第2話 優しい兄と姉なので、これからちゃんと話します。
セシリアが小さなため息を吐いた。
するとそれが「昨日の事を思い出しただけでなんかもう面倒くさくなってしまった」という意味である事を、マリーシアはきっと察したのだろう。
「セシリーも私達と同じように、きっとデビューで何かしらは『やらかす』だろうと思っていたわ。けれど、まさか私達よりも派手だなんてね」
そう言って楽しげに笑う彼女は、3年前にあった自分の『やらかし』を、おそらくもう過去のものとして処理し終えているのだろう。
しかしセシリアはまだ昨日の今日なのである。
その上まだ渦中なので、そんな風に割り切れない。
すると、そんな複雑な妹の心を読み取ったのか、今度はキリルが口を開いた。
「オルトガン伯爵家の子供達は社交界デビューで皆、何かしらは『やらかす』。それは今に始まった事じゃない。歴代の人間が通ってきた道なんだから、もはや一種の儀礼的な何かだよね。あのお父様でさえ『やらかした』位だし」
彼だって同じ伯爵家の一員なのだから他人事じゃないのだが、何故かまるでそうであるかのようなニュアンスでそう言ってくる。
が、キリルのソレはマリーシアの様に「過去の事は割り切るしかない」という事では無く、「一族の性質として仕方がない事だから諦めろ」という事である。
セシリアとしては、こちらの方がまだ比較的受け入れやすい。
が、彼女は顔を曇らせる。
セシリアは、二人に「申し訳ない」という気持ちを抱えていた。
自分のした事自体には、後悔など欠片もしていなかった。
だから自らの行いを反省する気は更々無いが、今回の件で両親や兄姉はしばらくの間周りから、変に注目を浴びるだろう。
渦中の件の親族として。
その光景が容易に予想できてしまうから、どうにも「仕方がない」と割り切れない。
そんな末妹の心情を、目ざといマリーシアは的確に読み取った。
だからだろう、可笑しいものを見るような目でセシリアを見つめてくる。
「心配する必要なんて皆無だわ。セシリーの行動に正当性がある限り、貴方を責める人なんてうちの家には一人も居ない。それに私達は貴方の兄姉で貴女は妹なんだから、ちょっとくらい迷惑を掛けて然るべきよ」
むしろ普段は滅多に頼ってくれない貴女を助けてあげられるんだもの、力が入るっていうものよ。
そう言いながら、マリーシアは悪戯っぽい笑みを浮かべてくる。
それに頷くキリルの目も、可愛い妹を見る慈愛に満ちたものだった。
そんな二人の表情に、セシリアは少しホッとした様に力を抜いた。
そして二人を見て、こう告げる。
「ありがとうございます、二人とも。そういう風に言ってくれるのならば猶更、昨日の事はきちんとお話ししなければなりませんね」
何も分からないのでは、もっとご迷惑をおかけしてしまうかもしれませんから。
そう告げて、セシリアは姿勢を正した。
「順を追って詳しくお話しします。ちょっと長い話になってしまうかもしれませんが……」
聞いてくれますか? キリルお兄様、マリーお姉様。
セシリアがそんな風に尋ねると、2人は揃って大きく頷く。
そんな2人の返答に少しばかり安心し、そしてこう考える。
(さて、いったいどこから話すか)
考えたのは、ほんの2、3秒。
そして結論に至る。
(キリルお兄様が昨日聞いたという、あの噂。その原因を効率よく理解してもらう為には、おそらく『当日の朝』から時系列で話すのが良い)
と。
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