人類暦148年12月19日 辺境の村にて

「ねぇ、本当に行くの…?ここに居れば、きっと彼が救ってくれるのよ」

髪を乱し、瞳には薄っすらと涙を浮かべる女性。彼女がつかむ手の先には、顔のよく似た男が居た。

精悍というには幼さの残るその少年は、ゆっくりと女性の手を振りほどき背を向ける。


「僕は行くよ、母さん。守られてばかりじゃダメなんだ、戦う意思を持たなきゃ」

「…どうしても、行くの?」

「うん、もう決めたことだ。大丈夫、きっとうまくいくよ」


少年は剣を手に取り、村を後にする。その瞳は決意で満ちており、希望のある未来を信じていた。———あの男に出会うまでは。



「はい、そっちのB-2からB-28検体は処分しておいてくれ。なんなら粉砕機にぶち込んでおいても構わん。ああ、少しでも『樹』の因子を持っている個体は取っておけ、あとで調査する」


積み上げられたを一瞥し、興味なさげにつぶやく男。好き放題に伸び切った灰色の髪の下からは、ギラついた双眸が覗いている。彼は白衣に片手を突っ込んだまま、瀕死の少年の頭を掴み問いかけた。


「『樹』の因子持ちか…後天的だな。B-36検体、何を知っている?」

「僕には…サイオっていう名前があるんだ…ッ!お前のような悪魔に教える事なんてない…!」


男は神経質そうに側頭を掻き、少年の喉を蹴り上げる。

「グォッ…!?」

「チッ…汚ねェな、血で靴が汚れるだろうが。質問を変えるぞ。『2か月後の反攻作戦の主導者は誰だ?』さぁ、答えてみろ」

「だか…ら…答える…事など…!」

「合理的に考えてみろ。部隊はお前を除き全滅で、当の生き残りも虫の息。助かりたかったら答えるほかないだろうが」

「だった…ら…このまま…死んでやる…」


男は大きく嘆息し、周りの部下に指示を出す。

一人の部下が鏡のような物体を男に手渡すと、少年の顔が大きく悲壮に歪んだ。


「はい、B-36検体君の大好きなご家族のクリスタルだ。救いたいだろ?さあ、協力してみろ」

「……テメェ…!!何を…母さんに何をしたァッ…!!」

瀕死の体で掴みかかろうとする少年を足蹴にすると、男は余裕の表情を崩さず告げる。

「だからクリスタルに加工したって言ってるだろうが。『樹』の因子もない旧人類なんか人間じゃない、ただの『存在』だろ。物体を壊そうが直そうが俺の勝手だ」

「僕が協力したら…元に戻して…くれるのか…?」

「ああ、『王冠ケテル』に誓って戻してやるよ。で、誰なんだ」


「反攻作戦の主導者は――——」



「…なるほどな、すべての辻褄が合う。俺ともあろう人間が、甘かったな」

「クリァド様?どうかなさいましたか?」

「———なんでもねぇよ。さて、『旧人類』を根絶やしにする最後の戦争が始まるぞ」

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