第0-24話 身辺警護:香織、モデルに……

━━━━━《由良ゆら視点》━━━━━


 そしてお昼の後ファッションショーが、始まったのでした。


 モデルは私こと温羅うら香織かおり、採点者は美空さんや加奈子さんたちでした。


 白めの服装より、黒や紺色・深緑色といった色の受けが良いようでした。


 デザインもゴシックなレースがあしらわれているタイプの、ワンピースやドレスのほうが受けはよかったのでした。


 それだけだとつまらないので攻めた格好もしてみたわけですが、あまり普段使う格好は着用するわけにはいかず結構苦しい選択を強いられたりしたのでした。


「パンクルックは似合いませんねー」と、加奈子さんにいわれてしまいました。


「肌は少し見えるくらいのほうが、良いと思いますよ」と茜さんも続けていわれたのでした。


「冬場ですから、暖かそうなのがいいとは思うのですが?」と静香さんにもいわれてしまいました。


「うーん、難しいな――」と私は受けに回ります。


「一着くらいは、動きやすさを重視した服を持ってたほうが良さそうだし」と続けていったわけです。


「二着は決まりましたし、お店変えましょうか?」という加奈子さんの提案があったので、お店を変えることにしました。


 その二着は、濃紺ネイビー濃緑ビリジアン色のビンテージスタイルのゴシックドレスでした。


 二着で七千円くらいだったので、つい手が伸びたともいいます。


 濃緑色の側は、中世ゴシック調レトロ花柄で可愛かったともいいます。


 濃紺色の側も、同じくビンテージスタイルのマキシたけゴシックドレスだったのです。


 もう一店舗は少々お高めでした。


 それもそのはず、二〇三四年の秋冬物のプレタポルテ・コレクション品を集めたお店だったのでした。


 でもデザインはどれも素敵で、目を奪われてしまうものがありました。


「今は冬場ですし、少し覗いて行きましょう」と私から誘ったのでした。


 中でも、目を引き付けられたものがありました。


 エンパイアラインのドレスなのですが、素材がシルクシフォンと思われ色地は淡目ですが紫色をしており、とても綺麗で優美なのでした。


 ですが、値段が飛び出ていました。


 中学生をよそおっているので、価格が十万円に乗るドレスはそうそう買えたものではないのです。


「良い目をお持ちですね。アレを選ばれるとは」と店員さんが、いつの間にかそばまで来ておられました。


「とても高くて買えはしませんが、見ておこうと思いまして」と受け答えします。


 由良ゆらで来てたら即買いなのになあ、と少し残念そうな顔をしました。


「季節ものですから、お安くできますがいかがなさいますか?」と聞かれたのです。


 渡りに船とはこのことですが、問題は下がったとしていくらになるのかでした。


「おいくらくらいまで下げられますか? 中学生ですが、多少はあります」と聞いてみたのでした。


「そうですね大値引きと考えて、五万円までなら下げられますよ」といわれたのでした。


 予測通りの展開でした、いつもの私ならここで買ってしまっています。


 ですが今は、中学生の温羅香織なのです。


 八十パーセント引きくらいなら何とかなったのでしょうが、それは無理というものです。


 それでも、一縷いちるの望みをかけることにしました。


「もう一声いけませんか?」と言ったのでした。


「もう一声ですか? そうですね。少々お待ちください」と、店員さんが奥に入って行きました。


 待ってる間はみんなは、まだ他の物に目を奪われている状態で、こちらの交渉事には気が付いていないようでした。


 こちらは、心臓バクバクものですがえて平静へいせいよそいます。


 それからしばらくちました。


 加奈子さんが、私が動きを止めているのに気が付かれたようでした。


「何かありましたか? お体の具合でも悪いのですか?」と心配してくださいました。


「いいえ、体の調子が悪いのではありません。交渉中なのです」と正直に話します。


「何か良いものでもありましたか?」と、聞かれてしまいます。


「とても良いものがあったのです。ただ、値段がかなりするので、今交渉してみたところなのです。そして今、店員さんを待っているところなのです」と答えを返します。


 先程の女性店員さんと白髪の老紳士がやってきました。


 多分、店長さんなのでしょう。


「こちらのお客様と、値引き交渉をしているところでした。店長いかが致しましょうか? 私としましてはここまでは下げても良いと思うのですが?」と店員さんが、店長と呼んだ人に電卓の数字を見せているところでした。


 すると「わたくしはこの店の店長しております。尾田おだ成正なりまさと申します。お客様、私は一〇パーセントまで引き下げてもいいかと思っております。少し条件がございまして、その条件ものんでいただけるならさらに五パーセント割引いたしましょう」といったのでした。


「その条件とは何でしょうか?」と、聞き返すことになりました。


「実は本日ドレスの写真を撮る為に、モデルさんを頼んでおいたのです。そのモデルさんが体調を崩されまして、来れなくなってしまったのです」といわれたのでした。


「わが社としては、今日中にホームページにアップさせる、ドレスの写真を撮らなければなりません。そのモデルさんの代わりに、お美しい貴方が代役をしていただけるということでしたら、定価の五パーセントにてお売りいたします」とまでいわれたのでした。


誠不躾まことぶしつけな申し出ですので、お断りになられても仕方がないと思っております。いかがでしょうか?」と店長さんは目を伏せながらいわれたのでした。


 これはモデルデビューのチャンスかはたまた、何かの罠なのかと思案していました。


 すると加奈子さんが「これはチャンスかもしれませんわ、でも校則ではアルバイトは禁じられていますよね。どうしましょうか?」といわれたのでした。


「顔を写さないという条件では、のんでいただけないでしょうか? もしくは小道具を使って、顔をかくすということでも結構です。我々としては少々残念ではありますが、スタイリストさんや他の方はそろっているのです。どうか、お願いできないでしょうか?」と最後の方はお願いになっていました。


 余程重要な案件なのでしょう。


 それは痛いくらいに伝わりました。



「分りました、顔を小道具などで隠し写すということであれば学校側も迂闊うかつには突っ込んでこないでしょう。お引き受けいたします」といったのでした。


 それになんとなったとしても、こちらには最後の手段があります。


「ではこちらへどうぞ、この度は引き受けていただきまして、本当にありがとうございます」といわれたのでした。



第0-25話へ

--------------------《対応データ》--------------------

※この作品はフィクションです実在の人物や団体、

 ブランドなどとは関係ありません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る