序一章 電子犯罪シンジケートとバラバラ殺人事件

第0-3話 社

━━━━━《美空みそら視点》━━━━━


 家に帰る前に、やしろに寄るとそうお父さまがおっしゃいましたので、一緒に社に寄ることになりました。


 社の特に鎮守ちんじゅもりの様子が気になっていたようです。


 社の管理は宮司ぐうじ御爺様おじいさま以下十数名で行っており、中規模の社になるといわれています。



 ウチの社は布引神社ぬのびきじんじゃといって創建年そうけんねん不詳ふしょうですが、かなり古くからあるといわれております。


 一説によると近くの生田神社いくたじんじゃと同じくらい古くからあるともいわれています。


 主祭神は久久能智ククノチ石長比売イワナガヒメで副祭神に木花之佐久夜毘売コノハナサクヤビメまつる、大きな鎮守の杜を持つ神社です。


 御神体ごしんたい樹齢じゅれい四千三百年と伝えられるクヌギ霊木れいぼくで虫が寄り付いてもれないほど、生命力がみなぎっているそうです。



 この鎮守の杜に勝手に入る不心得者ふこころえものが後を絶たないため、警備システムは様々なものの中からADvancedSecurityアドバンスドセキュリティ社の警備システムを採用しているのですがそれでも心配は尽きないようです。



 夕方になりましたが、社の鎮守の杜まで辿たどり着きました。


 お父さまは西側の神社の駐車場にいったん車を停車させます、私は先に降りました。


 お父さまはいつも通りの作法でハンドルを左に切り込み降りてから、車の扉を全てフルロックさせると防犯装置を作動させました。


 そしてお父さまは黒い防寒防水バルマカーンコートを着込みます、私も白い厚手のダウンロングコートを着込み黒単色のミリタリーリュックを背負いました。


 それから鎮守の杜のほうに向かって歩いて行かれるので私も後に続きました。


 といっても実家は直ぐとなりのブロックにあるため家に帰るのは楽なものです。


 神社の西側の入口に到着すると不思議と、心がざわめき立っていました。


 嫌な予感がしました。


 お父さまも同様の予感を感じ取った様で、直ぐにそこから鎮守の杜の中に分け入って行きました。


 私もそのあとに続きます。


……


 そして十分もたったくらいでしょうか、鬼門きもん方角ほうがくちかくまで来ていました。


 鎮守の杜の鬼門の方角に鬼火おにびを見つけました、数はそう多くありませんが二つから三つは浮いているようでした。


 鬼火の中心に輪郭りんかくさだかではない何かが居ました。


 お父さまがおっしゃいました。


美空みそら、あれ位ならば相手ができるはずだ。やってみなさい」と優しい静かな口調で鬼火のほうを見ながらおっしゃいました。


 どうやら低級な霊が何かを形作っている最中さいちゅうのようで、まだこちらには気付いていないようです。


 今なら術で一纏ひとまとめに処理できるはずです。


 距離きょりは十メートル程度で、距離的には問題ありませんでした。


 装束しょうぞくまとわずみそぎも行っていないので少し威力が落ちるかとは思われましたが、今こそ修行の成果せいかを見せる時です。



 集合している霊が相手なので、斬りつけて散らしてしまう訳には行きません。


 一撃で射貫いぬくく必要がありました。


 霊弓れいきゅうというじゅつの出番です。


 弓を引くイメージをつむぎながら、弓を引く動作と共に精神を集中します。


 あとは対象をしっかりととらえるだけでした。


 心は静かにおさめ弓を射るイメージを創り出します。


 そして静かに精神の矢を放ちます。


 次の瞬間、霊に精神の矢が命中し、霊が砕け散るイメージが現れました。


 それと同時に輪郭の定まっていない霊たちは、散った様です。



 鬼火も、もう居ませんでした。

 

 近ずいて何があるのかを、確認する事にしました。


 らして終わりではないからです。



 その場から少し、二メートルくらい離れたところに行くと何やら箱が置いてありました。


 お父さまはふところから銀色ににぶかがやく使い込まれたタクティカルライトを取り出し、その箱に光を当てました。


 何があるのか、確認しているようでした。


 大きさはビールケースぐらいで三辺の合計が一点五メートルくらいある、大きな少し汚れてところどころに黒いシミの付いたダンボール箱でした。


 あらっぽく紙テープらしきものでふうはされていますが、少しダンボール箱の底辺側の角が目に見えてつぶれていました。


 お父さまは一旦いったん、タクティカルライトを消しました。


「ここからは警察に任せよう」とお父さまが静かにでも強い口調でおっしゃいました。


「美空よくやった。術の紡ぎはまだ荒いが、随分ずいぶん上手くなったな」と優しくしっかりとした口調で優しい表情になってめてもらえました。


「あの箱の中身は、お前はまだ見ない方がいい、けがれにふれることになる」とお父さまが厳しめな表情で静かにおっしゃったのです。



 お父さまはすでに箱の中身が何であるか、分かっておいでのようでした。


 私も、感覚が鋭い所があるのです。


「ひょっとして御遺体ごいたいですか? 死臭ししゅうのような感じがします」と私も静かに答えました。


「そうだ、とりあえずここから先は警察の縄張なわばりだからな」としっかりとした口調でおっしゃり、お父さまがスマートフォンを取り出しました。


 警察に、電話をかける様です。



「美空、御爺様を呼んで来なさい」と電話をかける前にはっきりとおっしゃいました。


「はい」と私もはっきりと答え呼んできます。


……数分後


「こちらです御爺様」と私が静かに先導し御爺様と一緒にやってきました。


「美空や大丈夫じゃったか?」と御爺様が優しく柔らかな表情で頭を撫でてくださいました。


「はい大丈夫でした」と私はしっかりとした口調で答えました。


 お父さまが警察の方と、スマートフォンで話されていました。


「……はいそうです。布引神社で死臭と思われるにおいのする不審物を発見しましたので、通報した次第です。鎮守の杜の中の北東側ですが、スマートフォンの位置情報いちじょうほうを合わせて送りますので、はい、そうです、禰宜ねぎです。はい、まだ中身は確認しておりません。取り急ぎ実調じっちょうをお願いいたします」とお父さまがはっきりとした口調でおっしゃいました。


……数分後


 数分後近くの交番から二名程と、パトカー二台程がやって来たようでした。


 神社の入り口付近が、パトカーが留まったため少し騒がしくなりました。


「こちらです、第一発見者は私です」とお父さまがしっかりとした口調でおっしゃいました。


「そちらの箱から死臭がするのです」とさらに同じ口調でおっしゃいました。


「娘は一緒にいただけです」とはっきりとした口調でおっしゃったので、私は特に何事もなくすんだのでした。


 父は嫌な予感がしたというのと、近衛中将このえちゅうじょう拝命はいめいしておりますと名乗ったため、警察の方が敬礼こそしませんでしたが逆にかしこまってしまったくらいでした。


 それほど権威けんいのある職にいておりすごい、と思わせるものでした。


 その代わり日々重責ひびじゅうせきに耐え仕事をしているということが、少し分かりました。


 お父さまの背中が、そのようにかたったのです。


……


 次の日に分かった事ですが、新聞に『また、バラバラ死体発見』の文字が一面に大きく踊っていました、やはり被害者の御遺体が入っていた様です。


 次の日の昼には、もう帰り支度じたくを始めたお父さまとお母さまがいました。


「もう京都に帰らねばならない、仕事が待っているんだ」とお父さまはしっかりとした口調で厳しめの表情で荷物と格闘して荷を詰めながらおっしゃいました。


「美空には苦労をかけるけれども、きっとあなたにも分かる時が来るわ。でも気を付けなさい何があるか分からないから、昨日の事件に絡んでしまったのでしょう。運命の糸は残酷ざんこくですからね、注意しなさい」とお母さまはしっかりとした口調で私に向かって、難しそうな顔でおっしゃいました。



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