第95話 ティナに必要なもの

「わりぃな。魔道具の話をしだすとまぁ止まらなくてな」


 ガッハッハと笑う。ドノバン。

 結局、自分の生活やら魔道具の話をかれこれ1時間くらいしゃべり続けてた。


「で、どんな魔道具が欲しいんだって?」


「色々とあるんだが……」


「アタシの身体強化用のが欲しいの!!」


 強引に割り込んできやがって……まぁいいだろう。ティナのからいこう。


「じゃ、まずはちょっと見てくれ。ティナ」


「うん!」


 ティナが少し離れ、魔道具を手に取る。


「《アースニードル》」


 地面より突き出た土の塊に押し出され、加速。超高速で移動してみせる。


「ほぅ」


「なんとまぁ無茶苦茶な……」


 感心したようなドノバンと呆れるアルノルト。


「とまぁ、身体強化の魔道具の代わりに仕方なく攻撃魔法で代用してるんだ。ティナは見ての通り獣人だから物理よりの戦い方になる。できれば魔道具で身体強化ができれば嬉しい」


「残念だが、そいつは無理だな」


「なんでよ!」


 あれだけ魔道具に心酔してるドノバンが即断念するってことは……


「魔族の身体強化は魔道具じゃできないってことか?」


「そうだ」


「え~~~~」


「……おまえら、なんで人間より俺ら魔族の方が身体能力に優れてるか分かるか?」


「ここでそう言うってことは……魔力で強化してるってことか?」


「御名答」


 それから、ドノバンから魔道具で魔族の身体強化ができない理由を聞く。

 どうやら、身体強化の魔道具は魔石から魔力を取り出し、それを使用者の体に付与することで、成立するものらしい。人間ならそれでいい。だが、魔族の場合にはそもそも自分の魔力ですでに体をコーティングしているので、魔石の魔力を受け付けられないんだそうな。


「一応例外もあるにはあるが、ティナ、おまえには無理だ」


「例外って?」


「同族食いだ」


「え……」


「全く違う魔力を自分の身に纏おうとするから無理がでる。だが、同族であれば、親和性は高い。ゴブリンがゴブリンの魔石を使った身体強化の魔道具を使う分にはある程度の効果を見込めるだろうな」


「なるほどな。だが、それをやるなら、魔石を食った方が早いな」


 アルノルトが興味深そうにしながら、コメントを差し挟む。


「そう言うことだ。食って魔石の魔力を自分のものにすればいい。同族の魔石であれば、それなりに吸収できるだろう。だが、ティナ、おまえほどのランクになってくると個の特性が強くでる。同じ猫の獣人の魔石を食ったところで同種の魔力を摂取することにはならんだろう」


「う~ん……たとえできたとしても同じ猫の獣人の魔石を食べるのはちょっと抵抗あるわね……」


「まぁ一般的に同族食いは魔族でも禁忌扱いだしな」


 ドノバンの作る魔道具に期待していただけに落ち込むティナ。

 だが、まだ可能性はあるんじゃないか?


「直接的に身体強化を魔道具でやるのは難しいのは分かった。だが、今ティナがやったように間接的に身体能力を向上させるような魔道具はなにかできるんじゃないか?」


 俺がそう言うとドノバンは目を輝かせて話し出す。


「そうだ。俺がティナの技を見て感心したのはそこだ。俺達魔族は原則、身体強化の魔道具は使えない。これは魔道具職人にとっちゃー当たり前のことだ。だが、ティナの見せた技は間接的にではあるが、魔道具を使って身体強化を実現させてんだ!これはおもしれぇ!」


 ドノバンがまくし立てる。


「あんな《アースニードル》で加速するなんて無駄でしょうがねぇ。ただ、ティナを押し出せればいいんだから、鋭さはいらないし、重量ももっと減らしていいだろう。火属性の魔法で爆発を利用する手もある。……ちょっと自分もダメージくらいそうなのが難点だが」


「あぁその点は心配いらないぞ」


 俺はティナの方を見て、話を促す。


「アタシのスキルを使えば、自分で使った魔道具が自分に与えるダメージはなしにできるの。だから、そこのところは考えなくて大丈夫よ」


「なんだそれ!いいじゃねぇか!?てことはアレもコレもできるな!ん?いっそのこと……」


 ドノバンがブツブツとなにか言いながら、思考の闇に沈んでいった。


「おい、ドノバン?」


 ……ダメだ。

 反応しない……。


「諦めろ。今は何を言っても無駄だ」


 アルノルトがやれやれといった様子で俺達に声をかける。


「しかし、お前達は魔族が身体強化をする仕組みも理解してなかったのか?」


「え、そうね。なんとなくできたし」


 おいおいおい、ティナよ、マジか。


「いや、俺は知ってたぞ」


「えっ!?」


「え、じゃない、だろ。村で教わったろーが!」


「えーでも、身体強化の授業、『おまえはなんかできてるからまぁいいか』って先生が言ってすぐ終わったのよね」


 おぉ……誰だティナに教えたやつは?ちゃんとやれ、ちゃんと!


「まぁ理論派には見えんし、できたなら構わんとするのも間違ってはないが……」


 いや、アルノルト、無理があるぞ。おまえだって、呆れてるだろ。


「……てことは、ティナ、おまえ、ちゃんと意識して魔力を循環させたら、それだけでもっと身体強化できるんじゃないか?」


 そもそも魔族は本能で身体強化は行うものだ。

 ゴブリンなんかも誰に教わるでもなく、自身の魔力を使い、人間より遥かに優れた身体能力を実現している。

 だが、高位の魔族になってくれば、意識して自分の魔力を制御し、本能で『なんとなく』やるよりも、効率的・効果的に身体強化を行うことができる。

 もし、ティナが『なんとなく』でしかやってなかったんだとしたら、まだ伸びしろは相当にあるはずだ。


「よし、お前ら!リスケッタの花を探して来い!」


 と、そこで、突然、ドノバンが叫ぶ。

 ……リスケッタの花ってなんだ?


「他にも色々いるが、まぁどうにかなる。だが、リスケッタの花は採ってこないとダメだ」


「どういった花なんだ?」


「確か、魔力の豊富な地でしか育たない植物で、真夜中に咲き、甘い匂いを出す赤い花、だったか?」


「アルノルトの言うとおりだ。ついでに言うと、その匂いに誘われて低級の魔族が食べに来る。リスケッタは食った魔族を苗床にして育つ寄生植物だ」


「うげーー。アルノルトの話だけ聞きたかったわ」


「で、それはどこにあるんだ?」


「知らん」


 は?


「だが、安心しろ。数が少なく、貴重な植物ではあるが、大昔にこの森で見かけたことはある。どっかにはあるはずだ!」


 どっかにって、おい……。

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