私の記憶をあなたに授けます
夜桜 璃汰
失われたその記憶を探して
1.prologue
"ミーン"、” ミーン”という油蝉の鳴き声が、耳の穴から頭の中へと伝わっていき
テレビに映し出せれている朝のニュース番組『おめざめ テレビ』では、昨日までのニュースの報道から天気予報のコーナーに切り替わる。いつものように、美人お天気キャスターが登場し『今日の最高気温は30度を優に越えるでしょう』と、笑顔で伝える。多くの人は、この美人キャスターの笑顔を拝み、そして、快く登校するなり出勤するなりしているであろう。しかし、時には不快に感じてしまう
「30度を優に越えるでしょうって、笑ってる場合かよ」
そして、ここに
今日の日付は、7月17日火曜日。まだまだ夏もこれからだというのに、とんでもない猛暑日だ。もう既に近所では、救急車が赤いランプを光らせ、甲高い音鳴らして走っている。朝から大忙しだ。その音に併せるかのように油蝉が一層大きな音を立てて鳴き出す。まるで、オーケストラのように。
朝から
前日に買っておいた菓子パン一つと、コップ一杯の牛乳を口にする。男子高校生の朝食にしてはあまりにも少なすぎるが、時間的にも自炊をしている余裕が無かった為、このような軽めの朝食で済ませる。歯を磨き、制服に着替え、昨晩から付けっぱなしだったエアコンの電源をおとし、部屋の戸締りをしっかり確認して出発。玄関のドアを開けると、夏独特の暑さが微量の風に乗って全身を包んでくる。
「・・・暑い。予報通りだな。にしても暑すぎる」
ついさっき外に出るまでは、冷房の効いた涼しい部屋に居た為、余計に暑く感じる。これならば、朝から熱中症で倒れて救急車で運ばれる患者の一人や二人はいるだろう。
俺はこの猛暑日の中、学校に登校し、授業を一日中受けなければならない。いや、訂正しよう。俺だけではない。他の生徒もこの猛暑日の中登校し、授業を一日中受けなければならない。制服を着て同じ方向に向かっている同志は、揃って気だるそうな表情をしている。そんな、生徒たちを動かしている原動力は『夏休み』というビックイベントがあるからではないかと、俺は推測する。
それでも、そんな生徒の顔を見れば、話しかけなくとも明らかにイライラしているのは目に見えて分かる。みんな、この暑さにやられているのであろう。しかし、一部の恋人持ちのリア充共は、ストレスを感じさせない笑顔で二人より添って歩いている。その光景を見せつけられている、独り身の生徒達のイライラがより一層高まったのは言うまでもない。
「このクソ暑いってのに、イチャイチャ引っ付きやがって。なんでリア充というものは、こうも非リアのヘイトを蓄積させるのが上手いんだよ・・・」
木葉も、他の生徒と同様に、自然と明らかに不機嫌な顔になり、更に気だるそうに歩いて行く。
あんな奴らが目の前で熱中症にでもなって倒れてくれれば、如何にもな暑苦しい熱源が無くなって自分は涼しくなるんじゃないか?それどころか地球の平均温度が下がって地球温暖化の対策にもなるのでは!?などと、訳の解らない事まで考え始める。
というよりも、もはや念じていた。大体皆、『リア充爆発しろー!!』とか言ってるけど、そんな非現実的な事あり得るはずがない。別にここは日本だし。道に地雷が設置されているような、中東地域でもないから。だから、まず有り得ない。
・・・・・・・・・
こんな事を考えている自分が、本当は熱中症に掛かっているのではないかと錯覚し、頭の中がパニックになってしまう。
「おい、大丈夫か!?真っ青な顔して!」
「・・・はっ!俺は・・・いったい」
「『オレハ・・イッタイ』じゃねぇよ!お前、今にもぶっ倒れそうだったぞ!っていうか、顔が『もう、倒れます』ってなってたぞ!」
「俺、そんなにヤバかったか?」
はたから見たら今にもぶっ倒れそうだったらしい俺に声を掛けてきてくれたのは、友人である
「おう。ヤバかったぞ。割とマジで」
「うそ。そんなにか!?そんなにだったかぁ!?」
蒼空の両肩掴みグラグラと前後に揺らし、若干涙目になりながら聞き迫る。、、、奇々迫る。
「揺らすな、揺らすな・・・おぉー、戻ってきた」
正気を取り戻し、ゆっくりと顔色が良くなっていく。まるで、
「もう、安心していーぞ。いつものフツーの顔に戻ったから」
ニコニコと親指を立てて、グッドポーズをしてくる。
「なんかちょっと腹立ったけど、まぁ戻ったのならいいや」
軽く毒を吐いてくる蒼空に少しイラッとするが、恐らく本人は、悪気があってそんな言い方をしたのでは無いことは、俺が一番よく知っている。それに、蒼空のお陰で自身の正気を取り戻すことが出来たので、そこは何となくスルーしてやる。
夏休みを目前にして熱中症で倒れて、夏休みの課題に取り組む貴重な時間を失う事はしたくなかったので、心の内で『ありがとな』と感謝の言葉を述べる。舌打ちを添えて。もちろん、舌打ちも心の内でだが。
(それにしても、さっきはマジでヤバかったなぁ)
自分でも分かってはいたが、本当に倒れそうだった。
「でも、本当に大丈夫か?クマできてるぞ」
「まぁな、寝るの遅かったし。ただの、寝不足だろ」
すると蒼空は、まるで名探偵の様に
「ははぁ~ん、もしかして、徹夜して夏休みの課題に手ぇ付けたな?」
「まぁ、そんなところだ」
蒼空の言う通り、四日前に配布されていた夏休みの課題に取り組んでいた。夏休みにこれといった大切な約束や予定があるわけでもないのだが、ただ夏休みをゆっくりと、何にも追い込まれることなく平和に過ごしたいからだ。今は、高校二年だが、来年になると何もなければ高校三年になり、卒業後の進路活動で忙しくなり、長期休みなど無くなってしまうも同然だからだ。
だから、最後の自由の夏休みといったところだな。最後くらいは、一か月の夏休みを、遊んで、遊んで、遊びまくって、最高にエンジョイして過ごしたいものだ。
「半分位なら進んだぞ、解説とかは割と見たけど」
「おいおいマジかよ。そのペースだと夏休み前に終わるじゃねぇか!いいなぁ~」
羨ましそうに木葉を見つめる蒼空。
「夏休み前に終わらせる予定で進めてるからな。終わってくれなきゃ困る。今モチベーションが高いってのもあるし」
「でも、お前そんなに困る程夏休みの予定詰まってないだろ?別に、彼女いるわけでもねぇのによ。俺と違って。ははははは」
「う”っ」
強烈なボディブローが叩き込まれる。蒼空の乾いた笑い声が無性に腹が立つ。それに、自分は彼女がいることをいいことに『俺と違って』って無駄に一言足して、『いないのはお前だけだぞ』みたいな空気感を出してくる。本当に腹が立つ。でも、全部変えようのない事実な為何も言い返せない。
因みに、蒼空の彼女は同い年の幼馴染みらしい。保育園からの腐れ縁だというのに、高校に入るまでその子の顔すら知らなかった。いつから、どこで、その恋は進行していたのやら。
しかし、本当に蒼空の言う通りだ。彼女いない歴=年齢の為本当に何も言い返せない。ぶつけようのない、怒りや哀しみといった感情がゴチャゴチャと混ざる。
「う、う、うるせーよ!!!」
なんだその切り返し!中学いや、小学生かよ!
思わず、心の中で自分にツッコんでしまう。様々な感情が一気に入り混ざって、どう言い返せばいいのか分からず、言葉がうまく出てこなかった。
「わりぃ、わりぃ。でも、あんまり詰め込みすぎてぶっ倒れんなよ!?」
蒼空はニッと笑って謝ってくれた。気を使ってくれたのだろう。
「ありがとよ!こう見えても、体調管理は万全よ!」
ふとこんな事を思う。
こんな他愛もない話を友人としている時間が、今の学生生活で一番楽しくて、青春してるのではないかと。
「なんだかんだ、こういう時間が好きだなぁ」
思わず口から心の思いが漏れてしまう。蒼空には聴こえない様に小声で、ぼそりと呟く。
別に聴こえる様に話してもよかったのだが、少し気恥ずかしさがあった。改めて本人に伝えることでもないと思った。
「ん?なんか言ったか?」
「いーや、何も言ってねーよ」
・・・・・・・・・・
ん?
少々の沈黙の後、ふとスマホの画面を見た蒼空の顔から血の気が引いた。
スマホには、8時23分と映し出されている。木葉が通う学校では、8時30分までには着席していなければならない。
「なぁ、時間見てみろよ・・・ヤバくない?」
「・・・あー、ホントダ。ヤバイネコレ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「って、長い沈黙に浸ってる場合じゃねぇぇ!!!」
と、木葉の一声で走り出す男子高校生二名。
「急ぐぞ!俺んとこの担任ガチで厳しいから!」
「蒼空んとこの担任って誰だっけ!?」
「
「マジか!ってかそうだったのか!?俺まで道連れは嫌だ!急ごう!!!」
「俺は、親友を売ったりなんかしねぇよぉ!」
蒼空のいる2-Cの担任である
そして、その事件に関係している生徒の証言から、衝撃の事実を知ることとなる。その生徒曰く、『生きた心地がしなかった』と。その証言に誰もが疑った。そもそも、怒らせるような事をした生徒が悪い。だから、九条先生のイメージを下げようとしているのではないか?とまで
しかし、『いつもは、あんなに穏やかで、にこやかなのに』『普段の笑顔が怖いです』『やっぱり、あの、おっぱいは凄かった』等と、一部意味の分からん事を話す生徒はいたが、日に日に様々な
要するに、裏と表の起伏が激しいのだ。そして、目を付けられた全ての生徒が、そのギャップの恐ろしさに耐えられなかったらしい。
まぁ、それはさて置き。
二人は何とか遅刻することなく学校に着く事が出来た。しかし、その日の放課後、『蒼空が課題を出し忘れていた為、九条先生から呼び出しされた』というのを知った。その日の放課後は、生徒指導室の前は誰も通らなかったという。
ーーーー7月18日水曜日ーーーー
夏休みまで後二日。朝目が覚めるとそこで、事件は起きた。
目の前に、自分の部屋の中に、見覚えのない女の子が立っていた。
「・・・・・は?」
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