第94話 魔道具職人

 俺はダットン達をヴェールの町に送り込み、ドワーフのドノバンを連れくるように頼んだ。

 あいつらなら、ヴェールの町に入るのに何の問題もないからな。


 以前はあいつらを自由にするなんて考えられなかったが、ダンジョンのことがかなりバレてる今となっては大して問題じゃない。もし、逃げられてダンジョンの事を話されても今更だし、これからダンジョンはまた改造するしな。あるとすれば、人間側の戦力がダットン達の分増えるってことくらいだが……ダットン達が増えても、な……。


 ダットン達もダンジョンの生活を割と気に入ってくれてるみたいだし、まぁきっとやってくれるだろう。


 そうして、ダットン達を送り出そうとしたところでアルノルトからアドバイスがあった。


「ドノバンを連れてくるんだったら、エルダートレントの枝でも持たせてやるといい。Cランクになったんだったら、創造できるだろう?」


 どうやら、魔道具を作るのにエルダートレントの素材が有用らしい。

 別に枝くらいなら、死ぬわけでもないし、構わんだろう。

 ということで、さくっとエルダートレントを創造し、細い枝を1本もらって、ダットン達に持たせた。


 で、ダットン達が帰ってきたと思ったら、これだ。


「エルダートレントを創造できるのか!?何体いる!?もっと太い枝はないのか!?」


 ちっこいおっさんに胸ぐらを掴まれ、グラグラと揺らされながら、詰め寄られる。

 ……こいつがドノバンなんだろうが、まずは挨拶くらいないもんかねぇ。


「カインの旦那、連れてきたぜ」


 遅れてダットン達がやってくる。やはり、こいつがドノバンか。

 そして、俺達の様子を見て、苦笑いしている。


「もう少しでここまで着くってところで、場所教えたら、すっ飛んでってなぁ。旦那から預かった土産が随分と効果的だったらしい」


「そりゃ、よかった……」


「どうなんだ!さぁ吐け!!」


 すごい剣幕で迫ってくるドノバンだが、ドワーフだけに小柄で、切り株の上に立って、やっと俺の胸ぐらに届く状態。顔はおっさん顔だが、その様子は子どものようでちょっとだけかわい……くはないな。


「落ち着け、ドノバン。カインがエルダートレントを創造できるのはそのとおりだ。素材を貰えるかどうかはこれからの交渉次第だろう」


「ん?なんだ?アルノルトもいたのか」


 アルノルトが間に入ってくれて、少し落ち着いたようだ。

 アルノルトは久しぶりにドノバンに会うか、とここに残ってくれたのだが、思わぬところでだいぶ助かったな。


 さて、


「俺はこの深緑のダンジョンのマスターのカインという。あんたが魔道具を作れるドワーフのドノバンであってるのか?」


「ん?あぁそうだな。俺がそのドノバンだな」


 しかし、見た限りではちょっと背が低いくらいで、ふつーの人間にしか見えないな。魔力も人間同様、空っぽに感じられる。


「あんた、ホントにドワーフなの?人間にしか見えないけど……」


 ティナが不躾に尋ねる。

 俺も気になってたが、初対面なんだから、もうちょっと聞き方ってもんがあるだろ。

 ……いや、ドノバンのさっきの俺への態度からしたら、もうどうでもいいか?


「ふんっそんなもん魔道具でどうとでもなるわ。もともとドワーフの見た目は人間に近いからな」


「魔力を完全に隠すことができるってことか?」


 それができるなら、完全な隠密部隊ができるのでは?


「あ~あんまでかい魔力は無理だがな。だが、普通にしている時の俺の魔力を隠すくらいはどうってことない」


「その魔道具をつけてれば、魔法で奇襲をかけられたり?」


「しないな。魔法なんか使おうもんなら、確実に魔道具のキャパオーバーだ。隠しきれねーよ。ついでに言うと、お前やアルノルトみたいな魔力の保有量が多い魔族は通常時でもダメだな」


 ちっダメか……


「あれ?でも、アルノルト探してた時、アルノルトの魔力感じなかったわよね?あれって魔道具で隠してたんじゃないの?」


 ……確かにな。ティナいいところに気づいたな。


「あれは特注品だからな。家自体に仕掛けがしてある。とても持ち運べるようなもんじゃねーぞ」


 ダメか。まぁ今のアルノルトからは魔力を感じられるもんな。

 もし持ち運びできるなら、常時身につけてたっていいはずだもんな。


「なんだ?おまえら魔力を隠したかったのか?ヴェールの街じゃ、お前らのダンジョンは有名だから、今更隠してもしょうがないと思うがな」


「あ~できるなら、魔力を隠して奇襲、なんてことも考えたが、本題はそれじゃないな」


「アタシに魔道具を作って欲しいの!」


 割り込んでくるティナ。まぁ確かにティナの魔道具は重要だが、手に入るなら、それ以外も色々とお願いしたいもんはあるぞ。


「……どんな魔道具だ?ダンジョンマスターなら素材は割とどうとでもなるだろうし、面白そうならいくらでも作ってやるぞ!」


 ご機嫌で答えるドノバン。

 ごねられることも想定していたんだが、あっさりと請け負ってくれたな。

 アルノルトが扱いづらいみたいな事言うから警戒していたが、全くそんなことはなさそうだ。


「どうした、ドノバン。随分ご機嫌じゃないか?」


「そりゃーそうだろ、アルノルト。魔族だぞ?ダンジョンだぞ?魔石なんて制限なく魔力使えるし、素材も自由に取り放題だ。魔道具職人にとってこんな面白いことはねぇ!」


 う~ん、ちょっとだけ危険な匂いがするな……。


「ドノバンは人間の町で魔道具を作ってたんだろ?俺達に魔道具を提供すると人間に不利になるかもしれないが、それはいいのか?」


「は?なんで俺がそんなことを気にしなきゃならねーんだ?」


 ……アルノルトに聞いてはいたが、やはり別に人間に味方して人間の町にいたわけじゃなさそうだな。


「昔は俺もこの森にいたんだ。なにせ素材の宝庫だからな。だが、如何せん魔道具を使うやつがいねぇ。そこのアルノルトはいたが、こいつは引きこもってばかりでなんもしようとしねぇ」


 アルノルトは我関せずといった様子で、一人紅茶を優雅に飲んでいる。


「ふんっ別に魔道具を作れりゃ俺はいいんだが、やっぱり使ってくれるやつがいた方が想像力が掻き立てられる。その事に気づいてから人間の町に行ったわけよ。あれはあれで面白いな。いかに魔石から効率良く魔力を取り出し使うかってのが重要になってくる。素材もやつらがとってくるしな」


 それからも延々と魔道具について語りだすドノバン。

 職人とゆーから寡黙な感じかと思ったが、全然そんなことないな。

 単純に魔道具が好きでたまらないって感じだ。


 ……そろそろ作って欲しい魔道具の話をしたいんだがなぁ。

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