第15話

 どうしてこんな時にお腹がなるのかと溜め息を吐いていたら、彼が、リアムが楽し気に笑っている。

 思わず恨めし気に見つめてしまったら、彼は慌てて


「っとすまない。ああ、話しても大丈夫か?」


 はい、と言おうとして、足の向きでも変えようかと思ったら、痺れている事に気が付いた。

 足が麻痺してるんじゃないかってくらい、感覚が無いんですけど……



 色々衝撃的過ぎて、どうやら意識が向いていなかった足の異常事態に七転八倒……

 足を動かしたら血が回ってきたからかジンジン、ビックンビックンと何かが流れているのが感じ取れて、痛いし動けないしで、何だか無性に情けない……

 スープ皿を必死に死守しているのが奇跡だ。


「……大丈夫か? 話している間は足を自由に動かしても良いが、もう少し待とうか……? スープ皿は預かって置くから」


 彼が心配そうに私を見てからスープ皿を持ってくれているのが、申し訳ないやら恥ずかしいやら居た堪れないやらで、ただただ赤面している状態……

 赤面しているのは血が廻っているからっていうのもあるかもしれないなあとか思ったりして、恥ずかしさから逃げている。




「――――あの、もう、大丈夫、だと思います……」


 しばらくして足のジンジンした感じが落ち着いてから、恥ずかしくて下を向きつつリアムに申し出る。


「良かった。スープは温めておいたから、冷えてはいないはずだ」


 優しく微笑みながらスープ皿を差し出す彼に、嬉しいやら、自分が情けないやらで複雑になりながらお礼を言う。


「ありがとうございます。あの、お気遣いもありがとうございます」


 彼は苦笑しながら


「気にしなくて良い。さて、何から話したものかな……」


 そう言いながら眉根を寄せて、何か決めたのか肯く。


「そうだな。先ずはこの世界の言語から話そうか。この世界にある言葉は大きく分けて四つある。内二つは普通に暮らしていたらまず必要はないから、これは置いておく。一般的に普及していて日常的に用いられている言語は二つ。エトルリア大陸語とシビュラ大陸語だ」


「エトルリア大陸語と、シビュラ大陸語?」


 私がオウム返しにすると、彼は肯き、


「そう。エトルリア大陸で使われるエトルリア大陸語と、シビュラ大陸で使われるシビュラ大陸語だ。基本的にこの二つがこの世界で主に使われている言語だな」


 大陸が違うから言葉が違うのかな?

 そういう事ってあるよね。

 エトルリア大陸とシビュラ大陸に国ってどれくらいあるのかな……?

 国が違うと言葉が違う事の方が多いと思うんだけど……


「あの、エトルリア大陸とかシビュラ大陸とかにも、色々国ってあるんですか?」


 彼は苦笑しつつ


「それはあるな。ただ、エトルリア大陸もシビュラ大陸もそれぞれの大陸が一つの国だった事があるから、言葉が基本的に同じなんだ。昔は今残っている四つの言語以外も色々あったらしいとは聞いている」


「そういう事もあるんですね……」


 ローマ帝国とかみたいな感じだったのかもしれないなあと納得。

 世界が違えば違う事もあると思うし。

 同じこともあるかもしれないけど、そう言う事もあるって考えていた方が良いかも。


「それで、私が君の言葉が分かる理由だが……この世界には、神の加護を受けた人間、俗に”神の愛し児”と言われている人間が居るんだ。私もその一人で、彼等は様々な能力が与えられているが、その能力の一つに言語に困らないというのがある。つまり言葉で不自由する事が無い。基本的にこの世界にある四つの言語が全て分かるんだが、それが異世界の言葉にも適用されているという事だろうな」


 彼の言葉にビックリを通り越して唖然とするしかない。

 そんな人も居るんだなあと言う感想しか今は分からない状態。

 だって驚きすぎて、まず思ったのは、異世界だといっても、やっぱり同じ人間でも格差ってあるんだなあとかだったり……



 なら今の私の言葉が分かるのは、彼みたいな神の加護を受けた人間、えっと、神の愛し児だっけ? そういう人だけって事だ……



 そう思ったら、何だか目の前が真っ暗になった気がするやら、希望が萎れていくやら、心は複雑にグルグルしていた。

 それでも何とか声を絞り出す。


「あの、後天的に神の加護とかを受ける事とか、その、”神の愛し児”に成れたりって、出来ますか……?」


 彼以外と言葉が通じないのが不安で、生きていけるのかとか、帰れるのかとか、どうしたら良いんだとか、ごちゃごちゃと考えてしまって、楽な方に考えが流れたのは否めない。

 だって今から新しい言語を一から覚えるとか出来るのかと言われたら、習得するまでどれくらいかかるかも分からないし、それまで生活できるのかとか、帰る方法だって見つけないととか思うと、やっぱり言葉に困らない方が良いに決まっている。



 彼の返答を、私は胃が捩れそうな緊張の中で待っていた。

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