第二話 オタクと人形ちゃんはUFOキャッチャーで遊ぶ
「おぉ…」
ゲームセンターに来るのは初めてだという、柊さんを引き連れてきたのは、定番中の定番UFOキャッチャーだ。
その、引き連れてきた柊さんはUFOキャッチャーにへばりついて、中の可愛いクマのぬいぐるみをキラキラとした目で見ている。
「これ、なんていうゲームなの?」
と、僕のほうを見て、可愛らしくコテンと首をかしげた。
僕は引きつってる頬を自覚しながら、マジかよこいつみたいな感じで、柊さんのことを見てしまった。
「…視線や表情が失礼な気がする」
「いや、事前情報なしで行動するって普通ありえないからな?」
「むぅううう…」
流石に反論できなかったのか、プイっと横を向いた。
学校にいるときは、ほぼ無反応なのに、こうしてみると意外と反応するんだな。
そんなことを思いながら、反応に何か返すのも面倒だと思い、すべてガン無視してUFOキャッチャーに硬貨を入れた。
ガン無視されたことに大きく目を見開いたが、UFOキャッチャーの説明を始めたらすっと表情をいつも通りの無表情に切り替えて説明を聞き始めた。
「このゲームはUFOキャッチャーといって、上にアームがあるだろ?このボタンを使って操作して、この中にある景品を取るゲームで、今から操作するからよく見とけよ。まず、右にあるボタンが左移動で左にあるボタンが縦移動だ。両方とも一回ずつしか操作できないから慎重に操作する。で、アームを景品の位置まで持っていって…」
アームが下りてきて、うまいことアームが腕の部分に引っ掛かって、クマのぬいぐるみが持ち上がって移動する。そして、アームが開きゴトンと取り出し口にクマのぬいぐるみが落ちてきた。その光景を見た柊さんは「おぉ…」っと、感嘆の声を上げた。
「ま、こんな感じに景品を取るのがUFOキャッチャーっていうゲームだ、っと、この景品俺はいらないから柊さんにやるよ」
そういって、今とったクマのぬいぐるみを柊さんに渡した。
柊さんは驚いたように、渡されたぬいぐるみと僕を交互に何回か見て、疑問ですとでもいうような視線を僕に向けながら首をコテンと横に倒した。
「これ、貰っていいの…?」
「あぁ、いらないとかだったら、僕が持ち帰るが、ほら、女の子ってそういうの好きだろ?」
女の子はぬいぐるみが好きというのは完全な偏見だが、先程、キラキラした目でぬいぐるみを見ていたので、少なくとも、柊さんがぬいぐるみの事が嫌いということはなさそうな感じだった。だから、僕が持ってても使わないし、部屋の片隅でほこりをかぶるのは確定なのだからあげたんだが…もしかして、普通にゲームの方に興味があっただけで、ぬいぐるみは興味なかったとか…?
そんなことを思っていると、ギューッとぬいぐるみを抱きしめて、すごくうれしそうな顔をして、「…ありがとうございます。大切にします」と言った。
どうやら、僕の対応は間違いではなかったらしく、ほっと胸をなでおろした。
「いえいえ、それじゃ、柊さんの好きな景品のとこ行って取ってみようか」
「うん」
そういって、僕たちはゲームセンターの中をもう一度歩き出した。
* * *
「…え?これでいいの?」
「(こくこく)」
ゲームセンターの中のUFOキャッチャーコーナーをぶらつくこと数分、柊さんが興味を示した景品は、かわいいぬいぐるみでも最近のJKに流行りの何かというものでもなく、最近アニメ化したラノベのキャラのフィギュアだった。
…意外だ、意外過ぎる。
柊さんといえば、学校では成績優秀でクラス内では勉強の話しかしないようなクソ真面目の代表格といってもいい。
だからサブカルチャーに一切興味がないと思っていた。
だが、現状を見るそれは幻想だったようだ。
ぬいぐるみを抱きしめ、景品をしっかりと左右からも位置を確認している、そこには、取ろうとする意気込みというか熱意が感じられる。ここまで真剣になった柊さんを僕は一度も見たことがない。
一通り見終わったのか、「よしっ」と短く呟き、僕にクマのぬいぐるみを預けて、UFOキャッチャーに硬貨を入れた。
十数分後。
景品を吊り上げることすらできなくて、涙目になっている柊さんが出来上がりましたとさ。
いや、途中であまりにも下手すぎてアドバイスしようか?と声をかけたのだが、大丈夫と言って、集中し始めてしまったためそれ以降、声をかけることができなかったのだ。
「アドバイスしようか?」
「お、お願いします…」
そういって、うなだれた。
「UFOキャッチャーはお金を入れたら取れる物じゃないんだ。しっかりとした知識や経験が必要で、柊さんがさっきこの箱を横から見た時どこかひっかけれそうな所はなかった?」
「…横に半円の穴が開いていたから、そこなら?」
「うん、そうだね。基本的に箱をアームで取るやつは箱の横に引っ掛けることのできる場所が用意されているんだ。そこにうまいこと引っ掛けてみると取りやすいよ」
「ほうほう」
ここまで説明すると、柊さんはUFOキャッチャーのほうを向きもう一度しっかりと景品を確認して、また硬貨を入れた。
そして、そのアドバイスを生かしてプレイすること数回。
ゴトンという音を立てて、無事フィギュアをゲットすることができた。
「とれた…!」
「おめでとう」
初めてゲットした景品を満足そうに見て目を輝かせている。一通り眺め終わったらニコニコして箱をぺたぺた触り、においをかいでみたり、ちょこっと左右に揺らしてみたりして、実物が自分の手にあることを確認している。
なんか、微笑ましいな。
持ってる物は、美少女フィギュアだが、状況としては初めて取った景品ではしゃぐ子供で、柊さんは童顔なところから、余計に微笑ましさに拍車をかけている。
ひとしきり喜んだあと、僕に向かってフィギュアを突き出してきた。
僕が頭の上にはてなマークを浮かべていると、「ん!」といって僕にフィギュアを押し付けてきた。
素直に受け取ると、僕の持っていたクマのぬいぐるみをサッと回収して、抱きしめた。
どういう状況だこれ、と思って。反応に困っていたら、柊さんが小さな声でぼそぼそと喋りだした。
「…クマさんをプレゼント…して…くれたから…その…何か返さなきゃって思って…その…西宮君の読んでた本の表紙に…そのキャラがいたのを思い出して…その…お返しです…」
「お、おう…」
…顔が熱い。
柊さんのほうを見るとクマに顔を押し付けて首から上を真っ赤にしていた。
産まれて15年。美少女と接点が無くそんな対応をされることが一度もなかった僕は、その、圧倒的な可愛さに圧倒されて顔を赤くするほかなかった。
それから、数分間無言の時間が続いた。
柊さんは少しはマシになった顔を少し上げてちらちらと、反応をうかがうような視線をクマの頭のうえから送った。
そんな美少女に僕がひねり出した言葉は、
「あ、ありがとう、うれしいよ」
という、なんとも一般的な回答だった。
その回答に、気分をよくしたのか柊さんは一度も見せたことがない満面の笑みを浮かべて、「ならよかった」と言った。
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