第2話:不破 VS 山田

――01――



点検通路の突き当り。構内を眼下に見下ろす、監視小屋に『ソーコム』隊が歩み入ると、内部はグレネード弾の炸裂で滅茶苦茶に損壊しており、床には爆風と破片で千切れた人体が散らばり、足元には血の池が広がっていた。


「ぐ……ぐうッ……」


片腕が千切れかけ、上半身と下半身が千切れかけた黒覆面が、はみ出た腸を引きずりつつ、片腕で床を掻いていた。


ズガガガガガガッ! 7.62mm×39弾がフルオートでばら撒かれて、黒覆面は弾着の痙攣と共に血を撒き散らすと、断末魔も無くうつ伏せで事切れた。


「野村ッ! 無駄弾を撃つなッ!」


「止めを刺すまでは絶対に安心するなって、山田さんが言ってましたから」


左近司の叱責に、野村は口角を上げおどけたように言った。





「それか?」


「ですね」


黒覆面を見下ろす野村の前方、血の池の中で一際輝くジュラルミンケースを一瞥し、長谷川と佐々木が顔を見合わせて言葉を交わした。


「お前、開けてみろよ」


「エッ何で僕が!? ヤですよ! 中身、ウィルスなんでしょう!」


「開けて確かめなきゃ、ブツかどうかわからんだろう!」


「そういうのは年長者の役回りでしょう、長谷川さんにお譲りしますよ」


「もーぐずぐず言ってねーで、さっさと開けやがらねえか!」





佐々木と長谷川の悶着を無視して、野村がケースをおもむろに開いた。


「「ヒエッ!?」」


男2人が、同時に悲鳴を上げて僅かに後退る。野村はケース内部のウレタンフォームに並べられた、胡乱なガラス筒の1本を手にして振り返った。


「ビンゴー。これかぁ例の殺人ウィルス。意外としょぼい見た目ですね?」


「ちょちょちょ、ノムちゃん! 見せないでいいから! しまってて!」


「おい野村ッ!? 普通よオメー開ける前に一言確認するもんだろう!」


「ハァッ、何すかそれ映画じゃあるまいし。バッカらし……」


野村はガラス筒をケースに仕舞うと、よっこいしょとジュラルミンケースを持ち上げ、血を滴らせながら佐々木と長谷川に差し出した。


「たんまたんまマジたんま! ノムちゃんそれ危険物ってわかってる!?」


「お、オイヤメロッ! そいつを俺に近づけるなッ!」





雨宮と左近司は、ライフルのグリップを右手で握ったまま、慎重に窓辺へと歩み寄る。壁にもたれて動かない、生死不明の黒覆面に――ズガッ! 頭が爆ぜ、血飛沫が壁にへばりついて滴り落ちる。雨宮の一撃だった。


「お前……」


「何か?」


「いや……」


事も無げな雨宮を、左近司は形容しがたい表情で一瞥し、2人はライフルを構えつつ割れ窓から身を乗り出し、周囲や階下に目を凝らした。


「や、山田さんッ!?」


雨宮が始めに声を上げ、左近司も追随してドットサイトの狙点を滑らせた。


「山田ァーッ!」


点検通路の途上、壁に沿った一本道で、不破と山田の2人が対峙していた。



――02――



カツン、コツンと金属音混じりの靴音を立て、不破と山田が向き合う。


(シールド……厄介な相手だぜ。それにこの距離じゃ、グレネードの信管が作動しねえ)


(ライフルに持ち替える暇があるか? いや、隙を見せれば殺られる!)


2人は僅かな暇に思考を巡らせ、各々の銃をリロードして敵に向け合った。


そして不破がライフルを構え、決断的思考と共に駆けだした次の瞬間。


「山田さんッ!」


「山田ァーッ!」


ズガズガズガズガガガガガガガッ! 雨宮と左近司、監視小屋から撃ち下ろす!


不破が一瞬前まで立っていた地点、彼の駆ける背後に夥しい弾痕を刻む!





「み・ち・を・あ・け・ろ・お・お・お・お・お・ッ!!!!!」


シュボボボボボボボボボッ! SG553Rを撃ちまくりながら、不破が走る!


彼の行く手に不動のごとく立ちはだかる、メドゥーサの描かれた防弾盾!


ダンダンダンダンダンダンダンダンダンッ! 山田はP11拳銃で撃ち返す!


ガキャキャキャキャキャキャキャッ! 730m毎秒の猛スピードで飛来する重量8gのFMJ弾頭を、防弾鋼板が重い手応えと共に弾き散らしていく!


バスッバスッバスッ! 350m毎秒の速度で撃ち返される重量8gのFMJ弾頭が


不破の上半身のボディアーマーに食い込むが、不破は足を止めない!


「ウオオオオーッ!」


ボボボボボボガキャキャキャキャキャッ! ダンダンダンダンダンダンッ!


不破のライフルが、山田のピストルが、続け様にホールドオープン!





2人の間合いは最早至近距離! 山田が拳銃を捨て、両手で盾を引いた。


「どりゃあああああーッ!」


壁のように迫るシールドバッシュを不破は恐れず、どころか盾に十分な勢いがつくよりもなお早く、真正面から突っ込んだ!


左半身を前傾させたタックルが、防弾盾に跳ね返されると思いきや!


不破は歯軋りして衝突の痛みに耐え、全体重をかけて盾にへばりつく!


盾を構える山田は、不破の馬鹿力を受け止め切れずに押し切られた!


不破が押し潰さんばかりに全体重で圧し掛かり、山田はグレーチングと盾のサンドイッチ! そして……ガッシャーンッ! 不破が盾を投げ飛ばす!


不破の左手が素早く閃き、腰のシースに吊った、エストレイマ・ラティオのバヨネットを逆手に引き抜き、山田の顔面に突き下ろす直前で固まった!



――03――



「お前、その面はッ!? 何で……どうしてお前がここにいるんだ!?」


「不破定。よもや、貴様と戦うことになるとはな」


鋭角に切り立つ銃剣の刃先を眼前に突きつけられ、山田は冷静に告げた。


「手前、なぜ俺の名前を知ってやがる。お前は一体誰だッ!?」


「ただの会社員だよ。『椛谷ソーシャルコミュニケーションズ』に務める」


不破は電流が走るような衝撃、目の覚めるような思いがした。


「椛谷ソーコム……筋金入りと噂に聞く殺し屋集団ッ……何てこった!」


バヨネットを握る手を震わせ、驚きの余り硬直して口をぱくつかせる不破を正面から見返し、山田は自己紹介しつつ、皮肉笑いさえ浮かべて見せた。


「私は山田、山田一人。偽名だがね。本当の名前は」





次の瞬間、山田の右手が不破の手首をガッチリと掴めば、不破が左手に力を込めても微動だにしない。不破が次の行動に移る暇を与えず、ゼロ距離から放たれた山田の左手正拳突きが、不破の鼻っ柱をボキリと打ち据えた。


「ガッハァッ! テメェ、このッ……!」


不破が鼻血を垂らしてたたらを踏み、反射的に銃剣を閃かしてX字の斬撃を放つも、身を起こした山田はナイフの間合いを読み切り、斬撃を躱してから不破の向こう脛にローキック。不破が一瞬怯み、覚束ない視界で切り返した銃剣を握る左手を、山田が冷静に右手で捌き、左手のゼロ距離正拳突き。


「痛ェッ!」


2発目の正拳も鼻っ柱に打ち込まれ、不破はダラダラと鼻血を滴らせた。


「ではラウンド2といこうか。かかって来いよ」


山田は胸のシースからアイクホーンのタントーブレードを抜き、右の順手に握って不破と正対すると、左手で不破に手招きして言った。



――04――



「……ぜりゃあああああッ!」


不破が気勢を吐いて駆け寄り、山田の首筋を狙って銃剣を振るうと、山田はタントーを掲げ――ギャリギャリッ! 火花を散らして刃を受け流す。


バヨネットを振り抜いた不破の右脇腹に山田のフック! 不破が右足を半歩下げて、再び刃先を閃かそうと踏み止まれば、左足に山田のローキック!


「ゲッ!」


体勢を崩した不破へと、逆袈裟に振りかぶられた山田のタントー! 不破は慌てて銃剣を振るい、ギャリッ! と火花を散らして跳ね除けたところへ、狙い済ましたように襲い来る山田の左拳! 不破の顎に痛烈な一撃!


「オゴッ!?」


今度は不破の左足へローキック! 不破が舌打ちして3連続で刃を振るえば山田は初撃と2撃目を見切り、ギャリッ! 3撃目をタントーで受け流す!





山田が素早く踏み込み、フェンシングめいたタントー突き! 不破が半身を逸らして躱せば、がら空きの胴体に山田の左フック! 不破がバヨネットを構えれば股間に山田の右膝蹴り! 固い感触に山田は眉根を寄せる!


「ヘッ、ファールカップだよ! 何度も同じ手を食らってたまるか!」


不破の銃剣が、山田の作業服の右脇腹に3連突き! しかし防弾チョッキの側面プレートに阻まれ、切っ先が刺さらない! 山田は頭突きで応戦!


「ゲボォッ! ……クッソ!」


不破はたたらを踏んで後退し、刃を滅茶苦茶に振る! 山田は深追いせず!


山田は鋭く息を吐き、フェンシングめいたタントー突き、今度は3連撃! ギャリッギャリッギャリッ! と不破がバヨネットで冷静に捌けば、注意の疎かな下半身、不破の右膝に間接蹴り! 不破は咄嗟に、曲げた右膝で力んで耐えるも、大きな隙を見せる! その間にも、不破の脇腹に拳が追い打ち!


不破はバヨネットで逆袈裟に切り上げ、ギャリッ! 追撃を止めさせた!





「クッソ、手前……格闘慣れしてやがるな! ちょっと舐めてたぜ」


不破は膝に違和感のある右足を後ろに引き、左足を前にして銃剣を構えた。


「力比べじゃあ若いのには敵わんからね。効率的な戦い方が大事さ」


「あぁそうかい!」


不破が歯を食いしばり、覚束ない足で果敢に踏み込み、続け様にバヨネットを振るう! 山田の攻撃を許さず、畳みかける作戦だ! 山田は最小限の動きで斬撃を見切って躱しつつ、ギャリッギャリッ! と危険な斬撃のみをタントーで捌く!


「若いのは良いね。体力が有り余ってて、羨ましいよ全く」


不破の息切れを認め、今度は山田がタントー突きの連続で逆襲する番だ!


「俺だってもう30となんぼだ! 若くねえよぅッ!」


「40越えれば、それ以上に衰えを実感するよ。年は取りたくないものだ」





ギャリッギャリッギャリッ! 不破が上半身の突きを銃剣で捌くも、山田は不破の倍のスピードで踏み込み、左拳や左右の足の打撃をコンボに絡める!


「衰えだとォ、俺以上に元気じゃねえか! 嘘も大概にしやがれッ!」


「言っただろう、効率だ。無茶をすれば、直ぐ息が上がる!」


ギャリッギャリッギャリッ! 不破は迫り来るタントー突きをバヨネットで受け流し、空いた右手で山田の拳を払い、山田の蹴りを靴底で蹴り返す!


(何て野郎だ! 俺が1発打つ間に、3倍4倍の手数を打ってきやがる!)


このままでは勝ち目は無い、と判断した不破は、山田の突きに合わせて腰を屈め、素早いタックルで山田の懐に潜る! 迎撃の膝蹴り! 不破が顔面で受けて不敵に笑い、山田の腰に両手を回して奥歯を噛み締め力を込める!


装具をフルにまとう山田の身体が宙に浮き、不破の背後へ投げ飛ばされる!


「ふんぎぎぎぎッ……どおりゃあーッ!」


フロントスープレックス! ガッシャーン! 山田がグレーチングに衝突!



――05――



山田の視界が上下に引っ繰り返り、不破の握る銃剣の切っ先が輝いた。


ガタゴトガタゴトガタゴトガタゴトッ! そこに迫る複数の足音!


「そこまでよッ!」


「動くなッ!」


先陣を切る雨宮と、続く左近司の2人が、重改造Vz58ライフルを構える!


左近司の後ろには野村、佐々木、そして殿に長谷川! 中央に挟まれた形の野村は、不服そうな顔でジュラルミンケースを片手に携え、空いた片手にはグランドパワー K105拳銃を握っていた。セレクターはフルオートだ。


「チッ! 男同士のナイフファイトに、ライフル持ち出すなんざ反則だろ」


「そう言って、銃を取ろうとしていたのは不破、君の方じゃないか?」


SG553Rに伸ばしかけた不破の手が、山田の返答にピクリと蠢いた。


「気安く名を呼ぶなィ!」





不破は銃剣を腰のシースに納め、ゆっくりと両手を挙げて立ち上がった。


「今のは危なかったな。流石は一人で仕事をするだけのことはある」


山田は身を起こし、胸のシースにタントーを仕舞って不破と向き合った。


「どーでもいーですけどー? そいつ、早く殺さないんですかぁー?」


野村が囃し立て、雨宮と左近司が銃を構え直すと、山田が片手を挙げた。


「待ってください、彼には聞くべきことがあります」


「ンだとぉ……?」


後頭部に左近司から銃口を押し付けられ、雨宮に両手を後ろに組まされて、手首をタイラップで拘束されつつ、不破は山田を睨んで言った。



――06――



5300cc V8 OHVエンジンを轟かし、湾岸道路を白塗りの大型SUVが駆ける。第2世代のシボレー・タホ。3列シートの車内には、コディアック警備保障の徽章を胸に付けた戦闘員たちが7名、300BLK口径のDDM4 PDW 超短縮型騎兵銃を携えて乗っている。


「間もなく到着する。総員、武装を再確認して突入に備えろ!」


「「「了解!」」」


助手席の戦闘員が叫ぶと、後部座席の戦闘員たちが答え、短縮型ライフルのマガジンの底を再度叩き込み、ボルト操作で弾薬の装填を確認した。





「入口に停まってるワゴンが邪魔だ! 誰かどかしてくれ!」


『米欧トレーディング第1倉庫』の門前にタホが滑り込み、行く手を塞いだメルセデス・トランスポーターを指差して、運転手が喚き立てた。


「俺が行く!」


助手席の戦闘員が言葉を返すなり、ドアを蹴り開けて道路に降り立ち、銃を構えてワゴン車に素早く歩み寄った。車の窓ガラスが下りて、他の戦闘員が窓からPDWの銃口を突き出して周囲を警戒。


「工場地帯にバス? 一体誰が? 社会科見学か何かか?」


窓から身を乗り出した戦闘員の1人が、向かい合う道路の遠方から接近する赤いマイクロバスを視認して訝しげに呟いた。





降車した戦闘員は、左手にPDWを持ち替えて警戒を怠らず、運転席のドアを跳ね開けて車内に銃口を構えた。車内は無人。車の鍵はついたままだ。


「クソッ、マニュアル車じゃないか! 俺はマニュアルが苦手なんだ!」


戦闘員は悪態をつきつつ、ワゴン車のエンジンをかけてバックギヤに繋ぐ。ドロロロロッバボッ! 車がカックン、と動いて直ぐに沈黙。エンストだ!


「おい、何チンタラやってんだ! 早く動かせ!」


戦闘員は舌打ちし、再びエンジンをかけ直す! 遥か以前に教習所で習った半クラッチ操作を思い出し、ワゴン車を慎重に後退させていく!



――07――



「おいッ! 何だあのバス!? こっちに突っ込んでくるぞーッ!」


ワゴン車が後退して開いた入口に、赤いマイクロバスが進路を変えて突進!


ギャリギャリギャリガガガガーッ! 足元で横倒しになった鉄門を、バスの質量とエンジン出力で強引に引きずって、激しい擦過音が鳴り響く!


「あのバスを入れさせるな! 撃て、撃てーッ!」


シュボシュボシュボシュボボボボボボボッ! 戦闘員が車内から発砲!


バコバコバコバコバコッ! ブロロロローッ! バスは蜂の巣になりながらバンパーで鉄門を押し退けると、強引に倉庫の敷地内へと侵入していく!


ワゴン車から戦闘員が飛び降りて、SUVの助手席へと駆け戻った!


「おい、何だアレ!?」


「知るか! 全く次から次へと面倒ばかり! 行くぞ!」


戦闘員を乗せた白いタホもまた、エンジンを吹かして敷地へと走り込む!





車体も窓ガラスも赤く塗り切られた、マイクロバスが倉庫の至近まで乗りつけ、間の抜けたブザー音を響かせ、前方の自動ドアを開け放つ!


「行け! 行け! 行け!」


Tシャツに短パン姿というラフな格好の男たちが、CS/LS2ブルパップSMGを携えて続々と降車! その数は20名を優に超える! 彼らは顔にバンダナやタオルを巻いて覆面、足元はスニーカーやサンダルを履いた軽装!


QBZ-97ブルパップライフルを携えた、リーダー格と思しき男が進み出る!


「殺人ウィルスは我ら『东信研』の物だ!」


东方信贷研究公司、19世紀のピンカートン探偵社めいた、調査会社の皮を被ったチンピラ集団!





「総員、進め!」


「「「ウオオオーッ!」」」


興奮剤を打ったような歓声! 东信研の一団が倉庫内へと一斉に雪崩れ込む!


彼らに一足遅れて、コディアック警備保障の白いSUVが走り来た!


シュボボボッ! シュボボボッ! 戦闘員が窓越しに东信研たちへ銃撃!


ヴァラララッ! ヴァラララララッ! SMGの凄まじい連射が返ってくる!


ガキャキャキャッ! 防弾ガラスが弾頭を跳ね返し、白い痕跡を残した!


「クソほど兵隊を揃えて来やがって、チンピラどもめ!」


「あのぶっ飛んだ壁を見ろ! 先客のヤツら、重火器を持ってるぞ!」


「まるで兵隊のサラダボウルだな! 全く、今日は厄日だ!」


戦闘員たちは次々にマガジンを交換し、降車して倉庫の入口へと駆ける!



――08――



「「「ヒィーハァーッ! 皆殺しだァーッ!」」」


ヴァララララッ! ヴァララララッ! オープンボルトSMGを祝砲のように打ち鳴らし、狂えるチンピラ集団・东信研が倉庫内に歩みを進める!


「おい、今の銃声聞いたかよ?」


「火事場泥棒が追い付いたようですね。急ぎましょう!」


長谷川の言葉に山田が答え、先頭で『アイギスの盾』を構え直して頷いた。


『ソーコム』隊は一列縦隊で移動し、点検通路を下へ下へと目指す。山田が先頭で盾を持ち、背後に両手を拘束した不破、その後ろに雨宮らソーコムの構成員たちが先程と同じ隊列を組み、中央で野村がケースを抱えていた。





「現場で遭遇する武装勢力は、発見次第即時殺害が命令のはずだ、山田!」


「命令ではなく『許可』と言ったはずですよ」


「何を考えてるんだお前は!? なぜさっさとその男を殺さない!?」


「今は口論している場合ではありません。私の殺害保留は状況判断です」


「そういうことらしいぜ。まー仲良くしようや」


不破は皮肉笑いで振り返ると、左近司が露骨に不愉快そうに舌打ち。


「精々大人しくしてることです。妙な動きをしたら頭を吹き飛ばしますよ」


「おうおう、こえー姉ちゃんだな」


不破が減らず口を叩きつつ正面に向き直ると、雨宮は頭を振って嘆息。



――09――



「Aは奥、Bは中央、Cは手前から検索せよ。俺はBと行く。背後や頭上、出会い頭の不意討ちに充分警戒せよ!」


「「「了解!」」」


コディアック警備保障の戦闘員たちが、イヤマフに紐つけた通信機の感応を確認すると、手にしたDDM4 PDWのセレクターをセミオートにして頷いた。


「総員、掃討開始! GO! GO! GO!」


A2名、B3名、C2名の小班がPDWを構え、正面・背後・側面を随時警戒しつつ、倉庫内の『検索』を開始した。





「オラアアアアーッ! 邪魔するヤツは死ねーッ!」


ヴァララララララッ! ヴァララララララッ! チンピラがSMG乱射!


「接敵!」


「戦闘開始!」


シュボッシュボッ! シュボッシュボッシュボッ! 戦闘員が撃ち返す!


「ガバァッ!?」


「ゲボォッ!?」


ヴァラララララッ! ヴァラララララッ! チンピラが心臓や顔面から血を噴き、銃弾を撒き散らして倒れる! 戦闘員は無傷、一方的な殺害だ!


「2ダウン!」


2名の戦闘員が物陰から駆け出し、リーダー格の男が背後を確認して続く!


「ガッ……ガガッ!」


シュボン! 血を吐いて蠢くチンピラめがけ、リーダーの男が脳天に一撃!



――10――



「いたぞーッ! 階段の上だーッ! 殺せーッ!」


「「「ウオーッ!」」」


ヴァララララララララララッ! ソーコム隊の歩む点検通路に銃弾が殺到!


「クッソ早ェ! もちっと手心ってヤツをだな!」


「そんなの、連中にあると思いますか!?」


「違いねぇッ!」


ズガガガガガガッ! ズガガガガガッ! 長谷川と佐々木が撃ち下ろす!


「ヒエッ!?」


流れ弾が不破の後頭部を掠め、ボサボサの髪の毛が何本か舞った。





「クソッタレ火事場泥棒どもめッ! 銃が使えりゃブチ殺してやるのに!」


「火事場泥棒は不破、君も同じはずだろう」


「ハァ? 俺はちげーよ! いいか、俺はカレイドケミカルをぶちのめして世界を救ったヒーローだぞ! テメーらの方こそ火事場泥棒だろ!」


やかましく鳴り響く銃声にも負けない大声で、不破ががなり立てた。


「世界を救ったヒーローとか……ウッワ、いい歳こいてマジキモイ」


「普通、そういうのって自称するかねぇ?」


「う、うるせぇ! いいか、俺は嘘はついてねえぞ! 本当なんだぞ!」


「わかったから前を向いて歩きなさい!」


雨宮が痺れを切らして叫ぶと、不破はまだ納得していない表情で前を向く。





階下に駆け寄り、ブルパップSMGでソーコム隊を狙うチンピラたち!


「見つけたぞ!」


「ぶっ殺す!」


ヴァラララララララッ! ガキャキャキャキャキャ! 盾が弾幕を弾く!


ズガッズガッズガッ! ズガッズガッズガッ! 雨宮と左近司が発砲!


「私たちは法執行機関から依頼を受けた。不破、君の依頼人は誰だ?」


「なッ……んだとッ……」





ヴァラララララガキャキャキャキャ! ヴァララララガキャキャキャキャ!


ズガッズガッズガッ! ズガッズガッズガッ! ズガガガガガガッ!


「「「ヒギャーッ!?」」」


SMGの乱射は山田の盾に受け流され、全くの無力! 盾の後ろから放たれる7.62mm×39弾の連射に、チンピラたちが血をしぶいて続々と倒れる! 


「是非とも教えて欲しいものだ。君が真に正義の救世主なら……」


「山田ァ、世間話してる場合か!? 戦闘に集中しろ!」


ズガガガガッ! ズガガガガッ! ズガガガガッ! 長谷川が殿から階下に撃ち下ろし、パレットの影に潜んだ1名を射殺しつつ、大声で叫んだ。


「弾切れです! リロード!」


「了解!」


ヴァララララガキャキャキャ! ダンダンダンダン! 山田も拳銃で応戦!


チンピラたちを殺戮して地上階に降り立ち、脱出への血路を切り開く!



――11――



シュボッシュボッ! シュボッシュボッ! DDM4 PDWが硝煙を噴く!


「ギャアッ!」


「3ダウン!」


「敵を無力化!」


C小班の2人が周囲を警戒しつつマガジンを交換し、前進する!


「接敵! 接敵!」


「今までの武装集団と違うぞ! あれは何だ!?」


小班の前方、壁沿いの通路上に、防弾盾を手に前進する武装集団!


ズガッズガッズガッ! ズガッズガッズガッ! 断続的セミオート銃撃!


その正確な狙いに、小班の2人はたじろいで物陰に退避した。


「確認する!」


1人の戦闘員が、PDWのホロサイトの後部に付けられた拡大鏡を倒し、簡易スコープ化した照準器で、積荷の影から慎重に前方を覗き見た。


ソーコム隊の先頭、山田の構える防弾盾には、メドゥーサの白ペイント!


ズガッズガッ! ズガガガガガッ! 連射に曝され戦闘員が慌てて戻った。





「何かわかったか!?」


「連中が持ってるのは『ゴルゴンの盾』……ヤツらは『ソーコム』だ!」


ズガガガガッ! ズガガガガッ! ソーコム隊の連射が周囲に着弾する!


「『椛谷ソーシャルコミュニケーションズ』か!? マズい、同業者だ!」


ズガガガガッ! ズガガガガッ! 戦闘員は敵方の連射で前進できない!


「どうする!?」


「迂回するぞ、今の俺たちの装備じゃ盾を抜けない!」


「了解!」


「Cより報告! A、B、聞こえるか! こちらは現在、ソーコムと交戦中! 敵対勢力はソーコムだ! 繰り返す――」



――12――



ズガガガガッ! ズガガガガッ! ズガガガガッ! 前進するソーコム隊!


「弾切れだ! リロードする!」


「了解です!」


ズガッズガッズガッ! ダンダンダン! 雨宮と山田が左近司をカバー!


「私ぃー、何にもやることなくて暇なんですけどォ……」


ズガガガガガッ! 直角に交差した通路に、佐々木が連射して振り向く!


「ノムちゃんがある意味一番大変だから! ね!」


「――フラグアウト!」


「マズいッ、手榴弾ーッ!! 総員、即時退避ッ!」


先頭の山田が叫ぶや否や、盾の覗き穴越しに、放物線を描いて飛ぶ手榴弾が見えた。ソーコム隊一行は血相を変え、背後の通路へと踵を返して走る。





ゴロッゴロゴロゴロ! 破片手榴弾が山田の目の前に転げ落ちた! 山田は舌打ちすると、手にした防弾盾を手榴弾の上に被せ、一行の背中を追う!


ズド―――――ンッ! 炸裂! 防弾盾が爆風を受け、高々と舞い上がる!


ドガシャッ! 破損した盾が山田の頭を掠めて落下、床で跳ね返る!


「ガッ!?」


山田は側頭部に衝撃を感じ、ぐらりと視界が揺らめいてうつ伏せに倒れる!


その時、装具の上に背負っていた不破の銃、SG553Rが宙に投げ出された!


「おい山田! 大丈夫か!」


思わず物陰から身を乗り出し、叫んだ不破の前方にライフルが滑り来る!


「おい貴様! どこに行くつもりだ!」


自分の銃を見た不破は反射的に、後ろ手を捻ってタイラップ拘束をブチリと千切り、左近司の静止も聞かず走った。SG553Rを掴み取り、空のマガジンを捨てて新しいマガジンを装填すると、山田に駆け寄って腰を落とした!




不破 VS 山田


【第2話:不破 VS 山田】終わり


【第3話:一匹狼、はぐれ狼、ハイエナどもたち】に続く


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