第30話 対立するもの
ゴブタロウが目を覚ましたのは、翌朝になってのことだった。
もちろん、まだ完全には体は癒えていないが、魔力を補給してやったおかげで小さな傷などは塞がりかけている。
日常生活を送るのに不自由はないだろう。
「(カイン……ごめん)」
目覚めた矢先、謝罪から始まった。
「で、なんでおまえはゴブリン達がスノーウルフ達に追われていることを黙ってたんだ?あの襲撃現場を確認しに行ったときに、おまえは知ったんだろ?その場で言えばよかったじゃないか」
ゴブタロウはうつむきかげんに、ポツポツと話した。
「(ダンジョンの役に立つためにゴブリン集めた。でも、仲間じゃない魔獣も連れてきた。カインは強い。魔獣倒せる。でも、それじゃゴブリン役に立ってない)」
予想どおりだな。なんで、そんなに思いつめてるんだか……
「(ゴブリン役に立たないなら、追い出すってカインも言ってた)」
ん?
「あ~そういえば、言ってたわね。『ギブアンドテイクで共生していけないなら、ゴブリンを住まわせる意味がない』って。確かに、役に立たずは追い出すって聞こえるわね」
「いや、それはそのとおりだが、別に短期的な事しか見ないわけじゃないぞ。そのへんにいる野良魔獣にも怯えて引きこもるようじゃ困るって意味なだけで……」
「(だから、魔獣、俺達だけで倒そうと思った。ゴブリンだって役に立つって見せようと思った)」
「……」
「なんか、ゴブタロウだけ責めるのはちょっとかわいそうじゃない?カイン兄の言い方も悪かったと思うな~」
いや、分かってるよ。悪かったと思ってるよ……。
そんな目で俺を見るんじゃない。
「ウォッホン。あ~なんだ、ゴブタロウ。ちょっと行き違いもあったようだ。別に俺はおまえらを放り出すつもりなんかないぞ」
「(本当?)」
「あぁ、おまえらはもう立派なダンジョンの一員だ。俺は仲間を見捨てたりなんてしない」
「なんかこないだと随分と言い方が変わってる気がするけど……」
ティナ、うるさい。
「まずはあいつらと話をつけよう」
もちろん、スノーウルフを倒しにいくのではない。そんなもったいないことできるか。
仲間に引き込めれば、戦力増強&ゴブリンも安全で一石二鳥なのだ。
「でも、スノーウルフ達のいる場所なんて分かるの?もうあの池の辺りにもいないかもしれないわうよ?」
「う~ん、そうなんだよなぁ。まぁひとまず池の方に行ってみて、ダメなら最悪は……」
俺とティナはゴブタロウの方を見る。ゴブタロウはビクッとする。
「「おとり作戦だな(ね)」」
ゴブタロウはガーンといった顔をして、慌てて話し始める。
「(カイン達、ひどい。もうあいつらにやられるのイヤ!)」
「冗談だよ、冗談。まずは池の方に行ってみよう」
ティナの方を見ると、「えっ冗談なの?」とでも言いたそうにしている。
……池の方にいなかったら、別のゴブリンに頼むか?
あ~そういや、そっちも解決しなきゃならんか。
「ちょっと待った。行くなら他のゴブリン達も連れて行こう」
「え?まぁいいけど……?」
「ゴブタロウ、ちょっと行って、2、3匹連れてきてくれ」
ゴブタロウもなぜそんな事をするのかと不思議そうにしていたが、特に文句を言うこともなく、ゴブリンルームの方へ走っていく。
そして、3匹のゴブリンを連れてくる。
正直、ゴブリンの個体を見分けることなんかできはしないが、雰囲気からすると、2匹は最初からゴブタロウと一緒にいたゴブリン達だろう。ゴブタロウの体調を気遣っているように見える。もう1匹はたぶん、一昨日も同行して、昨日はゴブタロウに詰め寄っていたゴブリンだろう。見るからに不満たらたらという雰囲気だ。
「よし、それじゃ行こうか」
俺達は池の方へ向かう。
いなかったらどうしようかとも思ったが、スノーウルフ達は池のそばで寝そべっていた。
どうやら、まだここを根城にしているようだ。
俺達が近づくと、そのうちの1匹だけがスッと立ち上がり、こちらを見る。
「ねぇカイン兄、どうするの?《交信》で話をするなら、一時的にでも配下にしなきゃならないんじゃないの?」
そうなんだよなぁ。だが、ウルフ系は賢い。
俺はダメ元で試してみる。
「お前達と話がしたい。俺が触れれば、会話ができるようになる。手を出さないと約束するから、代表者と話をさせてくれ」
俺がそう言うと、立ち上がった1匹がこちらにゆっくりと寄ってくる。
通じたか?
そのスノーウルフは俺より10歩ほど手前で立ち止まる。
「俺だけがそっちに行く。くれぐれも大人しくしてくれよ」
そう言って、俺は前に出る。
そのとき、
「ガルルルッ!」
「ゴブッーー」
隠れていたのだろう1匹のスノーウルフがゴブリンの1匹に襲いかかる。
だが、間にゴブタロウが入り、木の棒でスノーウルフの牙を食い止める。
「おい、そっちがその気なら、話などしない。おまえらまとめて駆逐してやる」
俺は襲いかかってきた1匹を威圧する。
そのスノーウルフはビクッとして、飛び退く。
「ついでに落ち着かないから、他の子達も出てきてくれるかしら?」
ティナが背後の草むらに向けて声をかける。
「ウォン!」
さきほど俺の前に出てきたスノーウルフが吠える。
すると、わらわらとスノーウルフ達が出てくる。
群れは最初にみた5匹だけじゃなかったんだな。
全部で20匹以上いる。
「ゴブタロウ、大丈夫か?」
「(大丈夫、誰もケガない)」
よく動いてくれたな、ゴブタロウ。
連れてきた甲斐があったというものだ。
「さて、改めて聞くが、俺と話をするつもりはあるか?話をするつもりがあるなら、その場で伏せろ」
俺は前に出てきたスノーウルフに多少の威圧を込めて言う。
スノーウルフは特に気にした様子もなく、スッと伏せてみせる。
「よし」
俺はスノーウルフに触れ、ダンジョンの配下として登録する。
これで、《交信》で話が通じるようになったはずだ。
「まずは、自己紹介といこうか。俺はこの深緑の森のダンジョンの管理者、カイン。後ろの連中は俺の仲間だ」
スノーウルフが俺の声を聞き、一瞬ピクッとしたように見えた。
「(この群れのリーダー、レオンだ。まずは仲間の無作法を詫びよう)」
ふん、白々しい。
さっきゴブリンを襲ったのはコイツの指示じゃないのかもしれないが、止める気があったようにも見えなかったがな。
まぁいい。交渉といこうか。
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