転生した両親に会うため異世界に来た男の異世界探検記

ルイカ

第1話 異世界への案内


「今までお世話になりました」


「おう、次の職場でも頑張ってな」


 会社の同僚や上司からパチパチパチと拍手が鳴り響く。オレは静岡にいる親戚の叔父さんの仕事を手伝うため7年間勤めた会社を今日で最後に退職することになった。



 夕方、最後の仕事が終わり行きつけの店で一杯やろうと帰路につく途中、目の前にあるコンビニでピタリと足を止める。金曜日ということもありやはりそれなりに疲れを感じる。居酒屋によるのはやめてアパートに帰ってTVでも見ながら一杯やることにした。

 コンビニの前で足を止め、焼酎と焼鳥を買って帰る途中、町はずれの山の上にある神社が目に付いた。



 そういえば小さい頃、あそこの神社の夏祭り両親によく連れて行ってもらったな事があったな……



 神社の鳥居まで延びる山道の両側に祭りの夜店がずらずらと並びにぎわっていた光景を思い出す。



「久しぶりに行ってみるか」



 100段ほどの急で長い階段、昔はホイホイっと登った階段が今はめちゃくちゃキツい!

 イヤ、たんにオレが運動不足なだけなのか?

 やっと神社にたどり着くと足がもう筋肉痛でパンパンになっていた。




 神社から町の夜景を一望する。

 もうすでに日は落ちて、あたりはすっかり暗くなっていた。この町に来て今年でもう18年になるか?

 21歳の時に両親が事故で他界し、その後1人暮らしで必死になって働いてきたけど、それでもマンションの家賃や公共料金、税金などの支払いで生活はカツカツだった。

 つまりいつも節約生活………当然自炊生活だ!

 まあそのおかげで料理もそれなりに美味しく作れるようにはなったけど……



 今でもときどき夜1人になると、ふっと亡くなった両親に会いたくて、寂しさを感じて眠れなくなることがある。



 夜、寂しさに襲われたときはどうやってその寂しさを紛らわしたらいいのか?



「結婚したらいいじゃん」という友人がいたけど

「親が死んでさびしいから結婚する」というのもちょっと違うんじゃないかと思う。

 もしあの世かどこかで元気でいてくれていたら

 いつか自分が死んだら会いに行ってあげたいな

 両親がいなくなったあの時初めて気づいた。

 2人ともオレ達兄弟の事を本当に大切にしてくれた。

 でもオレは両親にまだ何も親孝行してないって



 いやまだ流石に死のうとは思わないけど……でも






『ほうかい、ならばお前さんのその願いを叶えてやってもええぞ』





 突然、後ろから声が聞こえて来たと思って振り返ると神主姿の若い女性が立っていた。



「アンタ一体いつからそこにいたんだよ」


 何だよコイツ薄い銀色の髪? それに動物のような耳と尻尾があるが……コスプレか?



「その尻尾と耳……アンタは?」


『ふむ……ワシゃ白狐と申す者でな、

ワシゃもうかれこれ300年くらいはこの土地に住み着いておるんじゃがのう」



 そういえば昔、婆ちゃんから聞いた事があるぞ。この神社には古くからの言い伝えがあってこの土地に守り神として祀られている神様が人々を災害から救ったんだとか?




 コイツがそうなのか?




「なぁアンタは神様なのか?」


『プッ……ワッハハハハハッ!』


「何がおかしいんだよ」


『ワシゃこの土地で神と崇められておったがそれは人間どもが勝手にそう呼んでおっただけじゃ!ワシは神などではありゃせんぞよ』




 神様じゃなけりゃ何なんだよ一体?




『それにワシはお前さんを知っておるぞ。まだ幼かったお前さんが泣きじゃくりながら両親に連れられて初めてここに来た時からな』



『それにしてもなかなかに月が美しく明るい夜じゃな

 オイお前さん酒などは持って無いのかや?』


 匂いでわかったのか彼女はオレの右手に持っている焼酎と焼鳥が入ったコンビニ袋をジッと見つめている。ずいぶんと図々しいヤツだな?


 まぁいいか


 焼酎をフタに注いでやり、つくねを1本分けてやると白狐は喜び、勢いよくつくねにかぶりついた。



『おおコレは美味い、コリコリがたまらんの』


「良かったらねぎまもあるぞ」


 焼酎のおかわりを求めてきたのでねぎまも1本分けてやった。


『おお、お前さんなかなか気が効くのう』


 ねぎまにかぶりつき焼酎の飲む白狐をジーっと見つめていると彼女は手を止めてオレの方に向き直った。


『先程の話なんじゃがのうお前さんどうじゃ、いっその事お前の両親が暮らしておるこことは別の世界へ行ってみたいとは思わんかや?』


「両親が……ってどういう事だよ?」


「実はのう……」



 白狐曰くオレの両親は交通事故で亡くなった後、神々のはからいによって異世界へ転生されたらしく、そこは精霊や魔物が存在し中世ヨーロッパのような剣と魔法の世界だそうだが信じられねぇな?

 酔っ払いの戯言にしか聞こえねえよ(笑)



『お前さんも疑り深い男じゃのう。まあ良い

 ならばほんの少しだけ見せてやろう【転移門ゲート】』




 突然、目の前に大きな扉が現れた??



「えっ何だコレ?」


『さぁついてくるがよい』




 白狐が扉を開けるとそこには全く違う景色があった。マジか?異世界ってマジで存在すんのかよ!




『ここが異世界じゃよ』



 そこは都会で暮らしていたオレにとって信じられない光景だった。マイナスイオンたっぷりの自然の景色、山々や川の風景がヤバいっス! マジで癒される。

 会社もクビになっちまったし、まぁ次の仕事探すまでのなんつうか充電期間って事で異世界旅行もいいかもな。しかも海外旅行みたいに渡航費とかも一切かからないだろうし、なら転生した両親の顔を見に会いに行ってみてもいいかな。


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