第6-06話 守護する者

2035/08/31 10:30

 しかし、多勢に無勢という言葉がぴったり合うような状況でした。

 守らなければいけないのは八名、護衛できる者は三名しかいないのです。

 しかもうち一人、紅葉もみじさんは、戦力になるかどうかはっきりしませんでした。素手なのです。

 そして妖魔あやかしは無数に群れています。

 大きい妖魔の数は比較的少ないのですが、それでも八体以上、小さい妖魔の数は大きい妖魔の数の五倍はいました。

 そして増援などは、ありえませんでした。

 どの妖魔か分からないモノの、結界の中なのです。


 さらに運命の歯車は、回り始めます。

 一番後ろで震えているのが、多分今回の切っ掛けを作った方でしょうか。

 周りを妖魔が囲み始めたのです。


 美空みそらさんの術式には丁度よいのですが、一般人しかもTVカメラを構えている人を後ろに置いて、術など放てるわけはありませんでした。

 特殊効果にでもしてもらうしかありませんが、そういう話は通用しそうにありませんでした。

 かといって、私が相手をするわけにも参りませんでした。

 なぜかというと、私のは物理的に光の剣を創出してしまう系なのです。

 どうあがいても、TVに映らない訳はありません。


 美空さんが囲まれていて、尚、術を放たないのは戸惑っているからでした。

 怒雷どらい破魔はま系に属し人や物には影響がありませんが、鋭い雷と虎の吠え声を周囲にひびき渡らせ敵を倒す種類のものです。

 神鳴かみなりと言う術もありますが、そちらは周囲全てに被害の出る術でかなり広範囲なうえに、炸裂さくれつするとクレーターを大地に穿うがつような術であり、騒音もすごいですが被害もすごくでるものなのです。

 神鳴は、私や紅葉さんやTVクルーまでも巻き込んでしまうのです。


 カメラさんや、音声さんの構えているマイクを手放してもらうしか方法はありませんが、生憎あいにくと後ろでは生撮りで録画が開始されてしまっていました。女性のアナウンサーさんが「絶体絶命の危機です」と言いながら妖魔を映してしまっています。かくては難しそうでした。


 あとは放送される前に逃げるかですが、そうなると今度は何かを持っていると思われる人の命が、危険にさらされてしまいます。


 あとはただ一つ、敵のど真ん中で術や剣を創出する方法でした。

 敵に囲まれてしまえば、TVカメラからは映らなくなります。

 それで行けるはずです。

 ただ、紅葉さんのことが気がかりでした。

 いつもならぎん無垢むく三節棍さんせつこんがありますが、今日は素手すでなのです。


 ここはける事にしました。

 戦いの中で目覚める方に、の悪い掛けですがいたかたありませんでした。


 美空さんが私のほうを向いて言いました。

「左を蹴散けちらしてきますので、右をお願いします」と言われたのでした。

 私は、それにうなずくと、紅葉さんの背に手を当てて言います。

「紅葉さん、ここはまかせた、右を蹴散らしてくる」と言ったのでした。


 そして私と美空さんが、同時に左右に別れて、敵集団の中に突っ込んで行きました。

 紅葉さんは「任された!」と叫び彼ら八名の集団と妖魔の間に立ち塞がったのでした。

 紅葉さんは気合を入れて、叫んだのです。

「かかってこいや! ここから先はADSecurityアドバンスドセキュリティーの名にけて通さねえ!!」と叫ばれたのでした。


 それが、私たち二人の戦闘開始の合図になりました。

 紅葉さんの左手側で、怒雷と思われる虎の吠え声が響き渡ってきました。

 私も不動明王火界呪の範囲を通常の五倍近くまで広げ放ちます。

 周辺の立木の一部が火炎に巻き込まれましたが、ここは何者かの創った結界の中です、外に影響が出るとは考えにくかったのでこの術にしたのでした。


 今の一撃で敵の妖魔が、全てこちらを向いたようでした。

 私たちをほっておくと、被害が多大に出るぞ! という含みを持たせて放った術ではあるのです。


 ただこちらを向かず、紅葉さんのほうにも妖魔が二匹ほど向かった様でした。

 但し、紅葉さんはTVクルーには近づけないように、拳で牽制けんせいして相手をしているようでした。


 こちらは一斬りで確実に妖魔をほふれる、光の剣オーラブレイドに切り替えて敵を確実にぎ払っていきます。


 美空さんのほうでも、二発目、三発目の怒雷が、響いています。

 一撃目よりは威力が下がっていました。

 一撃目は多分私と同様に範囲を拡大したと思われたのでした。


 確実に左側のほうは範囲術式であるため妖魔の数が、目に見えて減っていました。最初の三割も残っているかどうかと言ったところでした。


 右側は、まだ半数ほど妖魔が残っていました。

 一振り一殺で確実に数は減らしていますが、多勢に無勢ではありました。

 もう一度、不動明王火界呪を使うことにします。

 疲れたフリをすると、妖魔は一瞬でってきました。

 そこに、「不動明王火界呪!!!」と今までで、最大範囲の術式を唱えます。

 寄ってきたのが運のき、確実に妖魔の息の根を広範囲術式で焼き尽くします。

 とても大きい火柱が、立ちのぼったのです。

 直後、私の周囲に群れていた小さな妖魔は一瞬で消し飛びました。

 大きい妖魔も、体力があまり残っていないようでした。

 そういう私も精神力が限界に近づいていましたが、気力をコントロールし気合いで精神力を引っ張り上げます。


 美空さんのほうでも神鳴の術を派手に使った様でした。


 残っているのは、大きな妖魔だけになっていました。

 こちらに三体、美空さんのほうに三体います。

 残りは紅葉さんのほうに行っている、二体だけでした。


 そのうち一体を、光の剣で斬り倒します。

 美空さんも弱ってきている、大きい妖魔を御神刀で斬り倒したようでした。


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