第52話 アルベンの町
ソロワースエリア――
大きな川、それに池などがそこら中にあり、人が移動できる面積は三分の一と言ったところだろうか。
一本の砂利道が伸びており、木や花などがそこら中に豊かに生えている。
天気もよく、温かい日の光が頬を差す。
水の匂いにカエルの声。
これが元の世界なら、気持ちのいい散歩なのだろうが……
今俺たちの目の前にいるのは、大きな大きな黒いカエルのモンスターだ。
「勇太。追い込む」
「おう、任せとけ!」
俺たちを一口で飲み込んでしまえるほどの大きさを誇るカエル。
円が背後から迫り、勇太の方へと誘いこんで行く。
二人は挟み撃ちでカエルを切り裂き、軽々と葬ってしまう。
どうやらこのエリアでも十分通用するほどの強さを手に入れてたようで、皆余裕の表情でモンスターを倒している。
俺もクロスボウの一撃で倒せることを確認し、【手加減】を発動しながら勇太たちが戦うカエルを弱らせていく。
ヨロヨロとよろけるカエルの体力は残り1%。
由乃がハンマーで頭を殴り、一撃で倒す。
「司くんのフォローのおかげで倒せました」
「俺は【戦士】だよ。由乃の力だ」
それでもニコリと笑顔で応える由乃。
周囲にはまだまだ大量のカエルが発生しており、気持ち悪いほど水辺から顔を出してくる。
由乃が振り向いた隙に、クロスボウを連射。
4匹のカエルを一瞬で始末した。
これで俺はまた強くなれるのだから、気持ちは悪いが気持ちがいい。
俺はため息をつきながら喜んでクロスボウを撃っていく。
《ホルダー》でモンスターカードを確認すると――
デスフロッグカード;レア度N
運が1%上昇する
デスフロッグか……黒い以外デスなんて要素は感じられないけれど……触れられたら死んでしまうとか?
もしそうだとすると、磯さんが危ない。
あの人が攻撃を一手に引き受けるから、その分一番危険だ。
「磯さん。そいつの攻撃に気を付けて」
「おう! 任せろ!」
磯さんは俺の言葉に頷き、盾を構えて突撃する。
いや、攻撃に気を付けろって言ってるのに、なんで突っ込むんだよ。
磯さんの【シールドバッシュ】を受けたデスフロッグは一度よろけるが、態勢を立て直し、ねばねばした黒い液体を磯さんに向かって放射する。
「おう! なんだこれは!?」
黒い液体を顔に受ける磯さん。
汚いなと俺は引くが、それより本気で危ないかも知れない。
磯さんの顔がドロッと溶け始める。
あ、これはマズい。
俺はサッと彼の後ろに回り、【回復術】を発動する。
俺の力なら、どんな状態でも完治できるはず。
案の定、磯さんの顔は元に戻り、液体の効果も消し飛んだようだ。
そのまま磯さんがデスフロッグを倒すのを見届け、俺はホッとする。
俺がいなかったら死んでたかも知れないんだよ。
一個貸しね。
なんて返してもらうつもりもない貸しを作っておく俺。
デスフロッグを倒しながら道を進んで行くと、今度は赤いハエの体に龍のような頭がくっついたモンスターが出現する。
人間と同サイズほどの大きさ。
空気を切る羽音がなんとも恐怖心を煽る。
一撃で倒れてくれと内心祈りながら、勇太たちの背後からクロスボウを放つ。
ボンっと四散するハエの肉体。
どうやらこいつも楽勝のようだ。
ドラゴンフライカード:レア度N
MPが1%上昇する
名前はドラゴンフライ。
勇太たちもドラゴンフライと戦い始めるが、問題なく勝利を収める。
やっぱり随分強くなったみたいだな。
皆に隠れて敵を倒しまくった甲斐があったよ。
これは中々、感慨深い物があるな。
と思いつつも、やはりさらなる強さのためにウキウキとドラゴンフライを倒していく。
「おい、あれを見ろよ」
勇太が突然、遠くの方を指差し声を出す。
視線をそちらの方に向けると、大きな壁が見えた。
多分だがあれは町であろう。
今まで見た中でも、とてつもなく大きな町。
これだけ離れているというのに、山のようにポツンとそこに存在している。
そこからデスフロッグとドラゴンフライを倒しながら町の方へと向かって行く。
他のモンスターも出て来てくれて構わないんだよ?
そんな風に考えながら皆の後ろから敵を始末していく。
町の姿を発見してから3時間ほど歩き――ようやく俺たちは町に到着する。
やはりそこは町で間違いなかったようで、大きな門が備えられており、門の前には戦士らしき人が二人いた。
「ようこそ、アルベンの町へ!」
「アルベン……」
「君たちも武闘会の見学にでも来たのかい?」
俺たちは顔を合わせてキョトンとする。
「武闘会?」
「ああ。町の中央に闘技場が見えるだろ?」
門の内側を覗くと、遠くに大きな施設が見える。
それは神殿のような造りとなっていて、確かにそう言われれば闘技場に見えなくもない。
と言うか、闘技場にしか見えなくなってきた。
「あそこで毎月武闘会が開かれていて、明日はその一回戦というわけだ」
「ふーん……」
ま、俺たちにはそんなものに出る理由はないな。
とそう考えていたのだが、まさか勇太が武闘会に参加することになるとはこの時想像もしていなかった。
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