第62話 ルージュとブル
俺は走る足を止め、青髪の少年の方を見る。
元の世界で言えばまだ小学生ぐらいの子供。
服装は青シャツに半ズボンという、いたって普通の恰好。
目も海のように青く、無邪気な笑みをこちらに浮かべている。
「悪いが、遊んでいる暇はないんだ」
「やることがあるんだよね? それぐらいは知ってるよ」
「?」
ニコッと可愛らしい笑顔を向ける少年。
俺はこの子の言葉を怪訝に思いつつも、踵を返しリュートらの居場所へと向かおうとした。
この子に構っている時間はない。
「別に行ってもいいけど、君の仲間を皆殺しにするよ」
「……子供が、そんな物騒なことを言うんじゃない」
俺は嘆息して少年の方に向き直る。
「あのな――」
「殺してもいいの?」
「…………」
どうも我儘ばかりで会話が成立しないタイプの子供らしい。
由乃たちはこの子の言葉が聞こえていなかったらしく、不思議そうにこちらに視線を向けている。
「どうかしたのですか?」
「いや、この子がおかしなことを言っていて」
「僕はブランの仲間――と言った方が良かったかな?」
「!?」
俺は『ブラン』という単語を口にした、この少年に対し瞬時に警戒心を高め,【風術】で攻撃を仕掛けた。
空気を圧縮した弾丸が少年を襲う。
「な、何やってるんですか!?」
少年を急に攻撃した俺に、驚愕する由乃。
しかし風の弾丸を受けた少年の体は液体となり、ビシャッと周りを濡らした。
「いきなり仕掛けてくるなんて酷いじゃないか、お兄ちゃん」
少年は気が付くと宿屋の屋根の上におり、頬杖をついて楽しそうにこちらを見下ろしていた。
「そっち側はそっち側で、こちら側はこちら側で話をつけようよ。お兄ちゃんにはこの世界に関わるのは止めてほしいんだよね」
「……お前たちはリュートたちの所へ向かってくれ」
「え?」
俺は背中越しに、彼らの居場所を由乃たちに伝える。
「町の外の川から繋がる下水道がある。その奥にリュートたちはいるはずだ」
「で、でも」
「俺はやらなければいけないことができた。あっちはお前たちに任せる」
円が由乃の服の袖を引っ張り、歩き出す。
「私たちで頑張ってみる」
「おう! 俺らで人質助けてやろうじゃねえか!」
「……気をつけて下さい」
俺の方を振り向きながらも走って行く由乃。
青髪の少年はニコニコ笑いながらこちらに下りてきて、右手を前に突き出した。
すると俺たちの目の前に大きな空間の歪みが現れ、別の場所への穴ができる。
「さ。向こうに行こう。この町がメチャクチャになってもいいならここでやってもいいけどさ」
俺は黙ってその穴を通る。
そこはソルワースエリアのどこからしく、周囲には湖があった。
「待ってたぜ、島田司」
「……お前たちは?」
穴を通り抜けた先には、赤髪の男が待ち構えていた。
上質な赤い服に黒ズボンを履いており、眉間に常に皺が寄っていて短気っぽい印象を受ける。
手には黒焦げとなった何か生き物の頭部を持っており、それをサッカーボールでも扱うようにポンポンと手の上で跳ねさせている。
「俺はルージュ。ブランの仲間だって言ったら分かるよな?」
「それは僕が言っておいたよ」
「そうか……ほらよ」
ルージュと名乗った男は、こちらにその黒焦げの頭を柔らかく投げてきた。
俺の胸にぶつかり、地面を転がる頭。
「これは何だ?」
「エリアマスター、キングミノタウロスの頭だ。暇だったから狩りして待ってたんだよ」
エリアマスターを遊び感覚で殺せてしまうほどの実力者か……どう考えても弱いわけはないよな。
「あー、ルージュ。そんな勝手したらあの人に怒られるよ。そいつがいなかったらゲームがおかしくなってくるじゃん」
「こいつらの仲間が先に進んだところで、どうせすぐに死んじまうんだ。こんなのいてもいなくても似たようなもんだろ」
「ブランは管理者だと言っていたが、お前たちは本当に何者なんだ?」
「そのままの意味さ」
青髪の少年はルージュの隣に立ち、俺に言う。
「僕の名前はブル。ルージュたちとこの世界の秩序を管理しているんだ」
「管理?」
「うん。絶妙なバランスでこの世界は成り立っている。本来ならもっと苦労して苦労してここまで辿り着くはずなのに、君がいるおかげで勇者くんたちも急激に強くなっちゃったみたいだしさ。君がいる限りそのバランスが狂い続けるんだよ」
「ってことで、お前を殺しに来たってわけだ。ゲームでチート使う奴は弾かれて当然だろ?」
「勇太たちが必死に戦ってることが、ゲームだって言うのか?」
俺の言葉にゲラゲラと声を上げて笑うルージュ。
俺の胸にボッと怒りの火が灯り出す。
「当たり前だろ! 俺らはそのゲームを楽しんでるんだ!」
「ということでお兄ちゃんはここでゲームオーバーとなります。これ以上バランス悪くなるのはごめんだからね」
「俺だってこんなところで終わるのはごめんだ」
《ホルダー》からクロスボウを取り出し、二人と対峙する。
ピリピリと空気が緊張感を持ち始め、ゾクリと背筋に冷たいものが走った。
こいつらは強い。
ブランよりもはるかに強い。
それも二人同時……俺に勝てるか?
そんな心配する中、ルージュが狂気に満ちた笑みを浮かべ爆発的な速度で俺に向かって飛翔した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます