第0-20話 身辺警護:呪殺事件

━━━━━《由良ゆら視点》━━━━━


 終わりは、続きへ向かうものです。


 身辺警護に始まる一連の騒動は、終わりかけていると思えました。


 ただ、この呪物の山は放置できない問題でした。


 明らかに学内で、呪殺人事件が起きそうになっていたことの表れなのでした。


 放置するわけにもいきませんが私には思い当たることが、少なすぎて手に追えないという判断をしました。


 身辺警護で無くて、潜入捜査とかに、任務が切り替わるのかしら?


 とも思うくらいです。


 それだけのインパクトは持っていました。


 呪物から指紋が採取できないか、お祓いが終ったあとで確認を入れて見てもらうようにお願いしました。


 放置はできないからでした。


「学内で捕り物と言うのもよくありませんが、これは明らかな殺人です」と告げました。


「呪殺を試みた者にはそれ相応のばつが無ければ、また呪殺を試みるでしょう」と続けておきます。


 これは事実なのです。


 一度味を占めたものが二度目も同じ手を繰り返すのは常套じょうとう手段なのでした。


 検視の機会を終え、教室から美空さんと一緒に外に出ると牧村さんが待っていました。


 結構長かったのでした。


 部活の終る時間も、少し過ぎていたようでした。


「こんな遅くまで待っててくださるなんて、よほど親友の美空さんのことが大切なんですね」とこちらから声をかけたのでした。


 そうではなく、藍姫あいひめさんのことで一つ忘れていた話があるということでした。


 どんなことか聞くことにしました。


 以前、学内を占めようとする集団とやりあったことがある。


 喧嘩けんかにまで発展しそうになった。とのことでした。


 私にも覚えがありました。


 今朝、転がした連中のことです。


 ひょっとして明日辺りに呪物が入ってたら、その連中しか心当たりがないことになります。


 その時、不意に廊下の隅で物影が動きました。


 霊や悪霊の類ではありません。


 逃がせないけど走れない一瞬そんな葛藤かっとうがありましたが、瞬間だけなら走れるはずです。


 即回り込んで階段をふさぐことにしました。


 美空さんには牧村さんのカバーに入ってもらって、私が回り込んだのです。


 案の定そこには今朝方一番最初にした、名前も知らないやつがいました。


「何をしているのかしら?」と私が、階段を塞ぎながら上がっていきます。


「ひっ!」といってそいつは、後ずさりました。


 後ろに美空さんが現れます。


 私と美空さんに、挟まれ動けなくなったのでした。


 何か左手に小さなものを持っていました。


「呪物ね、それ、人を呪わば穴二つって、いう言葉があるでしょう。まさに今のあなたがそれ。誰に頼まれたか、洗いざらい薄情はくじょうなさい。しかも二つか、片方が藍姫さんで、もう一つが私の分ね。もうバレているのよ。指紋が呪物から出ているわ、まだ警察の人もいるしその指紋と貴方の指紋を比較すれば一撃よ」とまだ鑑定にかかってはいないけども大体線の読めたことを話してみました。


「そうよ! あたしよ!」と開き直ったのでした。廊下側では先生たちがことの成り行きを聞いていたのでした。


「遊びでは無い本物の呪物を創ったのは誰? その呪物のせいで一人死にかけてるのよ!」と言うことにします。


「アンタなんか、アイツなんか死ねばいいのよ!」と開き直りもここまで来たら立派なものです。


 見過ごすわけには、まいりませんでした。


「それはあなたが創ったの? それとも誰かにもらったの? それによって罪の程度は、若干変わるけれども。貴方のしていることは、間違いなく犯罪よ」と静かにいったのでした。


「あたしだって、呪い屋の娘なんだから、できて当然よ!」といい切ったのでした。


呪殺じゅさつ法違反の罪であなたを告訴こくそします」とはっきりいったのでした。


 そこに追加します。「まあもっとも、私に呪詛なんか打ったら、あなたが代わりに死ぬけれどもね。守護霊さんがとても強いから」と誤魔化ごまかしておきます。


「今の語りでも、高校進学は取り消されるでしょうね。それだけのことをあなたはしてきたのよ」ということにします。


「どこにそんな証拠があるってのよ、指紋なんて出るわけないじゃない白手袋までしてるのに」といったのでした。


「今のあなたの発言が、動かぬ証拠よ。言質げんちって知ってる?」といいながらマイクロボイスレコーダーを胸元から出したのでした。RECに赤ランプが灯っているそれを見せつけます。


 そして、速攻胸元に隠し直します。相手の手が伸びて来たからでした。


「渡すわけないじゃない? 世界全ては自分のモノだってあなたは言っているのと同じなのよ? それにね。先生方、彼女を一時拘束してください、改善の余地はありません。さっきからの発言を聞く限りでは、私と藍姫さんを殺したいらしいですから。立派に、殺人未遂です。現行犯逮捕ができます。校内で事件を起こしたくない、という気持ちは分かりますが、もう事件は一カ月前から起きています。藍姫さんの流行り病は、彼女の呪いに依るモノです。捜査員さんお願いします」ということにしました。


 廊下の方から、女性警官が三人出てきました。私は逃げられないように数段下がりました。美空さんも数段上がり包囲網を敷きました。


 超常現象捜査及び超常現象犯人の逮捕権も、検非違使は持っているのです。


 その代行で、普通の捜査官が、逮捕にあたることも間々ままあります。


 まれな例ですが検非違使の人間が、他の重要な任務を持っている時などがそうです。


 今回はこの特例にあたるのでした。


 先生たちも出てきました。三上みかみ教頭先生と風紀委員統括の風谷かぜや先生です。


 私はなんともいえない顔をするしかありませんでした。


 こういうときが、やりきれないのです。


 胸元からマイクロボイスレコーダーを取り出すとメモリーを抜き、証拠として女性警察官に渡しました。


 鑑識さんが来て証拠品の呪物二つを押収します。こちらに一礼すると階段を下りて行きました。


 続いて証拠の言質の入ったメモリを持った警官、女性警察官に両脇から抱えられるようにその子が降りて行きました。


 その後を捜査員さんが歩いて行きます。


 残されたのは、私と美空さんと牧村さんと先生たちでした。


 教室まで行ってリュックを取ると、私の分と美空さんの分を持って出てきました。


 そして美空さんにリュックを渡します。


「遅いから送ってもらいましょう」と私がようやく言葉を出せました。


 そして「先生方、申し訳ありませんでした」と私が一礼をしました。


 すると風紀の風谷先生が言いました「薄々は気づいて、いたんだが口を挟めなかった我々の責任もある。一人で背負い込まないでくれ」といわれたのでした。


「三上先生には報告を挙げていたんだが」といったのでした。


「私の方が甘すぎたみたいね、次はもっと気を付けないと、ダメかもしれないわね。一人が救えたかどうか分からないけれども」といわれたのです。


「まずは兄に迎えに来てもらいます」というと長良さんに電話をかけることにしました。


「えらく遅いが何かあったのか? まさか倒れたんじゃないだろうな?」と電話口から音が漏れます。


「ううん。それ以外で遅くなったの。お迎えに来てもらってもいい? 一人送って欲しい子がいるのだけど」といいます。


「分った直ぐに行く、無理だけはしないでくれよ。何かあったら両親に顔向けができない」という言葉が音漏れしました。


「朝迎えに使った奴で行くので、今佐須雅が居ないからサードシートが開いている、そこに座ってもらえるかな」といって、電話が切れたのでした。


「兄が迎えに来ます。一緒に行きましょう」と美空さんと牧村さんに手を差し伸べました。


 そして先生たちに一礼すると、階段を下りて行きました。


 正門まで十五分くらいかかりましたが、黒いバンが待っていました。


 すでに補助門からでしたが出ることはできました。


「ここまで暗いのは久しぶりですね」と牧村さんがいいました。


「ごめんね、まきこんじゃって」と私が髪の捻じれたのを直しながら、いいました。


「あれは仕方ないと思います。私がその立ち位置に居ても同じことをしたと思います」と牧村さんがいってくれました。


「大丈夫だったのか?」と温羅義之うらよしゆきが出て来ていました。


 後ろから風紀委員統括の風谷先生が来ていました。


「はじめまして、風紀委員統括の風谷です」とお兄ちゃんに握手を求めました。


「こちらこそ初めまして、温羅義之です。ウチの妹がいろいろご迷惑かけて無いかと心配で」といったのです。


 足こそ踏まなかったものの、少しふくれっ面にはなりました。


「妹さんには助けられてばかりで、今日も遅くまで付き合わせてしまいまして申し訳ない」と先生に一礼される長良さんでした。


「先生、お顔をお上げになってください、ウチのヤンチャ娘がご迷惑かけて無いか心配で」といいます。


「そちらの方は?」といわれたので、「友人の折神です」とさらりとかわしたのでした。


「方向が一緒なので帰り道に乗せて行っているんです」ともかわします。


 普通の子がいる前でミスはしない長良さんでした。


「では、これにて失礼いたします。」といって私たちが乗り込んだのを確認すると、先生に一礼しました。


 私の位置は変わらないのですが、サードシートに美空さんが座って、牧村さんが、セカンドシートの左側に座る配置となったのでした。


「降りる順は、牧村加奈子まきむらかなこちゃんが最初で、次が私たちということでよろしく」ということにしたのでした。


 距離的にもそうなります。


 加奈子ちゃんのお家の前まではわずか十分でした。「結構近いんだね」と長良さんがいいました。


「では、また明日ー」といって牧村さんは、車が消えるまで手を振ってくれていました。


「実質何で遅くなったんだ?」という話になりました。


「学校で呪物犯罪があったのよ」と説明しました。


 本当の話ですから仕方がありません。


「でそれを、解き明かしたから遅くなったの」といったのです。


「加点一か」というので「まぁそれに近いことはしたわね、警察の人が居たから、代行でしてもらったけど、半魔の話から出て来たのよ。本当に瓢箪ひょうたんからこまね」ということにしました。


「まさか学内で、あれほど積み重ねた、呪物が出て来るとは、思わなかったわ」といいました。


「多分、今空いてる。祓魔班ふつまはんが、するんじゃないかしら?」ということにしたのでした。


「で実質あと何匹くらい残っているの? 今日の半魔は別口と考えてもいいけれども……」といいます。


「多くて十数匹くらいだが、今日半分は散らしたから、残り六匹未満かな?」と長良さんが運転しながらいいました。


「そんなに残っているのか。中々しんどそうな数じゃないかしら、今日みたいに集団になって無いのでしょう?」ということにします。


「どこかに潜んでくれてたら一網打尽に出来るんだけどなぁ」と追加でいったのでした。


「半魔ホイホイじゃあるまいし、が無いよ」といわれたのでした。


「ということは身辺警護は、まだ当分続くのね。中学は嫌いじゃないけれども」と髪を弄りながら言いました。


「そうなるな、当面美空嬢のガードよろしく」と暗闇の中運転する長良さんに、いわれたのでした。


「今日はえらく遅かったの」と家の門の前で待っていた沙羅御婆様さらおばあさまがいわれました。


「ごめんなさい。私の方の揉め事というか、そういうのに巻き込んでしまったみたいで。私と、もう一人を、呪殺しようとしていたやからがいたのです」と正直に話すことにしました。


「呪殺とはなんとおろかなことを」と少しなげいた沙羅御婆様がいました。


「綾香さんが風呂を新しいものに、交換してくれる手配を直ぐしてくれたから、今日は新しい湯船につかっておいで」と美空嬢を先に風呂に行かせたのでした。


「そなたは無事じゃったのか?」と御婆様に心配されたので、答えることにしました。


「私には呪殺は効きません。むしろかけられる前に止められてよかった。私に呪殺をかけると必ず返りますので呪殺をしたものが亡くなるのです。呪殺の大小にかかわらず」といいました。


 御婆様と一緒に玄関まで歩き、そして続けます。「まだ身辺警護は続きます、バックアップよろしくお願いいたします」と一礼しながらいいました。


 ご家族のバックアップが無いと難しいのが、身辺警護なのです。


 玄関から上がると「沙羅御婆様が言いました。そなたからは強い神気を感じる」といわれたのです。


 宗教や宗派は違えど、分る人には分かってしまうみたいです。


「身辺警護そのものは、終結に近づいていますが、まだ小物ザコが泳いでいます。なので完全終息と行くには、まだ少し早いようです」と食卓で座を組みながらお答えしたのでした。


「大本の視線は収束しているとは思うのですが、まだ半魔がその辺りをさまよっています。その数はおよそ六前後だそうで、検非違使でも全数把握はあくにはいたっていません。こういうことは申し上げにくいのですが、収束するまでにあと一週間と少しは、かかってしまうでしょう。それにその全てが、美空さんを狙っているとは限りません。ですが完全にクリアされるまで、必ず御守りとおしますので、今しばらくお待ちください」と頭を下げる事にしたのでした。


「美空は、今までとしの離れた姉妹や兄弟がいなかった。そのことに関してはイキイキしてきているようでとてもありがたいことじゃ。美空が検非違使に入ることになると、一番歳の近い先輩ということにもなるのじゃろう。その面からしてもこたびのことは、良い機会になるとは思ったものじゃ。何も知らぬところへ入れると、あの子は憶病になってしまうからのう、少しでも触れ合える機会になればと思うておった処へ、こたびの件じゃ悪いことではあるが、これから行くところの先輩に会えて、良かったと思っておる次第じゃ。これからも美空をお願いしたい」と逆に頭を下げられたのでした。


「お顔をお上げください。私も完璧ではありませんし、そこまで面倒が見れる立ち位置に居られるかどうか、定かではありませんが、後輩ができるのです。できる限りその様な位置に居たいと思います」というのが、精一杯せいいっぱいでした。


「そなたからよい報告も聞けて嬉しい事じゃわい。風呂につかってくるとえぇ」といわれたのでした。


「ありがとうございます」と一礼すると、風呂の支度をしに行き、美空さんが上がってきてない事を確認する、とまあいいかと思って支度をして、一緒に入りに行ったのでした。


 美空さんは長風呂なのです。


 普通に入っている私よりも長いので、一風呂当たり短くて、三十分といったところでしょうか。


 さっきの話で二十分ほどは経過しましたが、まだ風呂につかっている時間だと言えたのです。


 家の中でも、五鈷鈴だけはそのままでした。


 風呂場にも持っていきます。


 折角新しくなったようですから傷つけることはしたくないのですが、そこは状況によりました。


 一応風呂場の気配は自然なようでした。


 特に何事もなかったようです。


 家の中とて、安心はできない訳ですから。


 その辺はどこでも実戦状態だった、といっても過言では無かったでしょう。


 服を脱ぎ一旦畳むと下着も外して下着は洗濯籠の中に入れさせてもらっています。


 この家のハウスキーパー上諸かみむろさんに言わせると、『洗濯物はそのままでもいいですからね、一緒に洗いますので』とのことでしたから、その辺りは楽でした。


「美空さん、お風呂に入りますよー」といって私も風呂場の中に入ります。


 風呂場の浴槽の中につかっている状態だったようで、髪はまとめて巻いてありました。


 トリートメント中のようでした。



 まずはクレンジングから行います。


 そうして化粧を落として、洗顔をし素肌に戻します。


 そして髪を洗いにかかります。


 私も髪は女の命とも言う様に、しっかり洗ってシャンプーで汚れを落とし、トリートメントで整え髪に吸収させ、コンディショナーで仕上げをしすすぎ流すのです。


 そこまですることによって、この綺麗な銀髪が保たれているといっても、過言ではありませんでした。


 トリートメント後に少し間をおくため、髪を巻き上げてホットタオルで巻き止めしてやることで、トリートメントが髪に行き渡るのでした。


 その間に体にシャワーをかけ埃などを流してから、そのままの状態でお風呂に入るのです。


 美空さんもその状態にあるようでした。


 が半分とろけておいででした。


 お風呂で少し間を置いた後、汗で体がにじむくらい体があったまってきたら目安です。


「美空さん、ふやけちゃいますよ」といって一緒に洗い場に上がり二人して


 その後に改めて髪にコンディショナーを使い、髪だけに行きわたらせて馴染なじませます。


 この時注意しなければならないのは、コンディショナーを髪以外に付けないという事位でしょうか。


 そうしてから、髪をすすぎコンディショナーの残りなどを流し落すのです。


 そしてさらに乾いた吸湿性の良いタオルで髪を巻き巻きします。


 それが終わったらボディーソープで白磁のような身体を洗い、一日の汚れを落とすという作業が待っています。


 基本的にボディーソープの泡で洗い、ゴシゴシこすらないようにするのです。


 その後も肌のきめを細かくととのえるための最新式の肌用コンディショナーを使って、肌のキメを整えます。


 この一通りの作業が済むのに十五分ほどかかるのでした。


 それが済んでようやく浴槽にゆっくりとつかることができる訳でした。


 美空さんも似た作業を通るのでしょう、過程は同じような気がします。


 美空さんの方を見るとすでに浴槽の中でとろけて半分ほど寝かけている感じでした、流石にほうっておくとずぶずぶと沈みそうだったので声はかけておきます。


 前の浴槽と違い、私たち二人で入ってもまだもう一人は入れそうな広さの浴槽でしたから、なおさらです。


「美空さん前の浴槽と違うので、その体勢だと沈んじゃいますよ」といっておきます。


 ようやくこちらに気が付いたみたいで「香織さん、こーやってるとどんどんとろけて来るのです」というと、そしてそのまま抱き着いてこられました。しっかりと、抱き止めます。


「やはりお姉さんができたら、こんな感じなのでしょうか? とても柔らかいです」と言われたので、「そうでしょうね、こんな感じですよきっと」私も一人っ子ではありましたのでそういう感覚を抱いたことは余り無いのです。


 多分歳の少し離れた妹ができたら、こんな感じだろうと思った訳ではあります。


 そしていったん出て洗い場で洗顔をするのです。


 たっぷりの泡で洗うのです。


 そんな感じで風呂の時間は過ぎていき、そろそろ出ないと夕食に触りますよということにしました。


 すでに風呂場に設置された時計は午後十時半を指していたのです。


 お夕食が出るか怪しい時間でした。


 一緒に風呂場から上がり、お互いに届かないところを拭きあいました。


 そしてスキンケアです。


 まずは導入液ブースターを使用し肌を柔らかくして水分を吸収する力を増すことで化粧水の浸透するよくする効果があるのです。


 手にたっぷりの化粧水を付け、肌に入れ込むようにらずに行うのがポイントです。


 そのあと美容液を使うのです。


 さらに乳液でカバーします。


 この時、乳液を付けすぎないことも重要だったりします。


 そして、着替えに入りました。


 部屋着に着替えて、と言っても私の場合、色気も何もないトレーナー上下ですが。


 自宅にいるわけでは無いので、いつもの格好は出来ないのです。


 いつもならもう少しラフな格好になるわけです。


 二人して着替え終わって、食卓に向かうと上諸さんが待っておりました。


「もう少し早い方がいいのですけれども、今日は仕方ないですね。お夕食はお二人分残っていますので、温めておきました」と優しくいってくれたのです。


「ありがとうございます」と二人でいうと。


「本当の姉妹みたいですね、そうして並んでいると」と言われてしまいました。


「この夢のような期間がもう少し続けばいいと、思っている私は不謹慎ふきんしんなのでしょうか」と美空さんが、誰に聞くわけでもなくぽつりといわれました。


「それは仕方がないことじゃ。夢のような期間でもしっかりと味わうがええのじゃ」と沙羅御婆様がいわれたのでした。


「はい」と美空さんが前を向いてしっかりとこたえました。



 今日が木曜日でしたから週末までわずかでした。警護対象に合わせるのが身辺警護の極意ですから、終末遊びに行きたいといったら可能な限り付いて行くつもりでした。


 金曜日は特に何事もなく過ぎたのでした。


 拍子抜ひょうしぬけするくらいあっさりと、何事もなかったのです。


 不良に絡まれることもなく半魔が襲って来る事もなく、検非違使側でも特に半魔出現の報告等も無く授業のほうもそんな素振りも気配もなく。


 検非違使側では八課二班が祓魔の対応をすることになったくらいで、土曜日にお祓いをするようでした。


 順調に回復されれば月曜日から藍姫さんが、復活されるというくらいの情報でした。



 迎えた土曜日、あいにくの雨模様でしたが、牧村さんとお友達数名が見えることになったので荷物を少し隠さなければならなくなりました。


 今日だけということで第一の客間の方に荷物を移し、そちらに居るということになったのでした。


 流石に病人やっているわけですから、寝ておいたほうが無難でしょう。


 そういう上諸さんと御婆様の意見により、半分寝て半分起きていることにしたのです。


 ご意見は最もなのですが、家の中でもこの前の件がありますしいつ何が起こっても寝ていたのでは対処できないからといって、起きていることにしたのでした。


 五鈷鈴は常備して置きます。


 丁度寝ているところに、美空さんと牧村さんとお友達数名が見えたのでした。


「寝ているところでしたか」というので、「起きていますよ」と穏やかにいうことにしました。


 中学でいまはクラスが違うけれども皆親友とのことでした。


 私は親友と呼べるような友達は、美空さんだけだという話をしたのでした。


 歳の近い子も周囲にはいなかったし、病気のせいで病院暮らしが長かったから、ということにしました。


 転院が続いたので、荷物は少なめなのと、いうことにしておきます。



 そのまま客間で上体を起こし皆と会話します。


 具体的な話になると生まれつき心臓が弱いという話にしておきます。


 多分治るところを探して全国か海外を旅することになるであろうことも。


 今までは東京にいたけれども今の病院の先生が優秀な方で神戸に来てからは少し長いのという話をしておきます。


 それにその先生のおかげで、みんなと会うことができるようになったのという、話も混ぜ込んで置きます。



 土曜日が回診の時間だから、そろそろ先生が来るという話をして寝るフリをします。


 本日は急遽、副課長が来られるという話があり実際に家の周りに西洋魔法系ですが簡易結界を張ってから来られるということでした。


 ドクターズバッグを持ち、男性と女性の看護士さん二人を連れていらっしゃったのです。


 実質医者としても活動できる、知識と資格を持っておられますので、魔物対応の医者としても市民病院に登録はされているのでした。


 ですのでお医者様が来るということには問題が無かったわけです。


 看護士さんは副課長の事情を知っておられるかたで固められており、そちらのほうの方も所属は普段は市民病院になっているのです。


 そして回診の時間がやってきました。第一の客間に副課長と男性と女性の看護士さんが入って来られました。


「調子はどうかな?」と人の耳目があるので質問は大人しめですが書類を渡されました。


 半魔で残りの構成員と思われるもののリストでした。「今のところは順調に動けています」と答えることにしました。


 二つの意味を含みますが表向き普通の会話になる様に隠語いんごを仕組んであるのです。


 脈拍や血圧を測りながらその手の会話をしていきます。


「昨日は大変だったようだね」と一応リストを一通り記憶すると、返しながら「少し大変でした」ということにしました。


 リストには七名の顔写真と半魔のタイプが書いてありました。全員コア有りのようでした。


 コア有りということはどこかで改造手術か魔物から直接を受け取って、食べて半魔化したということになりませんでした。


 そうでなければ倒した後、身体が残るはずなのです。


「明日は晴れるようだから、少し気持ちを伸ばしてくるといい」と副課長がいわれました。


「その代わり対応はしっかりとね」といわれたのでした。



 突然障子が開きました。


「先生、香織さんの病は直るのですか?」と牧村さんが正座して聞きました。


「私の腕では抑えるのが精一杯でね、完治の難しい病気なんだよ。京都でなら、治せるお医者が居るかも知れない。そういうことに特化された名医がいると聞く。だが待ち順が長くてね、それで近くの神戸で療養りょうようしているんだよ」とさとすように、まるでこうなることを予測していたように答えたのでした。


「折角だからみんなで明日、どこか観光に行ってきたらどうだい。それくらいになら耐えられるだろう」と追加でおっしゃいました。


「突然失礼いたしました」と牧村さんが正座のまま一礼したのでした。


「いいんだよ、良い友達にもめぐまれているようだ。よかったのかもな、神戸によったことが」と加藤先生がおっしゃいました。



「明日は晴れるようだよ。少し遠くまで行っても大丈夫だろう」とも診療道具をしまいながら、そのようにおっしゃったのでした。



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