第135話 ウザいダンジョンマスターと御伽衆たち②
「……」
ダンジョン最深部のボス部屋で待機しているダンジョンマスターこと仮面の魔法使いアラハ・ウィは、御伽衆からの報告を聞いてうなだれた。
かつての同僚であるルイード率いる「稀人」パーティ。
そのルイードが普段率いている「ゆかいな仲間たち」パーティ。
王朝からやってきた「バカ息子たちの大軍」パーティ。
なんか知らんが反旗を翻した「雑魚モンスター」パーティ。
他にも「ラスボス倒したら超美人ご領主様(仮)の処女を頂けるチャンス」とかいうよくわからない噂が出回ったせいで、王国の主要な冒険者血盟がこぞってダンジョンに挑んでいるらしい。
「このダンジョンが人気のため、ウザードリィ領に転入者も増えたようです。今では海と観光の名所と呼ばれるスペイシー領に匹敵する収益を上げてるとか」
御伽衆は淡々と報告した後、なにかを言いたそうにもじもじしている。
「なんです? 報告ならすべて聞きますとも、えぇ」
「実は、私達の頭領は表では王妃の専属メイドをやってるんですよ」
「ほう?」
「私達の近況を報告しましたら、その頭領から早文が来まして」
「ほう」
「血文字で『うらやましい』って書いてありました」
「一見『うらめしや』に見えちゃうくらいおどろおどろしい血文字ですねぇ。なぜ羨ましがっているのでしょう?」
「ここの待遇を報告したからです。王妃直下は超絶ブラック勤務なので、頭領は今頃忙殺されてるんじゃないですかね。ははは」
「ははは、は良いんですが、よろしいのですかねぇ。あなた方は」
「もちろん。こっちのほうが待遇良いですから。あ、梅昆布茶どうです?」
「いただきますとも」
黒子の衣装を着て音もなく立ち回る御伽衆たちは、アラハ・ウィの身の回りの世話を任せるのにうってつけだった。彼らはどんな魔物や堕天使が目の前にいても動じない胆力もあるし、待遇の良さに感謝すらしてくるほどだった。
「今までどれだけブラックだったんでしょうかねぇ」
そう思いながらもアラハ・ウィは唇の端を吊り上げるようにして「にやり」と笑った。
「あの王妃のボンクラクソ
嘗て「
「そろそろ最下層に来る愚か者たちも増えそうですし、我がボス部屋までのルートを守っている十二の闘士たちにも気合いを入れて働いてもらいますかねぇ」
「え、そんなのいましたっけ?」
「いますとも。九階から滑り台で降りてくると、このボス部屋の前には十二の玄室があるでしょう? そこにはそれぞれ守護者を置いているのですとも、えぇ」
「わ、私達が来た時は見かけませんでしたが」
「あなた方が来てから用意しましたからねぇ。あの十二宮……」
「十二宮!? ちょ、ダンジョンマスター様!? ま、まさかその闘士たちって金色の鎧とか着てませんよね!?」
「おや、よくおわかりで」
「駄目ですよ! 絶対駄目ですよ!」
御伽衆たちが土下座せんばかりの勢いで止めに掛かるが、アラハ・ウィは不敵に笑うばかりだった。
その時、別の御伽衆が駆け込んできた。
「お館様! 他国の軍勢が攻め入ってまいりました!」
「お館様? あぁ、私のことですか。呼び方統一してくれませんかね。で、他国とは王朝のことで?」
「はっ」
「ほうほぅ。ようやく来ましたか王朝のアホ子息たち。くっくっくっ……」
「そして第一層で壊滅しました!」
「え?」
予想外の報告に、さすがのアラハ・ウィも素の声が出た。
「マジですか?」
「はい。総勢四百有余名の軍隊が突撃してきましたが、事前の下調べもなく入ってきたようでして。しかも指揮系統が無茶苦茶で、いろんな罠に引っかかったりゾンビにされて仲間襲ったりゴブリンたちの孕み袋にされたり……とにかく全滅っていうか壊滅っていうか」
ちなみに全滅とはパーティの約三割。戦闘職の六割を喪失した状態のことを言い、壊滅はパーティの半分、もしくは戦闘職全員が倒れた状態である。
アラハ・ウィは「ん?」と首を傾げた。この御伽衆は全滅とか壊滅という言葉を使ったが、殲滅とは言わなかった。もちろん殲滅とはパーティ全員が倒れている事を示している。
「まだ生き残りが?」
「はっ。首謀者のリュウガ・エリューデン公爵子息、ユーリアン・キトラ公爵子息、セルジ・アラガメ公爵子息とミラ・アラガメ公爵子女は部下を盾に生き延び、王国王都方面に逃げたようです」
「アホですねぇ……。まぁ死人の魂はダンジョン
無能は無能らしく大人しくしてくれていれば人畜無害だが、無能なくせにいろんなことをやろうとする者がいると、その一人のせいで周りが迷惑を被る場合がある。上役はそんな無能が有能に働ける場所を用意し、組織を巧みに動かす技量が求められるものだが、上役自身が無能だと最悪なことになるのが世の常だ。
「しかしまたどうして王都に? 王朝に帰ればいいものを」
「王妃に頼み込んで失った兵を補充したいんでしょうが……」
「そうですなぁ。あのクソ王妃が激怒する絵が見えますとも、えぇ」
アラハ・ウィは苦笑した。
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