第22話 コボルトたちとの戦闘
「俺は足手まといになりそうだし、アイリのことを見てるよ」
「……そっか」
勇太たちに状況を聞いた後、俺は宿屋の前で勇太たちと対面していた。
そして俺の言い訳に勇太は頷き、微笑を浮かべる。
「司」
「なんだよ」
「お前がどれだけ弱くても俺たちは仲間だ。だから……気にすんなよ!」
親指を立てて勇太はそう言う。
俺はその言葉に胸を温かくさせ、コクリと首を振る。
「司くん。行ってきますね」
「ああ。皆、気を付けてな」
由乃たちは手を振りながら町の外へと向かって行く。
それを見ていたアイリは宿から出て来て、俺の前で俯いている。
俺は【鷹の目】を発動し、コボルトキングの居場所を探る。
「コボルトキング……いた。あの集団だな」
夜の草原を歩くコボルトの大群が遠くに確認できる。
中央辺りに、二回り大きなコボルトがいる……あれがコボルトキングであろう。
辰巳たちは……鎖にくくられて歩かされている。
人数は……26人。
確か俺たちを抜いた人数は29人のはずだ。
香川は命からがら逃げ出し、今は宿屋で恐怖に震えている。
香川を抜いて減った人数は2人……どうなったんだ?
「コボルトキングは、どこに向かってるの?」
「……村がある方向だ。ここから北西にある、小さな村」
「……そこは私の村だわ。盗賊たちに襲われた、私たちが暮らしてきた村」
アイリはギリっと歯を噛み、見えない盗賊を睨むような鋭い目つきをする。
村……というかは村跡には、十数名ほどの男の姿があった。
全員が汚らしい恰好をしており、悪人そのものの顔をしている。
俺が腕を吹き飛ばした奴らもいるし、あれが盗賊で間違いないだろう。
「村には盗賊がいるみたいだ。このまま行けば、コボルトキングたちにやられると思う」
「あいつらは死んでしまえばいいと思う……だけど、仇は私の手で取りたい」
まるで取りつかれたかのような視線を俺に向けるアイリ。
俺は黙って首肯する。
◇◇◇◇◇◇◇
俺はアイリを背負って草原を駆けた。
凄まじい風圧に、アイリは顔を歪め耐えている。
「コボルトたちと戦闘に入る前に下ろすから、アイリは村に向かってくれ。進行方向にモンスターの姿も見えないし、大丈夫だろう!」
「分かった!!」
風の音が凄まじく、大声で俺たちは会話する。
そしてコボルトたちにある程度近づいたところでアイリを下ろし、俺はクロスボウを手に取った。
「気をつけてね」
「大丈夫。俺は結構強いからね」
アイリは小さく首を振り、村に向かって走り出す。
俺は深呼吸し、左手で火の術を発動させる。
「よし。行くか」
ドンッと加速し、コボルトたちへと駆けて行く。
その距離をあっという間に詰めていき、視認できるまで接近する。
そして左手にあるボールサイズほどの火の魔術をオーバースローでコボルトたちに向かって投げつける。
「【ファイヤーナパーム】!」
地面に魔術が着弾すると――それは爆発を起こし、コボルトたちを飲み込んでいく。
半径50メートルほどの爆炎。
コボルトたちに耐えれるわけもなく、奴らは消し炭になっていく。
勇太がこいつらと戦う前にできるかぎり数を減らしておくんだ。
大騒ぎを始めるコボルトの集団。
俺は【潜伏】を発動し、さらに接近していく。
【ファイヤーナパーム】の発動時間は30秒。
熟練度のおかげで22秒ほどで発動はできる。
広範囲で敵を焼き尽くすことができるのは素晴らしいが、時間が少々かかるのがネックだな。
俺はクロスボウを連射し、コボルトたちを蹴散らしていく。
ボボボボボボボンッ! と次々に破裂していくコボルト。
だが奴らにはこちらの姿を捉えることはできない。
コボルトの数は……およそ2000と言ったところだろうか。
時間はかかりそうだが、倒すことは簡単だ。
「【トリプルショット】!」
敵が密集しているところに三本の矢を放つ。
勢いよく四散していくコボルトたち。
敵は怯え、戸惑うばかりである。
「と、止まれ~! 何が起きたんだ!?」
「ワ、ワカリマセン!」
遠くの方でキングがコボルトたちに怒声に近い声で訊ねる。
だが俺が近くにいることを知らない奴らは、パニックを起こしていた。
そこで【ファイヤーナパーム】の二発目だ。
炎上するコボルトたち。
片腕しかない三木が涙声で叫び出す。
「誰かいるのか!? 頼む! 助けて~!」
俺はクロスボウで敵の数を着実に減らしながら嘆息する。
こいつは俺を仲間外れにした性格の悪い奴だ。
助けてやる義理はない。
だからと言って危険な目に逢っている人間を見過ごすほど、俺の心は冷え切ってはいないのだ。
仕方ない助けてやるか。
俺はそんな考えに行きつく。
しかし。
「お願いだ~! 助けて! とても痛いんだ!」
「う、うるさいよぉ、君! いいから黙ってろ!」
コボルトキングが三木に対して怯えた声で言う。
「助けて助けて助けて! お願いだから助けて!」
「い、いいかげんに――しろっ!」
錯乱する三木の頭部を、コボルトキングは大剣で切り離してしまう。
コロコロと情けなく転がる三木の頭。
コボルトたちはハイエナの如く、その頭に飛び掛かり取り合いをする。
なんて呆気ない最期だ……。
俺は火の魔術を構築しながらその様子を黙って眺めていた。
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