第三十四話 オタクと人形ちゃんは水族館に行く

午前八時。駅前。


基本僕たちは現地集合だったのだが、今回は電車に乗って出かけるということで、珍しく現地集合ではなく、こうして駅前集合になっていた。

僕の服装はこの前アリスさんとショッピングしたときに購入した服の一つを着てきている。この服は、お揃いの服で、なんとなくだがアリスさんもこの服を着てくる気がしたので、僕はこの服を着てきた。


とりあえず、先に着いた僕はアリスさんと僕の切符を購入しておいて、待合室に座っていた。


「…相変わらず早い…二十分前だよ?」


「それだけ楽しみにしてたんだよ」


前回よりも早く来たにもかかわらず、僕の方が早くついていたことに不満を漏らす彼女。そんな平常運転な彼女を見て、少し笑みを浮かべる。


「おはよう、アリスさん」


「おはよう、拓斗くん」


そう言って、改札口に歩き始める。


「切符は買っといたよ、ホレ」


「あ、ありがとう。あとでお金返すね…?」


「いや、往復二千円程度だし返さんでええよ」


「じゃあ、素直に受け取っとく…」


そう言って、切符を大切そうに財布にいれる。

いつもは意地でも何か返そうとするのに珍しいなと思っていると、そんな僕の思考を見抜いて、彼女は少し笑みを浮かべながら答えた。


「いろんな本を読んで勉強したんだけど、こういうのは、素直にもらっておく方がいいらしいから…」


その発言は少し照れ臭いと思ったのか、彼女は少し耳を赤く染め歩く速度を速めて改札に向かった。

僕はまた珍しいことが起きたと、そこそこ驚いておたが、最近は慣れてきたらしく、すぐに正常な思考を取り戻して、彼女のあとを追った。


***


「ここが水族館…!」


「いつもより目を輝かせてるね」


と、いつもより期待値が高そうな反応に驚く。


「…水族館は、修学旅行で行く予定だったけど、あの人のせいで私行けてなくて…周りの反応を見るにすごく楽しそうだったから…!あと、あの頃と違って友人がいる…!」


そう言って、嬉しそうに笑う。

僕は彼女の頭に手を伸ばし、軽くポンポンとした。


「じゃあ、楽しまなくちゃな、ほれ、チケット出して入るぞ」


「ん…!」


そうして僕たちは水族館の中に入って行った。



目の前にあるのは巨大な水槽。

薄暗い部屋の中、その巨大な水槽は青く美しい光を保ち、部屋を紺色に染め上げていた。


「すっご…」


「うん…綺麗…」


思わず感嘆の声を上げる僕ら。

この空間で大声をあげる人は居らず、ただただ静かで落ち着く、涼しいく、美しい水の空が広がっていた。銀色の雲のような大小様々な魚が動くと、虹色の眩い光を放ちながら美しいイルミネーションを魅せる。そんな風景に僕らは圧倒された。


「ねぇ」


「ん?」


「薄暗いし、はぐれないように手を繋ご…?」


「あぁ、そうだね」


彼女の言う通り、薄暗く、そここそ人は居るため迷子になる可能性があるので、僕は素直に了承して、彼女の手を握る。


そうして、僕たちは水槽を眺める。

この涼しい空間の中で、彼女の手だけが熱を持ち、なんとも言えない感覚に陥った。


僕は熱を求めてもっと強く握ろうと思った。それは彼女も同じだったらしく、僕たちは自然と指を絡めた。


そうして、ゆったりとした時間は過ぎていき、そろそろ次に行こうかとなり、僕たちは巨大な水槽の前から去っていった。



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