いつか俺と幼馴染みの恋愛価値観は交わっていく

神の名はペルシア

第1話 俺と俺の幼馴染み

「はぁ…あの男ほんと最低!やっぱり私、男を見る目ないのかな?」


大学2年の夏休みが始まったばかりの8月頭。

お昼過ぎにファミレスに呼ばれた俺、草加裕太

くさかゆうた

は、目の前に居る幼馴染みの女の子の愚痴を聞いている。

2人とも既にメインディッシュであるパスタを食べ終えていて、デザートに手を付けている。


「知らないけど…今度は何があったわけ?」


「『デートで毎回奢ってる意味わかってる?そろそろやらせてくれてもよくない?』だって。マジでふざけんなって感じ。別に奢ってなんて頼んでないし。勝手に奢っといて見返りでカラダ求めてくるとか、ほんと男って最低!」


そう言って俺の前で熱く語っている女の名前は、本庄玲香

ほんじょうれいか


俺とは家が近かったこともあり幼稚園の時からの幼馴染みで、小学校、中学校も同じ。高校こそ玲香が女子校に通ったために別の学校だったものの、大学ではまた同じ学校になった。両親や俺の姉と玲香の姉も仲がよく、まさに家族ぐるみの付き合いだ。


「なるほどねぇ。まぁ、なかなか最低な発言ではあるけど…。それで、玲香はどうしたの?」


「もちろんその場でお別れ。『今までありがとうございました。やっぱり先輩とは無理です』って。その後は走って逃げた。SNSも全部ブロック」


ひとつため息をつくと、オレンジジュースの入ったコップから伸びるストローに口をつける玲香。


綺麗に染められた茶色い髪は肩までのショートカット。ぱっちりとした二重に通った鼻筋、色っぽい唇。

服はオシャレなワンピースを着ており、耳には可愛らしいイヤリング。


(まぁこんだけ可愛いければ、そりゃその男も早くやりたくなるわな)


「ねぇ、男ってそんなにエッチなことばっかり考えてんの?彼女相手でも?」


俺の顔を覗くように見てくる玲香。


「さぁな。あいにく俺は彼女居たことないからな」


そう。俺は生まれて20年間、彼女が居たことはない。

自分で言うのもなんだが、決して容姿や性格、学力や運動能力が悪いわけじゃないし、ぼっちだったわけでもない。普通に学生生活を楽しんでいた。

だから女友達だったらそれなりに居たし、大学生になった今も、会話をする女子はそこそこ居る。

ただ、《恋人》になるまでの発展がないだけだ。


「でも、男ならたぶん…少なからずそういう気持ちは常にあると思う。それが彼女相手でも…」


「…そっか。祐太が言うなら、そうなんだろうね」


「でもあの人のことは許さないけど。」と呟きながら、デザートで頼んでいたチーズケーキの最後のひと口を頬張る玲香。

ここに来た時より、だいぶ落ち着いたように見える。


「なんで毎回こういう時に俺に相談するのかわからないけど…。まぁ、愚痴聞くだけなら付き合うから。俺払うけど、もう会計して良いか?」


「うん。聞いてくれてありがとう…。ご馳走様です」


俺達は会計の用紙を持って、レジに向かう。


「2480円です」

「3000円で」


俺は財布から千円札を3枚取り出し、店員に差し出す。


「520円のお返しです。ありがとうございましたー」


ファミレスを出る。冷房の効いていた店内から真夏の太陽の元へ。


「暑いな(暑いね)」


ふたりの声が重なって、思わず笑う。

この暑さだ、外に出ての第一声としては当然かもしれない。


「そういえばさぁ…」


歩きながら、玲香が第二声をあげる。


「裕太も毎回、私とどっか行ったら奢ってくれるよね?今日もだけどさ。なんで?」


「なんでっていわれてもなぁ…」


そんなこと深く考えたことなかった。確かに、俺はなんで毎回払っているんだろうか。彼女でもないのに。


「やっぱり見返りでカラダ目当て?笑」


玲香が少し悪戯っぽく微笑みながら聞いてくる。

俺はその様子を見ながら、自分の本心と向き合い、ありのままの言葉を探る。


「まぁ俺も男だから、下心が全くないとは言い切れないかもな…。こういうので玲香からの好感度を上げて、あわよくば…みたいな気持ちがないとは言い切れないと思う」


うん。幼馴染みではあるが1人の可愛い異性。

全く下心がないなんて、あるわけない。


俺はよくあるラブコメの主人公じゃない。

あいつらは、周りのめちゃくちゃ可愛いヒロイン達からアプローチされても、なぜか手を出さない。

「まだそんな関係じゃない」とか「異性としてみたことない」とか「そういうのは付き合ってから(結婚してから)でも遅くない」とか…。なかには、同じベッドで寝るシーンまでありながら、手を出さない作品だってある。

健全な高校生や大学生が、自分に対して積極的な可愛い女の子相手にそんな事あるかよと、いつも思う。


実際俺は、もし仮に玲香から今「抱いてよ」と言われれば2秒で抱く。

当たり前だ、20歳の男子大学生なんだから。


「へぇ…ちょっと意外かも」


まさか俺からそんな風に言われると思ってなかったのか、少し困惑している様子の玲香。


そう、下心。

…でもきっと、俺がお金を出す1番の理由は、これじゃなくて。


「だけど、1番は玲香が女の子だから…かな?」


「え?」


「ほら、女の子って色々大変だろ?男と違って、ちょっと出掛けるだけでもメイクとか服とか髪型とか。ジャージにスッピンってわけにもいかないだろうし笑

だから、俺との時間を過ごす為に費やした準備時間の分くらいは、お金ださないとおかしくないか?」


これが俺の価値観。綺麗事を言ってるつもりはないし、本気で女の子は大変だと思う。


そんな俺の言葉に、玲香が立ち止まる。


「そういう考えの男の人、素敵だな…」


「そうか?」


俺も立ち止まる。


「うん。なかなか居ないよ、女の子の努力を考えてくれる男の人。なんで彼女が出来ないのか不思議なくらい素敵じゃん」


笑顔で俺の方を見てくる玲香。

その笑顔の眩しさは、今日の太陽にも負けてない。


「じゃあここで。またなんかあったら連絡するね。今日はありがとう」


「おう。気をつけて帰れよ」


そうして俺たちはそれぞれ別々に、1人暮らしをするアパートへと帰っていった。

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