完璧さを際立たせていた。


 黒を基調としたブレザーも着こなしており、高嶺の花というレベルをぶち抜いている、そんな憧れと畏怖の目で見られる先輩なのだが。


「一谷くぅん……副会長と生徒会長のよしみで泊めてくれないかしらぁ……」

「いろいろ言いたいことはありますが会長、なんで公園のベンチ横に座っているのですか。せめてベンチに座ってくださいよ」

「私にはここがお似合いの場所なのよぉぉ!」


 なぜかそんな先輩がベンチ横にへたり込んで俺に『泊めてくれ』と懇願しているのだ。しかも、目から大粒の涙を流しながら。


 電灯がぽうっと先輩を照らす。そこから見える先輩の顔はやはり、とても綺麗だった。


「もう行く当てがないのよ……。友達って作っておいたほうがいいものなのね……」

「いやもう、本当に何があったのですか。とりあえず俺の家来ます?」

「ぜひお願いするわ。報酬はこれで」


 えぐえぐと泣いていた先輩が急に立ち直り、キリっとした顔で差し出したのは。


「何ですこれ。300円?」

「私の全財産よ」

「いや、本当に何があった」


 100円玉3枚――つまり、300円だった。

 まだ泊まらせるとも言っていないのだが、全財産をくれたことだ。


 こうして、氷雨先輩が俺の家に泊まることが確定したのであった。

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