第0-30話 身辺警護:ことの終わりはことの始まり

━━━━━《由良ゆら視点》━━━━━


 明らかなのは二つ、この目の前の赤髪の女性は敵ではないということだけでした。


 装備面から言って、退魔士や祓魔士には見えないといったところでした。


 しかし、ただの人にも見えないのでした。


 戦闘に素養がある事は見れば分かります。


 背後からでも分かるくらい鍛え上げられた肉体を持ち、半魔や魔物が相手と知っても怯えるどころか向かっていく見事な精神力の持ち主です。


 しかし武器がただの三節棍では半魔には効かないのではないかと思われたのでした。


 半魔の薄笑いも取れてはいません、明らかに相手を見下しているようでした。


 しかし、ここからまさかの逆転状態になるとは私も思わなかったわけです。


「はあっ、せいやっ」という、掛け声とともに半魔に打ち掛かりました。


 半魔は避ける気すら無い様で、大欠伸あくびまでしています。



“ブゲッ!”



 半魔の左ほお辺りに、クリーンヒットした三節棍が半魔の顔に明らかなあざ穿うがちました。


 半分火傷やけどのような傷を半魔の頬に作ったのです。ただの三節棍ではないようでした、聖別化か銀でなければ、あんな傷が半魔にできるはずは無いからです。


 一瞬、目の前の人物は祓魔士エクソシストではないか、と疑いましたがそれでも無いようでした。


貴様何者きさまなにもの!!」と半魔が左頬を押えながら二発目を交わそうと体を反らしますが、直前で三節棍が伸び右頬側にクリーンヒットしました。そして左側と同様大きな大きな痣を右側にもきざみます。



「このっ」と半魔がいいながら自分の間合まあいにしようと自棄やけになりながら接近しようと試みますが、三節棍が飛んできてそれを邪魔するのです。


 そのたびに半魔がその場所から避け、半魔の間合にならないのでした。


 しかし、直撃すると火傷を負わせられる程の威力のあるものと言えば、あとは銀くらいしか思い浮かびませんでした。


 私は、特に動いてなく五鈷鈴を構えて白兵戦に備えていただけなのです。


 しかし美空さんはこれをチャンスととらえ、いつの間にか私の後ろで御神器を出すと昨日の怒雷の準備を着々と進めておられたのでした。



 そしてその次の瞬間、私の後ろで虎の吠え声が大きく鳴り響いたのです。


 三節棍を回避中の半魔も、これは予想外だったようで怒雷をモロぐらいしたあとで、さらに三節棍を後頭部にもらうという大ダメージを受けたのでした。


 そして半魔があとずさります。多勢たぜい無勢ぶぜいと考えて引くようでした。


 ですが、それを許すような私たちではありませんでした。


 引こうとしたその瞬間二発目の怒雷が飛びました。


 怒雷と言うのは範囲二十メートル以内の魔性の者に効果のある術だと昨日教わったばかりです。


 いつの間にか半魔たちの気配が消えていました。


 私もさっきの間に術を用意していました。


 その直後を狙って三節棍と私の術が炸裂さくれつしたのです。


 三節棍が当たった瞬間に狙いをしぼってはなった術は、不動明王火界呪ふどうみょうおうかかいじゅでした。


 石に潜ろうとしたその瞬間、石そのものが燃え上がり周囲ごと燃しました。



“ぐぎゃぁぁぁぁぁ!!”



 といって、半魔が炎の中にたおしました。


 炎が持続するように、仕掛けたので長いことといっても五秒位ですが半魔を炎が蹂躙じゅうりんし焼きくしたのでした。


 さすがの半魔も焼き尽くされては、コアごと灰になったようでした。


 そこに、学校側からの通報と、私のレッドシグナルを受けた班長以下三名と検非違使のバン二台が到着したのでした。


「ありがとうございます。助かりました」と私が握手を求めます。


「二人とも強いんだな、あたしも相当とは思っていたんだが、その上前うわまえねるとは」というと、私の握手を断らずに受けていただけました。


「私は温羅うら香織かおり」と握手をしながらいったのでした。


「あたしは高木たかぎ紅葉もみじだ、またどこかの現場で合うこともあるだろう、じゃあな」といわれ三節棍を器用に手早くしまうとサイドカーの中に入れ颯爽さっそうと去っていったのでした。


「今のは? 誰だ?」と斯波しば班長が聞きました。


 名前しかうかがっていないむねを話し、彼女に助けられたという経緯いきさつを話しました。


「すごい度胸のやつだな、半魔や魔物と知っても立ち向かうなんて」と長良ながらさんが、めていました。


「で半魔は? この消し炭がそうか? ならば解析班頼む、収集してくれ」と斯波班長が解析班に採取と収集を依頼しました。


「半魔からでも、その血肉を食ったものが半魔や魔物になった例があるんでな。ということですべて回収。灰の一溢ひとこぼしもなしで頼む」と斯波班長が指示を出しました。


「由良さん、それに美空さん、二人とも顔色が悪いぞ。学校から、まだついていないと報告があったときは何かあったとヤキモキしたんだが。今日は体調不良ということで休んではどうだ、その顔色で学校に行ったら、皆に心配されるぞ」と斯波班長からいわれてしまったのでした。


「特に温羅さんだが、身辺警護を一か月半だけ持続させる話がある。終業式や卒業式まで完全警護を解かずに行くのが、無難ではないのかという話が上層部から出たんだ。こちらとしては一人欠員の状態で職務を続けるというのもなんだ」と更に話が飛躍ひやくします。


「ただ上層部、こと近衛このえから言われたのであれば検非違使けびいしとしては命令として聞くしかないのでな。それにまだ多数の気配が有るという報告ほうこくもあるから気は抜くなよ。それと高木紅葉さんだったか、少し調査の必要があるな」と斯波班長が、長くしゃべられたのでした。


「今日は欠席者になりますか? 美空さん、結構顔色がよろしくないですよ」と私はいいました。


「そう言う香織さんも、顔色があまりよろしく無い様ですね」と美空さんから返されたので。


「欠席する旨を学校側に伝えるのは私からでいいのでしょうか?」と問うことにしました。


 すると、「二人でかけてはどうでしょう」と、佐須雅さんが出て来ていました。


 そして二人してそれぞれ学校に順番をずらしてかけたのでした。


 登校途中に、気分が悪くなったという二人同じ設定でした。


 半魔から漂っていた、瘴気しょうきを軽く吸ってしまったせいでしょうということにします。


 欠席者になる件は、そちらのほうで片付きました。



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