第31話 ウザャコラしているつもりはない
女強盗団VSガラバ・シーマ。誰も見ていないその戦いは熾烈を極めた。
女強盗団は三等級冒険者であるガラバや、帝国の間者として実力の高いシーマと対等以上に渡り合ったのだ。四人は剣、弓、魔法で二人を翻弄しつつ、誰かが少しでも傷つけば金髪の僧侶が治癒魔法で回復させるという、実に熟れた連携で二人をちくちくと攻撃し続けた。
まだ出会ったばかりで、お互いの特性も知らないので連携もなにもないガラバとシーマは四人の連携に翻弄されたが、なんとか辛勝をもぎ取った。
「ふぅ、手こずらせやがって」
「まったくだ。久しぶりに血の気が引いたぞ」
ガラバとシーマは自然と互いの様子を確認する。致命傷は受けなかったが掠り傷が多い。
「「無事で良かった」」
二人の声が重なり、思わず苦笑してしまう。
「なかなかやるじゃないかシーマンさん」
「そっちこそ。さすが三等級だ」
狩る者と狩られる者という垣根も超え、二人はこの急場を凌ぎ切った事を喜び、握手した。
「……」
「……」
どちらも手を先に離そうとしない。二人とも何故か自分から手を離すのは嫌だ、と思っていた。
「ラブラブしてんじゃねぇよクソが!!」
両手脚を拘束された金髪僧侶が吐き捨てる。その顔はボコボコに殴られて美女だった面影はない。他の女達も同様で、誰がどう見ても強盗団が一方的に負けたようにしか見えない有様だ。
「黙っていないと殺すぞ」
シーマはニードルナイフを金髪僧侶に向け───その切っ先を自然とガラバの喉元に向け直していた。
「すまないガラバ。私はオータム男爵に雇われた
「あぁ、途中からなんとなくそんな気はしていたぜ」
ガラバは無抵抗であることを示すために両手剣を足元に落として両手を広げた。
「あんたの戦い方は、俺たちが今までに出くわしてきたオータム男爵の刺客たちに似ていたからな。けど、あんたみたいな美人を傷つけることなんて俺にはできそうにもないし、これが年貢の納め時ってことだろう」
「……」
「ツイてねぇ。ルイードの親分がいる時だったらこんなことにゃなってなかっただろうに。親分、どこにいっちまったんだろうなぁ……ああ、すまねぇ、独り言だ」
「……」
「さあ、殺してくれ。あんたみたいな美人に殺られるのなら本望だ」
「……聞きたいことがある」
シーマはニードルナイフを下げた。
「……貴様の腕があれば男爵を倒すことも出来たんじゃないのか?」
「は? まさか。男爵が雇ってる騎士とか間者は最低でも三等級で、上は一等級もいるんだぜ。そんな化け物たちを相手した上に【稀人】の男爵に勝てると思うか?」
「……直接手を下さなくとも、やつの不正を暴いて失脚させるだけのネタを持っていただろう?」
「はは。それがうまく行かないもんでな。帝国の政治中枢には上から下までオータム男爵の息が掛かってるやつらがいるんだよ。男爵がなにをしてもそいつらの手で握りつぶされるどころか、逆にこちらに非があるように仕立てられちまうんだ。そうやって潰された連中を何人も見てきたから間違いないぜ」
相手は巨悪。所詮は冒険者風情のガラバでは太刀打ちできない。それはシーマにも理解できている。この会話は「殺すのをためらっている自分」をごまかすための時間稼ぎなのだ。
『どうしてこの男を殺したくないと思っているんだ、私は。こいつを始末しないと私が男爵に消されるかもしれないというのに。任務だと言うのに、どうしても殺したいと思えない……』
その葛藤を見抜いたのか、ガラバはシーマの手を取り、ニードルナイフを自分の喉元に突きつけた。
「お、おい!?」
「なぁシーマンさん、他の二人は見逃してくれないだろうか? とりあえず俺の首を持っていくだけでも男爵は溜飲を下げるだろ? その間に後の二人は逃げられる。少しは長生きさせてやりたいんだ」
「……殺すのが厄介になるだけだと分かっているのに、見逃せと?」
「はは。ワガママなのは分かってる。俺の命と引き換えにどうにか叶えてくれねぇか? 頼む。そしたら俺はあんたを恨まず地獄に落ちる」
「はぁ~~~~~……」
シーマは深く長い溜息をついて、ガラバの手を振り払ってニードルナイフを下げた。
「お前を殺してしまったら、こいつらを街にしょっ引いていくのに人手が足りない。それに炭焼き小屋に長い間閉じ込められて糞尿まみれになった裸の男たちを介抱してやる気にはなれないからな」
「うへ、そりゃ俺も御免被る」
二人は見つめ合って軽く吹き出した。
「ウゼぇぇぇぇ!!」
「イチャコラしてんじゃねぇよ!!」
「ウザャコラするんなボケェ!!」
「え、今のどうやって発音すんの?」
拘束した女強盗団たちが猛烈なブーイングを浴びせてきた時、ガラバとシーマは同じような目つきになった。
「なぁシーマンさんよ。このバカ女どもは、街に連れて行く前にお仕置きが必要だと思うんだが」
「同感だよガラバ」
にやりと邪悪な笑みを浮かべる二人を、両手足を拘束されて地面に転ばされた女強盗団は怯えるように見上げた。
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