全て『カード』で決まる世界で最低ランク『ノーマル』しか入手できない俺だったが特殊職業【合成師】のおかげで、最高レア『SSR』までしか存在しないのに俺だけ『LR』相当の力を手に入れることができて楽々無双

大田 明

第一章

第1話 異世界とバグ

「それでは、『ステータス・オープン』と唱えてくれ」


 俺は……俺たちは今、映画に出て来るような煌びやかな城の中にいた。

 城の中の王様と謁見をすることができる王座の間。

 冗談のように大きな玉座に座っている王様。

 彼が言うには、ここはルラフィンという世界にあるセイルレーンという城で、俺たちは異世界に召喚されたらしい。


 俺たちというのは、同じクラスの男女、会わせて34名。

 なんとクラスごと召喚されてしまったのだ。

 皆チェック柄の学生服に身を包んでいて、混乱していたり、泣いている者もいる。

 だが中にはなぜか笑っている者もいたりして……

 こういうのって、相場は一人なんじゃないの?

 よく分からないけど、とにかく全員がこの場に召喚されて異世界に来たというわけだ。


 さらには物語なんかでよくある「この世界を救ってくれ」ときたものだ。

 俺を含め、ほとんどが拒否反応を起こしているのだが……元の世界に帰るためには魔王エールキングと呼ばれる、まぁこの世界を恐怖に陥れるいる存在を倒さなければならないらしく、そいつから手に入れられる【カード】が元の世界に戻ることができる唯一の手段らしい。


 長時間の話し合いの末、皆でその魔王エールキングを倒しに行こうという話でまとまる。

 褒美もたんまりと貰えるらしく、渋々といった者が多かったが、なぜか楽しそうにしている者もいた。

 そして今、戦う手段を王様に教えてもらっているというわけだ。


「ステータス・オープン」


 その言葉に、俺たちの目の前にタブレットほどのサイズの画面が出現する。

 それは宙に浮いており、実際に触れることができるみたいだ。

 すげーな……なんか、ゲームみたい。

 そこに映し出されている文字――ご丁寧にそれは日本語だった。

 なんという親切仕様。異世界語だったら大変だったな。

 と言うか、王様たちも日本語を喋っているようにしか聞こえないんだけど……どういうこと?


 まぁ、それは今は置いておいて……ステータス画面だ。 

 そこに表示されている文字は《ガチャ》であった。

 ガチャって……ゲーム以外の何物でもないな。


 四角い枠の中に表示されている《ガチャ》という文字をタップすると――

 赤い扉が画面一杯に映し出される。


「ビショップ……星の数は二つだ!」

「私はバトルマスター……こっちも星は二つね」


 皆ガチャを引いていき、【ジョブ】というものを手に入れ始めていた。

 最初のガチャは、ステータスや戦闘スタイルを決める【ジョブ】を選定するものになっているらしい。



 王様が言うには、召喚された者は必ず星の数が二つ以上が確定されているとのこと。

 星の数はそのジョブの強さを表しているらしく、最大で星の数は三つ。


 星1はジョブは戦士、騎士、盗賊、魔術師、僧侶の五つ。

 星2はバトルマスター、ガーディアン、ローグ、ソーサラー、ビショップの五つ。

 そして星3というのは――


「俺は勇者だ」


 おおっ! とどよめきが起こる。

 黒髪の短髪で身長の大きな男。

 いつも寡黙ではあるが、カリスマ性を兼ね備えている。

 眉間には常に皺を寄せていて、俺は近寄りがたいと思っているその人物は、辰巳健司たつみけんじ

 そんな辰巳が【勇者】を引き当てたようだ。


 皆辰巳の周りに集まり、奴を賞賛するかのようにワイワイ騒ぎ出す。

 

 【勇者】とは唯一の星3らしく、圧倒的な力を得ることができるようだ。

 星1と星2では天と地ほどの力の差が出るとのことで、星2と星3もまた、物凄い差があるようだ……とにかく、大当たりということらしい。


 そんな辰巳の周りで大騒ぎが起きている時、俺の近くの美男子が「おっ」と感嘆の声を上げる。


 その男は頭髪を綺麗な茶髪に染め、学校一モテると噂の大崎勇太おおさきゆうたであった。

 身長も高く、嫌味の無い笑みをいつも振りまき、底抜けに明るい圧倒的善人である。

 俺は友達がいないのだが……こいつはそんな俺にも明るく接してくれる、本当に良い奴だ。


 勇太はニカッと笑い、俺の方を見て言う。


「司。俺、【勇者】だったぜ!」


 ざわつきが起こり、皆が勇太の下に集まってきた。

 辰巳が皆に囲まれているのはちょっと嫉妬に近い感情があったりしたのだが……勇太の場合は他人事なのだが素直に喜べる。

 俺、心が狭いのかな。


 勇太のステータス画面を見せてもらうと、


 勇者:☆☆☆


 このように記載されているカードが表示されていた。

 いいなぁ、勇者。


 皆ジョブのガチャが終了したらしく、結果的に勇者を引き当てることができたのは、勇太と辰巳だけだったようだ。


「後は司だけみたいだな」

「みたいだな」

「よっし! 司も勇者を当てろよ!」

「当てられるのなら当てたいところだけどな」


 勇者が出たらこれから生きて行くうえで、色々と有利になるんだ……出ろ出ろ出ろ出ろ!

 俺は緊張する手で、祈るような気持ちでガチャ画面――赤い扉に指で触れようとした。

 が、その時である。


 ゴゴゴッ! と激しい揺れが起こり、その場にいる全員が膝をつき揺れに怯え出す。

 

「おわっ!」


 俺も突然の地震に耐えることができるわけもなく、勢いよく見事なまでにこけてしまった。


「いてて……って!?」


 倒れた時にステータス画面を地面にぶつけたらしく、画面が砂嵐のようにザーザーバグっている。

 俺はどうしたらいいか分からず、とりあえずバンバン画面を叩いてみた。

 そうしていると画面が元に戻り、俺はホッと胸を撫でながら画面を視認する。


「……え?」


 何ということだ……

 ガチャが……ガチャがいつの間にか終了してしまっているではないか! 

 というか、一体何を引いたんだよ……


 俺は恐る恐る映し出されている【ジョブ】を確認する。

 そこに表示されていたカードは――


 合成師:――


 星の数は……0?


 え? なにこれ? どうなってんの?

 もう一度目を凝らして凝視する。


 何度見てもやはり【合成師】と表示されているではないか。


 え、本当になにこれ……?


 俺はサーっと体温が急速に下がっていく感覚と、何とも言えない不思議な高揚を同時に感じていた。

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