第95話 アノニマス
巨大門番を倒した司は、円と由乃と共に先へと進んで行く。
エレベーターを降りた場所と真逆の壁側に、新たなるエレベーターが設置されているのを発見し、乗り込む三人。
「この上はどうなってるんだ?」
「分かりません。前回は先ほどの化け物を倒したところで打ち止めでしたので」
「ここから未知の世界ってわけか……帰りたいなぁ」
青い顔をする司。
円は司の手を握り、彼を安心させようとしていた。
そしてここから先に何があるのか……
三人はまだ先の長い天を見上げていた。
◇◇◇◇◇◇◇
あっちの俺は先に進んだみたいだな……
俺も知らない先、どうなるんだろう。
もう向こうに関与できないんだ。
後は信じるしかないんだな。
複雑な胸中で城の前で立っている俺。
すると突如、背後から空間が歪む音が聞こえてくる。
俺は静かに振り返り、待ち人の姿を確認した。
「…………」
「初めまして、島田司くん」
そこにいたのは、変哲のない黒髪の男。
特別大きな体をしていなければ小さいわけでもなく。
別段変わった服を着ているわけでもなければ地味というわけでもない。
まさに普通と呼ぶにふさわしい男が、ゆっくりとこちらに近づいて来ていた。
すると男は俺の考えに気づいたのか、穏やかに口を開く。
「ああ。俺はこの世界にいる人物の誰にでもなれるんだ。ガリアでもいいしバロウでもいい。俺が望めばどんな者の意思を乗っ取り、その肉体を借りることができる。これは特別な役割を与えていない、町に住む男の体を借りて来たんだよ」
「お前も管理者でいいんだよな?」
男はピタリと足を止め、顎に手を当て説明を始めた。
「管理者ではないんだ。俺は君たちや世界を創った者……【制作者】だ」
「俺たちを創った……? そんなの神そのものじゃないか」
ふざけたことを言う奴だ。
俺は一瞬そう思うが、奴の笑みを見て、それは嘘ではないことを悟る。
「君たちの表現ではそうなんだろうね。ただ俺は世界を創って世界の行く末を楽しんでいるだけなんだよ。分かるかい? ゲームをして遊んでいるんだ、俺は」
「ゲーム? こんな簡単に人が死ぬような世界に放り込むのが、お前らのゲームだって言うのか!?」
俺は怒りに声を荒げる。
男はくすりと笑うだけで、こちらの気持ちには一切興味がなさそうだ。
腹が立つな。今すぐにでもぶん殴ってやろうか。
「考え方なんて人それぞれだろ? 人を殺すことを何とも思っていない連中もいれば、君たちの世界でも戦争をマネーゲームと考えている者もいる。俺のやっていることを、君は許せないかも知れないけど、俺にとっては遊び以外の何物でもないんだよ」
「その考えが許せない。俺の同級生だって何人か死んだんだぞ!」
「君たちの世界でも、虫同士で争わせたり、闘牛と戦って楽しんだりしているじゃいないか。俺は君たち人間の上位に位置する者だ。そられと大差ないんだよ」
「虫たちにだって命はあるし、俺はそんなことはしていない! 確かに人間の中には酷い奴だっているかも知れないけど、全員が全員そうじゃない! 命を粗末にしない者の方が、圧倒的に多いんだ!」
男は笑いながら「そうかい」とだけ短く答えた。
「その点はどうやっても分かり合えないようだね。仕方ないさ。虫には人の気持ちは理解できない。人間には俺の気持ちは理解できないんだ」
男はあっと何かを思い出し、うんうん頷いた。
「そうだそうだ。自己紹介がまだだったね。俺に名前なんて無いんだけど、この世界に来た時名乗っている字名があるんだ。俺はアノニマス。アノニマスと呼んでくれ」
「お前の名前を聞いたところで意味なんて無いさ。お前とはここでお別れなんだからな」
「それは同感だ。でも、今から君を抹消する者の名前ぐらいは知っておきたいだろ?」
アノニマスはニヤリと笑い、凄まじい殺気を放ち出した。
俺は恐怖心を抱き、奴から距離を取る。
「あはは。面白いだろ? これもスキルの一つなんだよ。【威圧】。それも特別製なんだ。そう、君の【合成師】と同じようにね」
「特別製……?」
「ああ。この世界にはSSRというレベルまでのスキルしか設定していないのだけれど、これはそれ以上の力だ。そして君が所持している力も、同じなんだろうね」
「同じなんだろうねって……お前は知っているんだろ? 俺の力を」
声を出して笑うアノニマス。
笑いながら奴は言う。
「残念ながら俺も知らないんだ、君がどんなスキルを所持しているのかをね。同僚が勝手に創ったスキルだろう。上手く隠してるのか、見つけることができないのさ」
こいつは俺の能力を把握していないのか……
神のような存在だから、抵抗は無駄なのかとも思ったが……やってやれないことはないか?
どちらにしても、こんなところでむざむざ死ぬつもりはないが。
「【帰還】だけに関してはカードが二枚あったからすぐに分かった。【合成師】に関しては頑丈にロックされているから干渉できない。俺にだってできないことはある」
そして穏やかに殺気を込めた視線をこちらに向ける。
「だけど、君を殺すぐらいは何てことないけどね。まさに、虫を殺すような物だ」
「虫が人を殺すこともある!」
俺は相手が動くよりも先に動き出す。
この手で未来を掴み取るために、俺は全力で駆け始めた。
「お前に勝って、このふざけたゲームを終わらせてやる!」
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