不破 VS 山田(マイナーチェンジ前ver.)
素浪汰 狩人 slaughtercult
第1話:米欧トレーディング第1倉庫の争奪戦
不破 the Desperado VS 山田 the Killer
第1話:不破定
第2話:山田一人と椛谷ソーシャルコミュニケーションズ
第3話:男の思惑、女の策略 より続く
――01――
「不破。連中のアジトは、共栄町の『米欧トレーディング第1倉庫』よ。衛星写真で確認した限り、強奪犯の車はまだそこから動いていないわ、今のところ」
「しかし連中、ブツをなぜ安全な本丸までさっさと運びやがらねえ?」
「私に聞かれても。カレイドケミカルの時みたいな襲撃を恐れているのか、足がつかないように車を乗り返るのか。ともかく、今が絶好のチャンスよ」
「やれやれ、また世界救っちまうのかねぇ、俺。上手く行ったら……」
「上手く行ったら、何?」
「やーめた。どうせ抱かせろつっても抱かれないもんね、黒川さんは」
「本気で好きなんだったら、考えなくもなくってよ……って、電話?」
「ああ。女に電話だ。真っ直ぐな性格でいーい女さ。おパンツはまっ金々、お腹ん中はまっくろくろすけの黒川さんと違ってネェ~」
「下着の色は関係ないでしょッ! フン、今生の別れでも言うつもり?」
「今生の別れを言うのは二度目だよ――久しぶりだな、百目鬼聖羅」
――そして、湾岸道路。銀の矢のように早く駆け抜けるセダンは、ボルボ・S60 ポールスター。
直列6気筒3000ccターボエンジンが唸り、法定速度を遥かに超過する速度で車を走らせ続ける。前方に車列。運転席に座る不破は唇を舐め、アクセルを放してブレーキングすると、走行車線と追い越し車線の間隙を巧みに縫って列の先頭へと這い出る。シフトダウンしてすかさずアクセル、再加速。
遮る者の無くなった道路に排気音が轟き、ポールスターは鞭打たれた奔馬が如く底力で加速し続けた。4速、5速、6速にシフトアップしまだ加速する。
工場や倉庫の立ち並ぶ一体。コンクリート塀で囲われ目隠しされた敷地に、資材倉庫や飼料サイロなどの、無機質な巨大建築物が立ち並ぶ。
銀色のポールスターは、カーナビが示した地点、防波堤とコンクリート塀に挟まれた、何の変哲も無い工場地帯の一角で減速し、4輪を停めた。
――02――
銘板には『米欧トレーディング第1倉庫』の文字。敷地周囲は塀で囲われ、唯一の開口部である鉄格子の門は閉ざされ、中からは物音一つ聞こえない。
不破は助手席に転がした相棒、SG553Rライフルを手に取ると、淡々と戦闘準備にかかった。折り畳みストックを起こし、マガジンの弾を確認して初弾を装填、銃身下のGL5140ランチャーにも40mmグレネードを装填すると、最後にドットサイトの蓋を外し、光点の点灯を確かめて車を降りた。
不破は口笛を吹きながら鉄格子の門に歩み寄り、閂に南京錠で施錠されて、開かない音を確認すると、弁当箱めいたC4爆薬を門の中央に貼りつけた。
「魔ぁ女ぉ~のパァ~ンツは金色パ~ンツ、男ぉが穿ぁいたらチンチンが~食~い千ぃ~切られるぞぉ……キンタマもぉ~……う~ん、字余り」
不破は即席の歌を歌いながら、安全距離まで下がり……リモコンを押した。
ピッ……ズド―――――ンッ! C4爆薬炸裂! 鉄門が薙ぎ倒される!
「そいじゃあ、始めますか!」
不破の親指が、SG553Rのセレクターをフルオートに弾いた。サイレンサーを装着した銃口が首をもたげ、獲物を求めて塀の中へと突入する!
だだっ広い敷地に停まる数台の業務用バンと、その奥には無機質な倉庫。
不破はSG553Rを構え、周囲を警戒しながら一直線に倉庫の入口へ向かう。
とその時、駐車場に面する倉庫の上階、開いた窓ガラスから突き出す銃口。インドネシア製FNCライフル……ピンダット・SS2-V4のスコープがキラリと光った!
ダーン、ダーン、ダーン! バラタタタッ! 狙撃だ! 不破に銃弾迫る!
「おっと!」
不破は一瞬早く殺気を察知し、横っ飛びで銃撃回避からローリング!
「当たんねーよッ!」
バラタタタッ! バラッ! バラッ! バラッ! 乱射を続けざまに回避!
「狙撃ってヤツぁ、もっと落ち着いてやるもんだぜ、このド素人がッ!」
不破はローリングから腹這い姿勢になり、SG553Rを構える! セレクターをセミオートに変更! 倉庫上階のスナイパーをドットサイトに捉えた!
シュボンッ! 黒覆面のシューターをヘッドショット! 室内へと倒れた!
倉庫入口の扉が蹴り開けられて、短縮型FNCライフル……ピンダットSS2-V5で武装した黒覆面の一団が、慌ただしく屋外へと歩み出て、不破に銃口を向ける!
「野郎、一人だぞ!」
「俺たちを舐めてんのか!?」
「ブツを横取りするヤツぁ、誰であろうとぶっ殺す!」
「死ねーッ!」
ガポンッ! ズド―――――ンッ! 40mmグレネードが吠える!
「「「「「ヒギャーッ!?」」」」」
黒覆面たちは炸薬の爆風と破片をまともに浴び、四肢断裂して血の池地獄!
「ハァーッ……」
SG553Rのバレル下にマウントされた、GL5140ランチャーの砲身から硝煙が棚引く! 不破は邪悪に笑い、ランチャーから空薬莢を弾き出した!
ガラガラガラッ! 倉庫上階の窓が開かれ、5.56mm口径の銃口が無数に突き出した!
「「「「「死ねェーッ!」」」」」
「やっべぇ!」
不破はランチャーに榴弾を再装填し、ひらりと起き上がって駆け出した!
バラタタタタタタタッタタタタタタタッタタッタタタタタ! 銃弾の雨霰!
バボッ! ブシュウ―――――ッ! 地上で破裂音、白煙が立ち込める!
「野郎、目くらましだ! 猪口才なァッ!」
「クソッ、何も見えんッ!」
「構いやしねえ、煙ごと蜂の巣にしちまえッ!」
バラッタタタタタタタタッタタタタタタタッタタタタ! 煙幕に掃射!
不破は白煙に紛れて中腰で駆け、倉庫上階を目がけランチャー発砲!
ガポンッ! 煙幕の中から突如飛び出す榴弾! ズド―――――ンッ!
「「「「「ウガアアアアァッ!?」」」」」
爆発が壁を抉る大穴を開け、何人かが屋外へ景気よく吹き飛ばされる!
不破はランチャーを再装填しながら駆け、煙幕を脱して入口に滑り込んだ!
――03――
アテナ製薬を目指して走る巨大バン、シボレー・エクスプレスの車内。
座席背面の荷室へぞんざいに転がされた、聖羅の両親。母・幸恵は昏倒したまま目を覚まさない。父・光義は歯噛みして、悔し涙に啜り泣いた。
「ウッウッ……こんな、こんなはずじゃなかった……許してくれ、聖羅!」
「ハーッハッハッハッハッハァ! 後悔先に立たずとはこのことだなァ!」
中央の座席、着物姿の聖羅を中央に挟んで、右側に座る聡一郎が哄笑した。左側には一際屈強な白傭兵が座る。他の席は全て、コディアック警備保障の白スーツをまとうPMCオペレーターたちで埋め尽くされていた。
「何だァ、思ったより抵抗しないじゃないか。自分の運命を悟ったか?」
「親を人質に取られたら、従うしかないでしょ! 汚いヤツ!」
スパンッ! 聡一郎の瞳が濁った輝きを放ち、平手が聖羅の頬を張った!
「口の利き方に気を付けるんだな。今日から俺が、お前の、お前たちの主人なのだからなァ! フゥーム、それにしても良い身体をしている」
聡一郎の左手がいやらしく蠢き、聖羅の着物の胸元へと滑り込んだ。
――04――
倉庫内部。スチールラックやパレットが等間隔で並び、人の背丈よりも高く積み上がった段ボールが視界を遮る、迷路めいた空間を黒覆面たちが走る。
「野郎、どこに消えた!?」
「血祭りに挙げてやる!」
「袋小路に追い込め!」
シュボボボボッ! シュボボボボッ! シュボボボボッ! 死角から銃撃!
「「「ウガーッ!?」」」
「畜生、どこから撃たれてる――ブガッ!?」
シュボンッ! 段ボールの物陰から銃口が突き出し、更にもう一人を射殺!
「いたぞッ!」
「殺せッ!」
バラタタタタッ! バラタタタタッ! バラタタタタッ! 黒覆面の応射!
不破は身を翻し、資材の段ボールを盾にして駆ける! 5.56mm弾の連射が梱包材を食い破り、繊維や陶器片が滅茶苦茶に宙を舞って降り注いだ!
「見つけたぞ、あそこだッ!」
「荷物ごと押し潰せッ!」
バラタタタッタタタタッタタッタタタタタタ! 斜め上から激しい銃撃!
上階の点検通路に陣取る黒覆面たちが、高低差の利を活かし猛攻を加える!
バラタタタタッ! バラタタタタッ! バラタタタタッ! 不破の行く手の側面で高い壁を成した梱包パレットに集中射撃! 荷物が崩れ落ちる!
「ヤベッ!」
不破は視界の端でバランスを崩した積荷を目ざとく察し、足を止める!
直後、ビニール梱包された積荷とパレットが崩落! 大量の水が滝のように流れ落ちる! ガラス瓶の炭酸水だ! 高所から落ちれば侮れぬ凶器!
「追えッ! 追い詰めろッ!」
「クソッ、安全な仕事だって聞いたから手伝ったのに!」
「ゴチャゴチャ言うな! 相手はたった一人だぞ! 数で捻り潰せ!」
「くたばれーッ!」
バラタタタタッ! バラタタタタッ! バラタタタタッ! 積荷の隙間から黒覆面たちが不破を撃ちまくり、息の根を止めんと追跡を続ける!
彼らの先頭が十字路から顔を出した時、眼前の向こうで積荷が崩落!
「止まれ! 侵入者の上で荷物が崩れた!」
「「「やったか!?」」」
「ドミノ倒しで荷が崩れるかも知れん。待機して、様子を見るべきだ!」
ガラガラガラーッ! 彼の主張通り、崩れたパレットが隣の列を巻き込み、隣の荷物が更に隣で段ボールを積んだ棚を押し倒し、大崩落を誘発!
「「「やったか!?」」」
「慌てるな! マガジンを交換して、野郎がサンドイッチになったかどうかのんびり確かめに行くとしよう! 生きてたら蜂の巣だ!」
黒覆面たちは手にしたSS2-V5のマガジンを、次々と満タンの物に交換した。
――05――
共栄町の『米欧トレーディング第1倉庫』へと続く湾岸道路。海上に伸びる道路を、白塗りのデリバリーワゴンがディーゼルエンジンを唸らせ走る。
「何でだ……僕は、会社に忘れ物を取りに来ただけなのに……」
メルセデス・208D T1トランスポーターの助手席で、眼鏡の青年が恨めしく呟いた。佐々木志文、椛谷の『派遣社員』の一人だ。
「佐々木ィ、お前まだ言ってんのか。いい加減に腹ぁ括れぃ!」
カーゴ室に増設された座席の上で、長谷川が腕組みして声を張れば、野村がうるさそうに耳を両手で塞ぎ、佐々木はがくりと肩を落とした。
「非常呼び出しのメール、読まなかったんですか?」
山田は運転席でハンドルとクラッチを操りながら、佐々木に横目で問うた。
「いや、何かメール来てるなと思ったけど……読むのメンドかったんで……」
ッド―――――ンッ!
突如、衝撃波が空震となって湾岸道路を貫き、車の窓ガラスを震わせた。
「何だ今の!?」
「運転席からは何も。佐々木くん、そちらから何か見えますか?」
「ば、爆発だッ! 山田さん、共栄町の方角で土煙が!」
「どうやら一足先を越されたみたいですね。間に合えばいいんだがな!」
山田はMTギヤを5速に弾き、2300ccディーゼルエンジンを全開で吹かした。
「で、突入する時の人選はどうすんだ!」
「うっさ、声デカすぎ……あたし一番乗りやりたいでーす」
「先頭やりたいヤツ、他に誰かいないか! 野村以外でな!」
「野村、お前はダメだ!」
「エーッ、ジジイに左近司さんまで、ひっどーい!」
「悪いが俺はパスだ! だって盾重いもん。若いヤツが気張れ!」
「は、長谷川……言い出しっぺのしかも年長者が……」
「何だよ左近司。そういやお前、鍛えてるよな。盾持ちやらねえか?」
「エーッ、一番乗りって盾持たなきゃいけないんですかぁ。重い物持ったら撃ちまくれないし、私銃より重い物持ったことないからやーめた!」
「ハァ、みんな言いたい放題だな……佐々木くん、盾持ちやりますか?」
「た、盾ェッ!? いーやムリムリムリムリ、ぜったーい無理! それって歩く死亡フラグですよ! 何かあったら真っ先に死ぬ奴じゃないすか!」
「ハァ、仕方ない。盾持ちは私がします、長谷川さんは殿をお願いします」
「おぅ任せろ! 佐々木ィ、俺の前に付けや。女の背中ぁ守ンのは御免だ」
「エッ!? ……せっかく女子だらけなのに……僕のムフフ計画が……」
「あっ、だったら私、左近司さんと一緒がいいでーす!」
「何言ってるんだ野村、お前は山田のバディだろ!」
「まー後は好きにしろ! 山田、レディーどものエスコートは頼んだぞ!」
「左近司さん、私の後ろを……なんで睨むんですか。えっと、誰か……」
「では、私が」
雨宮が挙手して言うと、佐々木が羨望の眼差しで山田を一瞥した。
『米欧トレーディング第1倉庫』の薙ぎ倒された正門前、出口を塞ぐようにメルセデス・トランスポーターが滑り込み、白い巨体を横付けした。
カーゴ室のスライドドアが開き、左近司、野村、長谷川、雨宮が降車する。助手席を跳ね開けて佐々木が飛び出し、運転席から山田が悠然と降りた。
ダーンダーンダーン! バラタタタッ! バラタタタッ!
「もう始まってるな」
左近司の呟きに、佐々木がウヘェと嫌そうな顔をした。
「山田ァ! ほれ、お前の愛しのガールフレンドだ!」
Vz58ライフルを背負った山田に、長谷川が無骨な防弾盾を差し出す。
「ガールフレンドねぇ。メドゥーサに首ったけ、ですか」
弾痕著しい防弾鋼板製の盾の表面には、ゴルゴーン3姉妹の末妹、蛇の髪と石化の邪眼を持つ『メドゥーサ』の恐るべき顔が白くペイントされていた。
山田は、20連マガジンを装着したグランドパワー P11小型拳銃をホルスターから抜いて、弾の装填を確認すると、左手で防弾盾を持ち上げた。
「左近司さん、盾から頭が出ないように気を付けてください! 雨宮さんは右、左近司さんは左、野村くんは右、佐々木くんは左、長谷川さんは後方を警戒! 強奪犯以外の第三勢力にも要注意です、それでは作業開始!」
――06――
数人の黒覆面たちが、倉庫を飛び出して業務バンに転がり込んだ。
「おい、本当に逃げて大丈夫なんだろうな!?」
「知るか! 任務より命の心配をしたらどうなんだ!」
「一人や二人兵隊が減ったって、どーってこたぁねえだろ、早く出せ!」
カーゴ室に乗った男が運転席を蹴ると、運転手が車のエンジンを始動させ、バックギヤに繋いでハンドルを切り、斜め後ろに急発進、1速に繋ぎ直して再びハンドルを切り、逆方向の斜め前に急アクセルで走り出させた。
「おい、前から何か来てるぞ! 何だあいつら!?」
「援軍か、それとも警察!? 危ないとこだったぜ!」
「三十六計逃げるに如かずだ! ブッ飛ばせ!」
銀色の業務バンが全力加速で迫る! そしてそれを迎え撃つは、盾の後ろに一列縦隊を組んだ紺色の武装集団! 『ソーコム』隊が携えるは、重改造Vz58ライフル!
「車、1台、急速に接近中!」
「突っ込んでくるぞ、止めろッ!」
最前列で盾を構える山田、その背後の雨宮と、更にその背後の左近司が盾の左右から銃口を構える!
ズガズガガガガガガガガガガガガガッ! 2挺のフルオート連射! 容赦なし!
「「「ウガアアアアーッ!?」」」
7.62mm×39弾がボディ鋼板を段ボールめいて貫き、乗っていた黒覆面たちはボニー&クライドのごとく蜂の巣! 車内に血飛沫が吹き荒れる!
車はそのまま直進し、ソーコム隊の横をすれ違う! ズガズガズガガガズガズガズガガガッ! 雨宮から長谷川まで、5人のライフルが車を狙い、同時射撃!
加速する車は門を通り過ぎ、コンクリート塀まで一直線に、ズガ――――ンッ! 激突炎上!
――07――
倉庫の一角。夥しい炭酸水が床に撒き散らされ、ジュウジュウと気の抜ける音を放っていた。崩れた積荷の散乱する周囲には、不破の姿は見えない。
「ひぃーあっぶねぇ……やっぱツキは俺に向いてんのね」
崩落時、不破はその場から全速力で引き返し、逃げる途中で足元に見つけたスチールラックの隙間、荷物の無いスペースに飛び込んで難を逃れていた。
(って、運よく助かったはいいけど……閉じ込められちまったなァ、これ)
不破は胎児のように丸まった姿勢で、四方を棚と荷物に塞がれていた。
金属音を伴い、複数の足音が近づいて、不破は神経を尖らせる。
(何はさておき、どうにかここから脱出しなきゃいけねぇな!)
黒覆面たちが銃口を構え、慎重な足取りで不破の埋もれた辺りまで接近。
「野郎のサンドイッチは見えるか?」
「こんなに崩れてちゃあ、ぺしゃんこになっちまってんだろ!」
「まだ息があるかもしれねえ、景気づけに一発いっとくか!」
バラタタタタッタタタタタタタッタタッタタタタタッ! 積荷の山に乱射!
溢れ出た炭酸水が黒覆面たちの足元まで押し寄せ、物陰に縮こまった不破の尻をぐっしょりと濡らした。不破は異様な感触にゾクリと身悶えする。
「ヒヤァッ!? ちべてえッ!?」
「おい、何か今聞こえたぞ!」
「まだ生きてるぞ! もう一回だ!」
バラタタッタタタタタタタタッタタタタタタタタタ! 執拗に撃ち続ける!
「くっそ手前らこの野郎、フンガー、フンガー、フンガアアアアーッ!」
不破はヤケッパチで両手足に力を込め、踏ん張った! 徐々に荷物が動く!
ガシャガシャガシャッ! SS2-V5の弾が切れ、黒覆面たちが無言の残心!
「お、おおおい上見ろ上! 荷物がッ!」
とその時、彼らの頭上で危うくバランスを保っていた荷物が、崩落した!
「「「ウギャーッ!?」」」
ガラガラガラーッ! 黒覆面たちは恐怖で足が竦み、そのまま生き埋めに!
不破は棚の隙間から死に物狂いで這い出し、SG553Rを引きずり出した!
――08――
「しっかし、問題のウィルスは一体どこにあるんだ?」
「虱潰しに探す他ないですが、敵の排除が先決です。行きましょう!」
拳銃を右手に、『アイギスの盾』を左手に、山田が先陣を切って踏み込む!
「おい、何だあいつらはッ!? 新手が来たぞ、殺せッ!」
上階の点検通路で警戒する黒覆面たちが、山田らソーコム隊を発見して銃口を構える。しかし佐々木と長谷川が銃を構えるのが早かった。
ズガガガッ! ズガガガッ! ズガガガッ! ズガガガッ!
先制射撃! 点検通路の壁や手摺、グレーチングで銃弾と火花が爆ぜる!
バラタタタッ! バラタタタッ! 黒覆面たちは正確に狙う暇を与えられず次々と被弾! 撃ち返す弾は狙いを外し、壁や床や積荷に突き刺さる!
「ウッ、ウワーッ!?」
被弾して体制を崩し、黒覆面の一人が手摺を乗り越えて落下! 墜落死!
ソーコム隊は壁伝いに歩き、積荷の迷路を迂回して上階への階段を目指す!
「な、何だお前ら!?」
物陰から索敵中の黒覆面が飛び出し、ソーコム隊と鉢合わせる! 白塗りのメドゥーサに睨まれ、黒覆面は戦慄と共にSS2-V5を腰だめに構えた!
「前方、敵!」
「く、来るなぁッ! ウオオオオーッ!?」
バラタタタタタガキャキャキャキャキャキャ! 防弾盾が弾頭を跳ね返す!
ズガッズガッズガッ! 雨宮の眼鏡が光り、盾の横からセミオート連射!
黒覆面の心臓と脳髄が炸裂し、彼は手から銃を落として、仰向けに倒れる!
――09――
「お疲れさん!」
「ようやく見つけたぞ、犬が」
「これで終わりだ」
数人の黒覆面たちが、ほうほうの体で這い出した不破に銃を突きつける!
「チッ……かぁー。ここが俺の年貢の納め時かァ。ついてねぇや」
「往生際が良い振りをするな! そのポケットの中に入ってるのは何だ?」
ズガガガッ! ズガガガッ! ズガガガッ! ズガガガッ!
「おい、何だ今のッ!?」
「新手かッ!?」
「敵は一人じゃなかったのか!?」
唐突な銃声に、黒覆面たちは咄嗟に顔を上げて、不破から注意を逸らした。
(チッ、火事場泥棒のお出ましだい。ああもう面倒くせぇ!)
不破は内心毒づきつつ、僥倖に感謝してポケットの小物を床に放った。
「なッ! 手前何をッ!」
背後に投げられた物に注意を惹かれ、咄嗟に振り返る黒覆面たち! そして次の瞬間、バボッ! ギ―――――ンッ! スタングレネードが炸裂!
「「「ウワーッ!?」」」
忘失して立ち往生する黒覆面たち! 不破は両手で耳を押さえ、目を閉じて俯き強烈な閃光と音響を耐える! 衝撃波がもたらす吐き気を堪えながら、すぐさま飛び込み前転で黒覆面から距離を取り、反転してSG553Rを構えた!
シュボボボボボボボボボボッ! 横凪ぎのフルオート連射! 黒覆面たちの胴体が裂け、血の塊と共に臓物が飛び出し、一人また一人と崩れ落ちる!
「「「ヒギャーッ!?」」」
不破は身を起こし、夥しい流血と共に蠢く黒覆面たちを照準!
シュボンッ、シュボンッ、シュボンッ! ヘッドショットで確実に殺す!
ズガッ、ズガッ、ズガッ! 姿は見えないが、確かに聞こえる新手の銃声!
「こうしちゃいられねえ、しくじったら魔女にキンタマ抜かれちまうぜ!」
不破はSG553Rのマガジンを交換すると、銃声の方向を目指して走り出した!
――10――
「フヌッ、ベロリ、フンヌフンヌ……いい加減に素直になれよ、聖羅」
「クッ、クソッ……キモいのよッ……誰がお前なんか!」
シボレー・エクスプレスの車内。聡一郎は聖羅の着物をはだけさせ、強引な愛撫で屈辱の表情を浮かべる聖羅に、自らの勃起をいや増させた。
プルルルルッ! 屈強な白傭兵が着信音を聞いて、聡一郎と聖羅が押し合いへし合う中で押し込められつつ、懐から防爆型スマホを取り出した。
「もしもし。どうした、敵襲か? どこの組織だ? 不明? 何だと?」
「ヘヘヘ……そうは言っても、身体は正直だぜぇ……何の騒ぎだ」
顔を背ける聖羅のうなじを舐めあげ、聡一郎が鋭い表情になって問うた。
「はッ。アジトが何者かの襲撃を受け、制圧されつつあるとのことです!」
「……痛ッ!?」
「だから、初めからアテナ薬品へと持ち込んでおけば良かったのだ!」
聖羅の胸に爪を立てて握りしめ、聡一郎が苦い表情で吐き捨てる!
「待機中の兵を今すぐ向かわせろ! あれを横取りされてなるフゴッ!?」
聖羅が後ろ手に縛られたまま、聡一郎の顔面に頭突き! 眼鏡が弾け飛び、聡一郎が鼻血を垂らし、背中から側面ドアに激突して崩れ落ちる!
「いったいわね! 放しなさいよこのバカ!」
すかさず、屈強な白傭兵が腕を伸ばし、聖羅の結髪を掴んで動きを止めた!
「フッ……クックク……フッハハハハハァ! 全く、活きの良い女だ!」
聡一郎が身を起こし、鼻血の滲む顔に眼鏡をかけ直して聖羅を見下ろした。
「クッヒヒヒ……後でたっぷりお仕置きしてやるからな、覚悟しておけよ」
聖羅は強制的に首を後ろに反らされ、聡一郎を睨み返しながら歯噛みした。
――11――
「う、ウワーッ!?」
「来るぞーッ!」
「こんな銃じゃ止まらねぇッ!」
バラタタタッタタタタタッタタガキョキョキョッガキョガキョガキョ!
「オラオラオラァーッ! どけどけどけぇーッ!」
階段を進むソーコム隊、山田の盾が銃弾を受け止める背後で、野村が哄笑!
ズガガッ! ズガガガッ! ズガズガズガガッ! ズガガガガッ!
「グギャーッ!?」
「ガバーッ!?」
「ブゲエッ!?」
山田の背後に立つ雨宮、その後ろの左近司が盾の左右から重改造Vz58を突き出し、数発のバースト射撃を的確に決めて、黒覆面たちを撃ち倒していく!
「弾が切れました! リロードッ!」
「了解。支援します!」
ダンダンダンッ! ダンダンダンダンッ! 山田の拳銃が凄まじい連射!
「ターリホーッ!」
ズガガガッ! ズガガガッ! ズガガガッ! ズガガガガチンッ!
野村が銃を横に捧げ持ち、盾の上へと銃口を向けてブラインドファイア!
「の、ノムちゃん滅茶苦茶過ぎるよ……アラブの聖戦士じゃあるまいし……」
「あいつを前に出すな、つった意味が解るだろう?」
長谷川が佐々木の肩を叩き、したり顔で言うと佐々木は頭を振った。
シュボボボボッ! 点検通路を上へと目指すソーコム隊の足元に銃撃!
「て・め・え・らあああーッ! 獲物の横取りは許さねぇぞぉッ!」
シュボボボボッ! SG553Rを撃ちまくりながら駆け寄るのは、不破だ!
「おっと、下にまだ活きのいいヤツが残ってたか!」
「あの銃声、5.56mmじゃないですよ。それに、サイレンサーも?」
「あれこれ分析すンのは後にしねえか!」
長谷川がどやして振り返れば、佐々木も続いてライフルを構える!
ズガガガッ! ズガガガッ! ズガガガッ! ズガガガッ! 牽制射撃!
「ウオーッ危ねぇッ!? 何だあの銃声、7.62mmのAKか!?」
すかさず不破が飛び込み前転で銃撃を回避! 転がった先で、AK弾に特有の強いカーブを描いた、プラスチック製のバナナマガジンを拾い上げる!
「間違いねえ、俺と同じ弾だ……しかし背中の出っ張ったのは何だこりゃ。ボルトキャッチを動かす部品か? AK用とは微妙に違うマガジンだな」
不破は空のマガジンを放り捨て、自分の銃のマガジンを交換すると、覚悟を決めて腰を上げ、ソーコム隊が先行する上階への階段へと走った。
――12――
最上階の連絡通路の終端、倉庫の全景を見下ろす監視小屋の窓に動き有り!
ガッシャーン! 窓が威勢良く叩き割られ、突き出されるヘビーバレル!
「このクソッたれ盗人どもがァッ! 来れるもんなら来てみやがれ!」
黒覆面が銃の機関部を開き、7.62mm×51弾のアモベルトを装填! ベルト式マシンガンだ! インドネシア製MAG機関銃……ピンダット SM2V1が胡乱に輝く!
「死ねぇーッ!」
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ! 腹に響く重低音の連射!
「LMG! LMG! 全員伏せろッ!」
ソーコム隊が泡を食って膝を折り、グレーチングにへばりつく! 弾の雨が手摺を跳ね、グレーチングで火花を散らし、壁面を抉って粉塵を上げる!
ズガズガズガガガズガズガガズガガズガガガッ! ソーコム隊も手摺の隙間から果敢に撃ち上げる!
上階の監視小屋で、機関銃手の周囲に弾着多数! 機関銃手は反撃の激しさに一時後退! 持久戦で磨り潰す構えだ!
「よっしゃいいぞぉ! そのまま全員ぶち殺しちまえェ!」
不破が歓声を上げ、ライフルを抱え直して階段を駆け上がる! とその時、マシンガンが銃撃を止めて後退すると、別方向から銃口を突き出し、不破に照準を合わせ直して火を噴いた!
「お前も死ねェーッ!」
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ! フルオートの機銃掃射!
「ほんぎゃあああああッ! 何でこっちに来るんだよォ!」
不破は絶叫し、SG553Rを手に全力疾走! 銃撃が彼の背中を追いかける!
「この盾では308は防げません! みんな先行してください! 走って!」
山田の叫びに応じ、不破に銃口が向いた隙に、ソーコム隊が走り出す!
「チクショウ、ちょこまか鬱陶しい奴らだ! 蜂の巣にしてやる!」
SM2V1機関銃がバレルから白煙を棚引かせながら、位置を移動してソーコム隊に再び照準!
その時、不破が手摺にSG553Rを委託し、ランチャーの引き金を弾いた!
ガポンッ! ズド―――――ンッ! 監視小屋に榴弾が飛び込み、炸裂!
「ウガアーッ!?」
機関銃手が破片に全身を引き裂かれ、銃を抱えて窓から転げ落ちた!
「「「グレネードランチャー!?」」」
「今度は私たちが撃たれる番です! 足を止めないで、さあ走って!」
山田が最後尾、長谷川よりも後ろで盾を構え、上階へと一行を急かした!
「ハァーッ……」
不破は無精髭の間から歯を覗かせ、邪悪な吐息と共にグレネードを再装填。
ズガガガッ! ズガガガッ! ズガガガガッ! ソーコム隊の牽制射撃!
唸りを上げて弾頭が舞い、不破は舌打ちして駆け出す!
シュボボボボッ! シュボボボボボッ! 走りながらSG553Rで応戦!
ガキョキョキョキョッ! ガキョキョキョキョ! 山田の盾に重い手応え!
監視小屋へ、一人また一人と走り込む中、山田だけが引き離されていく!
シュボボボボボッガキョキョキョキョキョガチンッ! 不破の銃が弾切れ!
「オラアアアアアーッ!」
バラタタタタタタタタタッ! 下方から銃撃! 黒覆面たちの生き残りだ!
不破は監視小屋に照準した銃口を下に向け、ランチャーの引き金を引いた!
ガポンッ! ズド―――――ンッ! 夥しい荷物を巻き込む榴弾の炸裂!
グレーチングが一直線に伸びる点検通路上、対峙する不破と山田の距離は、約20メートル。不破、山田、両者は束の間の静寂の中、銃を再装填した。
不破 VS 山田
【第1話:米欧トレーディング第1倉庫の争奪戦】終わり
【第2話:不破 VS 山田】に続く
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