第11話 高位魔族に遭遇しました。▼




【メル】


 あたしはメル。

 まおうさまと一緒に旅をすることになった画家の卵です。


「なぜ私まで鉱物採取などという面倒なことをしなければならないのだ。お前が私の分まで採ればいいだろう」

「そう言うなって。宿代が払えなくて追い払われたも同然なんだからよ」

「髪飾りを作って売れ」

「素材が買えないんですけど!?」

「売るものがないなら、身体を売れ」

「ちょーっと!! それ以上は言うな! そういう発言は! メルの前だぞ!? そういう18禁的な発言はやめ――――」

「は? 私が言っているのは内臓を売れということだ。まったく虫というのは節操がないな」

「あー! あー!!」


 タカシお兄ちゃんとまおうさまはいっつも喧嘩してますけど、本当は仲良しのようです。


 今日は宿のお金が底をつきそうなので、特殊な石がある洞窟へとやってきました。

 馬に乗るまおうさまは、相変わらず凄いバランス感覚で、馬の上に仁王立ちしていました。特殊な乗り方だと思いますが、いかにもそれはまおうさまらしいと思って、あたしはその姿をスケッチしました。

 馬に乗りながら絵を描くのは少し難しいですけど、これも絵の練習です。いつなんときでも、絵をかけるようにするのがプロというものなのです。


 あたしがお絵かきに夢中になってるうちに、目的の洞窟につきました。

 絵を鞄にしまって、馬から降りてまおうさまとタカシお兄ちゃんをあたしが先導します。


「このおくです」

「だ、大丈夫なのか? こういう洞窟には魔族が住んでるんじゃ……」

「いるらしいですよ。まおうさまがご一緒ですし、大丈夫ですよ」

「い、いるのか? 大丈夫かよ……」

「仕方ないな……さっさと採取して帰るぞ。もし鉱物が採れなかったら、虫の内臓を売るからな。2つある臓器の片方を売っても問題ないだろう」

「問題しかねぇよ! ていうか、どこで売るんだよ!? 誰が買うんだよ!?」

「確かに。誰も虫の内臓を買う者はいないか。一理あるな。たまには正論を言うではないか」

「とったなら買えよ! 俺の内臓大事にしろよ!」

「あはははは、お兄ちゃん内臓売りたいんですか? 闇市がある町知ってますよ」

「なんで知ってるんだよ!?」


 そう言いながらもあたしたちは洞窟に入って行きました。

 入口からだんだん暗くなっていきましたが、奥の方は特別な石が放つ光で洞窟の中でも明るく、様子が見えました。


「こう狭いと乗り物に乗ることもできない……はぁ……疲れるな……」

「まだ数歩しか歩いてませんけど? 魔王様?」


 特殊な石というのは、“魔鉱石”と呼ばれるもので、“魔鉱炉”がある町ではそれがエネルギー変換によって豊かな生活をしていると聞いたことがあります。

 それ以外にもここでは炎のように真っ赤な宝石や、澄み渡った海のような緑の宝石、深い群青色の宝石も取れます。


「特殊な鉱石とは魔鉱石か」

「魔力を増幅する効果もあるらしいな。勇者が好んで採取するとかなんとか」

「でも、洞窟の魔族が強いから、あんまり入ってこないようです。よく勇者がみぐるみはがされてるって聞きました」

「ふん。手軽に金銭を稼ごうなどという浅ましい勇者の考えそうなことだな」


 話をしながら歩いているうちに、大ネズミ、吸血コウモリの大群がいることに気づきました。

 いくつもの目がギョロギョロと動いてあたしたちをとらえます。


「お、おい……大ネズミと吸血コウモリがいる。大群で襲い掛かってくると大変だぞ。倒しても倒してもキリがないから厄介だ」

「私に攻撃をしてくることはない」


 あたしは怖くてまおうさまの影に隠れながら歩きました。確かにこちらをジッと見てきますが、襲い掛かってくることはありません。

 奥に進むにつれて、狭い空間から段々大きな空間になっていました。ツララのような下向きのトゲがいくつも垂れ下がっています。


「魔鉱石はこいつらの生命力の源にもなっているらしいな。採り過ぎない程度にいくつかもらってさっさと帰るぞ」

「そうなのか。お前も優しいところあるじゃん。…………その優しさを少しは俺に向けてほしいけどな」

「おい、やかましいぞ。いいか? 洞窟で大声を出すな。反響してうるさいだろうが。私は襲われないが、お前の大声に低級魔族が驚いてメルが襲われたらどうする? 上の鍾乳洞の鋭い石柱が落ちてきたらどうする?」

「俺の心配は? 俺の心配はないんですか?」

「小さいのをいくつも持って帰るより、大きいのを数個持って帰るぞ」

「無視ですか? 無視なんですか?」


 タカシお兄ちゃんは思い切りツッコミたい気持ちを抑えているようで、難しい顔をしていました。でも、お兄ちゃんはグッとこらえているようです。

 そのまま進んでいくと、魔鉱石が発する光はだんだん強くなっていきました。

 ここまで深くは勇者もほとんど来られないらしいですね。荒らされた形跡も入口の方と比べてありませんでした。


「こんなに大きな魔鉱石、滅多にないぜ。かなり高額になるんじゃないか? 何日分の宿代になるか……楽しみだな」

「よし、カシ、この辺のを採取して持て」

「俺はタカシだ―――……ッ」


 まおうさまはすぐさまタカシお兄ちゃんの口元を魔法で動かなくしました。


「静かにしろと言っている」

「……! ……!!」

「ん?」


 まおうさまは奥の方に視線を移します。奥は一際明るくて、色々な宝石もたくさん落ちていました。

 その先にせり出た丘のようなものがあって、その頂上をまおうさまは見ています。


「何かいるな。大ネズミや吸血コウモリではない……高位魔族の気配がする」

「高位まぞくですか? こんなところに?」


 こんなところに高位まぞくがいるなんて知らなかったあたしは、まおうさまの服のすそをギュッと握って不安を滲ませました。

 でも、まおうさまがいるなら、きっと大丈夫と自分に言い聞かせながらまおうさまと一緒に歩いて進んでいきます。


 進んでいった先には、何か白い小さい生き物がいました。その体はいくつもの鋭い鱗にに覆われていて、刺々しかったです。小さい体をまるめて眠っているようでした。


「白い……ドラゴン?」

「龍族だな。こんなところに一匹でいるのは変だ。基本的に群れで行動しているはずだが」


 タカシお兄ちゃんがいつまでも話をできないことに対して、必死にまおうさまに「静かにするから喋らせて!」と体をつかったジェスチャーしていますが、まったくまおうさまは意に介していないようでした。

 まおうさまが一歩白くて小さいドラゴンに近づくと、ドラゴンは目を覚まして首をもたげてこちらを見ました。


「ノエル?」


 白いドラゴンはそう言いました。

 すぐにあたしたちがその“ノエル”ではないとにんしきすると、警戒態勢をとって威嚇してきました。


「誰!?」

「私が誰か解らないのか? 生まれたばかりの龍族のように思うが」

「お前なんか知らない! 僕に近づくな!」


 炎の魔法を発動させてあたしたちに向かって打ってきました。でも、まおうさまは水の壁ですぐにそれを防ぎ、あたしたちを守ってくれました。

 辺り一帯が白い蒸気が充満して視界が悪くなりました。


「ど、どうしてまおうさまに攻撃してくるんですか? 魔族はまおうさまの家来じゃないんですか?」


 まおうさまの影に隠れてそう尋ねると、少しの沈黙の後に言葉を続けます。


「…………検討はついているがな」


 白いドラゴンはなおも警戒して威嚇してきました。少しずつ後ずさっている様です。


「まってください! あたしたちに敵意はありません!」

「そうだ。争うつもりはない。そう殺気立つな。私は魔王メギド。こっちは家来のメルとカシだ」

「……! ……!!」


 タカシお兄ちゃんは「おれはタカシだ!」と一生懸命言っているようでした。鬱陶しそうにまおうさまがお兄ちゃんにかけていた魔法をとくと、ようやくお兄ちゃんは話せるようになりました。


「……っはぁっ……おい、俺に魔法をかけるな……!」

「静かにしていないと今度は物理的に口を縫い付けるぞ」

「お前なぁ……」


 鋭い目つきでまおうさまがタカシお兄ちゃんを横目でにらむと、ビクリと体をふるわせて委縮します。


「……はい、静かにしてます」


 タカシお兄ちゃんは小さくなって、まおうさまの後ろに下がりました。


「魔王? そうなんだ……の魔王はお前なのか」

「こんなところで龍種が一匹で何をしている?」

「僕は、ノエルを探してるんだ」


 白いドラゴンは警戒態勢を保ったまま、冷静に話し始めました。


「ノエル?」

「僕は生まれてからすぐに、ノエルを探すために旅に出た。まだ……数日しか経ってないけど……」


 生まれてすぐのドラゴンでも、あんなにすごい炎の魔法が使えるということにあたしはびっくりしました。

 高位魔族と呼ばれるだけあるのかもしれません。


「ほう。生まれてすぐに、どうしてそのノエルとやらを探しているのだ?」

「僕は、違う世界から記憶を保持したまま転生した。ノエルももしかしたらこの世界に転生してるかもしれないと思って探してるんだ」

「……なんだと?」

「違う世界? 転生? どういうことだ?」


 だまっていたタカシお兄ちゃんも、気になったのか白いドラゴンに向かって尋ねました。


「言っても解らないと思うけど……僕はこことは別の世界からきたんだ」

「それを証明するすべは?」

「ない……けど……でもそうなんだ。だから僕はノエルを探してる」

「宛はあるのか?」

「ないけど! 僕は探すんだ!」


 口を大きく開けて白いドラゴンはそう言いますが、どこか自信がなさそうでした。必死に自分の鱗を逆立てて自分を大きく見せようとしています。

 その細い首には、白い羽のネックレスがかけられていました。

 まおうさまはそれを微動だにせず見つめます。


「興味深いな。私と共にこないか? 宛もないのだろう」

「え?」


 少し驚いたように、白いドラゴンはその赤い瞳でまおうさまを見つめます。


「お、おいメギド、いいのかよ?」

「虫は黙っていろ」

「虫じゃねぇって言ってるだろ……」

「お前、名前は?」


 白いドラゴンはジッとまおうさまを見つめた後に、答えました。


「……レイン」

「そうか。羽ばたくのは疲れるだろう。この乗り物に乗って移動するがいい」

「俺は乗り物じゃ――――」


 再びまおうさまはお兄ちゃんの口を魔法で塞ぎ、黙らせました。お兄ちゃんは「なにするんだよ!」と訴えますが、まおうさまは無視します。


「……魔王なら、ノエルの場所を探し出すてがかりになるかもしれないから一緒に行くけど、信用したわけじゃないからね」


 そう言いながら、レインはタカシお兄ちゃんの肩に乗りました。

 タカシお兄ちゃんは全く納得いかないといったようすでしたが、それでも肩に乗せたレインを払いのけようとはしませんでした。


 そしてあたしたちは大きな魔鉱石をを採取して、町へと帰りました。

 魔鉱石以外の宝石もたくさんとれて、宿代はこれから当分は困らないようになったと思います。

 あたしにとっては石以外の収穫があったことが一番の収穫でした。

 レインという仲間が増えて、あたしは嬉しかったです。

 レインはずっと警戒していましたが、それでもあたしがお肉をあげるとそれを喜んで食べていました。


 その食べている姿をあたしはスケッチしました。

 かき終わったそのスケッチをまおうさまに見せると「なかなか上手い。もっと上手くなれ」と褒めてくれました。

 これで思い出が一つ増えました。

 これからもまおうさまとの旅を、ひとつひとつ切り取ってこうして描けていけたらいいなと思いました。


 そして、これをいつかまおうさまのお城に飾ってくれたらあたしは嬉しいです。



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